第370話
「……」
「レイン、どうかしたかな?」
夕飯を終えて、ジークとノエルがキッチンで後片づけをしているなか、残りの5人は居間でゆっくりとしているのだが、レインは何か考え込んでいるように見える。
カインは真面目なレインが何を考えているかだいたいの察しはついているようだが、わざとらしく問う。
「レギアス様の頼みとは言え、今の状況で、どうして、面倒事を受け入れるんですか?」
「そうですわ。もしかすると襲撃者が来る可能性もありますのに」
レインは先代領主の隠し財産の件もあり、ミレットを屋敷に置くのは反対なのだが、既に断れない状況ではあるものの、文句くらいは言いたいようで大きく肩を落とす。
その言葉にセスは力強い味方を得たと思ったのか大きく頷いた。
「そうね。実際、レインは騎士だし、自分の身は守れるけど、セスさんとミレットさんって大丈夫?」
「そうですね。正直、睡眠中に仕掛けられれば反応できる自信はありません」
「いや、どんな達人でもなかなか睡眠中に襲われたら対処できないから」
フィーナは夜中に襲撃がないとも言えないため、セスとミレットへと視線を移す。
セスはカインの前で弱音を吐きたくないのか意地を張り、問題ないと言い、カインはその様子に苦笑いを浮かべる。
「と言うか、襲撃で1番、危ないのはノエルだ。ノエルには運動神経が存在しないからな」
「そ、そんな事ないです。わたしにだって、運動神経はあります」
その時、食器の片付けを終えたジークとノエルが人数分のお茶を持って居間に戻ってくる。
居間の声はしっかりと聞こえていたようでジークはセスやミレットよりもノエルが心配だと言い、ノエルはそんな事はないと声を大にして否定するがノエルの運動神経のなさを知っているミレット以外は眉間にしわを寄せた。
「どうして、そんな反応なんですか!?」
「それはちょっと、答えるのが酷だね」
「それは、どう答えたら良いんでしょうね」
ノエルは周りのメンバーの反応に驚きの声を上げると彼女の様子にカインは苦笑いを浮かべ、セスはノエルを傷つけたくはないものの、彼女の運動神経のなさを目の当たりにした事があるため、眉間にしわを寄せている。
「で、実際はどうするつもりなんだ? 見張りを立てるのか? と言うか、今更だけど、隠し財産って、どこに隠してあるんだ? と言うか、運びこんできたのか?」
「ひ・み・つ」
「……気持ち悪いから止めろ」
ジークは持ってきたお茶を配り終えるとソファーに腰掛け、隠し財産を狙った襲撃者への対策もあるため、カインに隠し場所を訪ねる。
その言葉にカインは人差し指を唇にあて、答えるとその様子にジークは大きく肩を落とした。
「まぁ、運びこんだって言ったけど、隠し財宝は元領主のお屋敷に置いたままだよ」
「それって、盗みに入ってくれって言ってるようなものじゃないの?」
カインは隠し財宝は仕事場として使用している旧領主の屋敷に隠してあると答え、フィーナは呆れたように肩を落とす。
「それなら、この屋敷には襲撃者さん達は来ないって事ですか?」
「……そうだと良いですわね」
ノエルはどこかほっとしたようで胸をなで下ろすが、セスは隠し財宝の位置を知っているようで眉間にしわを寄せ、両腕を組んでいる。
「何かあるんですか?」
「……ええ」
セスの様子にノエルは警戒しながら、彼女に尋ねるとセスは小さく頷いた後にカインを睨みつける。
「ここにこれがあるからね」
「カギ? 屋敷の中に侵入くらい考えていたら、カギ開けくらいはできるんじゃないのか?」
カインは胸元から鎖を通したカギを取り出して見せるが、ジークはカギ1つ持っていたとしても意味がないのではないかと首をかしげた。
「ただのカギであればと言う事ですね」
「そう言う事です」
「もったいぶらずに結果だけ話しなさいよ。長いのよ」
ミレットはカインの持つカギに何か心当たりがあるのか、小さく頷くとカインは楽しそうに笑う。
しかし、フィーナは前置きが長い事もあり、飽きてきたのか飲み干したカップを皿の上で回している。
「まったく、説明には順序と言うものがあるんだ。少しは落ち着いて聞くと言う事を覚えろ」
「いや、カインの話は長いし、本筋から外れて行く事も多いから、フィーナの言いたい事もわかる」
フィーナの様子にカインは大きく肩を落とすとジークは苦笑いを浮かべながら、フィーナの味方をするとカインと話をする時にいつも振り回されているセスとレインはジークに賛同の意思を見せる。
「つまらないね」
「良いから、説明」
「はいはい。簡単に言えば、このカギは魔導機器なんだよ。いくら、手先の器用な人間がいようともこのカギがなければ閉じたドアは開かない」
「魔導機器ですか? 普通のカギに見えますけど」
カインはつまらなさそうに口を尖らせた後にカギが魔導機器だと告げた。
ノエルはただのカギにしか見えないようで、首を傾げている。
「魔導機器って言ったって、複製品を作るとか?」
「まぁ、できなくもないけど、色々と面倒だよ。魔導機器だって気付かなければ、絶対に開かないカギ穴を覗き込んで必死に開けようとするんだ。その姿はきっと滑稽だろうね」
「……性格悪いな」
カギがなくても、魔法が使用できれば隠し財宝がある部屋まで行けるようだが、カインの様子を見ていると絶対にドアを開けても何かあるのは明らかであり、ジークは大きく肩を落とした。
「なら、ジーク、聞くけど、俺の優しい罠とアーカスさんの罠、どっちが良い?」
「少なくともお前の罠も優しくはないが、アーカスさんの罠は下手をしたら死人が出る」
カインもフィーナと一緒でアーカスの罠を使う事を考えたようだが、やはり、アーカスの罠は危険だと判断されており、ジークは眉間にしわを寄せる。
「あの、やっぱり、襲撃者さん達はこの屋敷を襲ってくる可能性が高いんですよね?」
「そうだね。今日仕掛けてくるかはわからないけど、ドアが開かないとなるとこっちに来る可能性もあるからね。と言う事で、ジークとレインは俺と交代で見張りをやって貰うから」
「わかりました」
「仕方ないか?」
カインは今日の襲撃は可能性が低いと思っているようだが、見張りは立てるつもりのようでジークとレインに指示を出す。