第369話
「レイン、フィーナ、紹介するよ。ミレット=ザンツ様、レギアス様の養女になるんだけど、レギアス様が俺に嫁がせてみないかって」
「はい。カイン様に釣り合うように努力しますので、よろしくお願いします」
「カイン=クローク、おかしな事を言うのは止めなさい!! ミレット様もカイン=クロークに付き合う必要などありませんわ!!」
フィーナが戻って全員が集まり、夕飯の前にカインはフィーナとレインにミレットを紹介するが、その紹介には悪ノリも混じっており、既にカインとしっかりと打ち合わせしていたようで真剣な表情でその言葉に続く。
その様子にセスは冗談でもミレットにカインを取られるのは我慢できなかったようで声を張り上げる。
「……ジーク、ミレット様って、ずいぶんとノリが良いのね」
「俺が思うに同類だ」
「荷物整理の時にしっかりと打ち合わせをしていました。それも……」
フィーナはミレットがフォルムに来た目的をジークから聞いているためか、3人の様子に眉間にしわを寄せる。
ジークは面倒な人間が増えている事を改めて、実感したようで大きく肩を落とし、ノエルは荷物整理の時のカインとミレットを見ていた事もあり、苦笑いを浮かべるも、2人の悪質な冗談はまだ終わっていないようで大きく肩を落とす。
「まだ、何かあるの?」
「はい。あの……」
「ターゲットはレインか?」
ノエルの様子にフィーナは2人の冗談が終わっていないと感じたようでノエルに聞くと、嘘の吐けないノエルの視線はレインに向けられた。
ジークは彼女の視線に気が付き、レインに何が起きるか心配するが、下手に2人を止めて自分に矛先がきても面倒だと思ったのかレインに何かを言おうとする事はない。
「コーラッドさんも怒っているから、冗談はここまでにしようか?」
「そうしてください」
いつの間にか、セスはカインの胸倉をつかんでおり、カインはわざとらしい笑顔を見せると彼女の手を放し、本題に戻そうとするとする。
レインは1人だけ状況がつかめていない事もあり、大きく頷く。
「レギアス様は俺にじゃなく、レインにどうかって、いくら領主と言っても平民出のぽっと出とは縁戚結んでも仕方ないから、ファクト家は家名、レインの将来性を考えても良い縁談ではないかって」
「至らないところもあるとは思いますが、よろしくお願いします。レイン=ファクト様」
「へ?」
カインはレギアスがミレットの相手に考えていたのはレインだと言い、ミレットはレインに頭を下げた後に恥ずかしそうにうつむく。
レインは状況が理解できないようで間の抜けたような声を出すと状況がつかみ切れていないようで助けを求めるようにジークやフィーナを見るが、矛先が自分達に向けられるのは遠慮したい2人はレインと目を合わせる事はない。
「……カイン=クローク、ミレット様、いい加減にしませんか? 話がまったく進みませんわ」
「あれは嫉妬ね」
「だろうな。カインとミレット様、相性良すぎだし」
どうして良いのかわからないレインの様子と、そのレインを見て笑いをこらえているカインとミレットを見て、セスは苛立ちが隠せないようでカインを睨みつけた。
セスの姿に彼女の感情を察したようで、ジークとフィーナは眉間にしわを寄せる。
「はいはい。わかりましたよ」
「冗談なんですか?」
レインをからかうのを邪魔されてしまったため、カインはつまらなさそうに言う。
カインの様子にレインはほっとしたのか胸をなで下ろす。
「それはそれで少し失礼な気がしますけど」
「す、すいません!? そう言うわけではないんです」
しかし、ミレットはまだレインをからかうのを止めるつもりがないのか、小さく頬を膨らませる。
レインは慌てて首を横に振り、その様子は完全にミレットの遊び道具になっているのが明らかで、ノエルは助けられなかった事もあり、申し訳なさそうな視線をレインに向けている。
「まぁ、これ以上、引っ張って、夕飯が冷めるのももったいないから、フィーナ、レイン、改めて、紹介するよ。ミレット様はレギアス様の指示でフォルムで隣国の医術や薬術について学ぶようにと言われたんだ」
「そうなんですか? しかし、いきなりすぎませんか? それとも、私にだけ秘密にしていたわけですか?」
カインは1度、大きく息を吐いた後、真剣な表情になり、ミレットがフォルムに来た理由を話す。
レインはその言葉に1度、頷くもレギアスの後継者ともいえるミレットが何の前準備もなく、フォルムにくる事などあり得ないと思ったようで眉間にしわを寄せる。
「それに関して言えば、俺達も今日、知らされたからな」
「まったくだね。事前にわかっていれば、レインにはばれないようにきちんとミレット様の住居を用意しておくよ。それに時間があればもっと壮大な罠を用意しておく自信があったんだ。ミレット様とは話も合いそうだったし」
「そうですね。今回は時間が足りませんでした。フィリムさんからカイン様の性格は聞いていたので、事前に1度、打ち合わせをしておくべきでした」
レインの言葉にジークは気まずいのか頭をかき、カインとミレットは時間が足りなかった事を後悔しているようでつまらなさそうに言う。
「事前に出会っていなくて良かったですね」
「まったくですわ。そして、ジーク、あなたは悪い予感を口に出すのを止めなさい。迷惑ですわ」
「……俺のせいじゃないです。カイン、悪いけど、紹介も終わったみたいだし、俺は食うぞ。後片づけもあるしな」
カインとミレットはジークの言う通り、同種の人間である事がレインへの対応で丸分かりであり、ノエルは顔を引きつらせるとセスは早くからカインとミレットの事に気が付いたジークを睨みつける。
ジークはセスからの言いがかりに納得がいくわけもないが、今の彼女に何か言っても無駄だと判断したのか、大きく肩を落とし、一言だけ言うとカインに声をかけてから、少し冷めてきた夕食を口に運ぶ。
「ん。そうだね。このままだとフィーナも限界みたいだから、レインをからかうのは後にしよう」
「……からかわない方向でお願いします」
フィーナの空腹はすでに限界近くなっているようで、カインは彼女の様子に苦笑いを浮かべると遅い夕食が始まる。