第368話
「あの、以前から思っていたんですが、カインもですが、ジークもフィーナさんへの評価が低すぎませんか?」
「ん? 評価が低い? 妥当だろ」
レインはフィーナと行動する事で、普段のジークやカインの彼女への評価が適正ではないと思ったようであり、その疑問を口に出す。
その言葉にジークは意味がわからないのか首を傾げながら、妥当だと言う。
「本当にそう思ってますか? 私に見る目がないのかも知れませんが、ジークもカインも現実的であり、お世辞などは言いませんし、身分が高かろうが使えない人間と判断すれば使えないと言う人間です」
「……俺、そこまで酷い人間か?」
「いえ、そうではなくて」
「まぁ、冗談だけど」
レインは自分なりにジークやカインを分析しているようであるが、ジークへ対する気づかいは不足しており、ジークは大きく肩を落とす。
ジークの様子にレインは慌てて言葉を探そうとし、ジークは慌てるレインの様子に苦笑いを浮かべた後に真面目な表情をする。
「使えないって言うわりに一緒に行動したりするのもおかしいって言うんだろ?」
「はい。カインは兄妹ですし、関わらない事はできないと思いますが、ジークは本当に邪魔だと思うなら無視する事もできるでしょうし」
「レイン、お前は田舎を舐めているのか?」
レインはジークならフィーナに関わらない選択肢もあったのではないかと言う。
その言葉にジークの眉間にはしわが寄るが、その様子はどこかわざとらしい。
「舐めているわけではないですけどね」
「実際、王都みたく同年代の奴らがいれば関わり合わなかったと思うけど、村だと子供が少ないからそうもいかないわけだ。ウチは知っての通り、ばあちゃんだけだったし、仕事の邪魔だって言われれば家の外にいるしかなかったし」
ジオスは子供が少ない事も関わっており、改めて、付き合いが長いと思ったようで苦笑いを浮かべる。
「あいつに聞かせると調子に乗るから、聞かせたくないんだよ。きっと、カインも同じ事を思ってると思うんだよな……たぶん、子供の頃から山の中を走り回ってたフィーナの運動能力は高い。正直、俺より、上だと思ってる。俺は非力だし」
「それは戦い方の違いだと思いますけど、しかし、認めているなら、素直に言ってあげたらどうですか?」
ジークはフィーナの気配がない事を確認するとフィーナの地力については認めている事を話す。
レインはその言葉に評価できるところがあるなら、評価してやるべきだと言うが、ジークは困ったように頭をかいた。
「いや、あいつの性格上、1度でも誉めると調子に乗る。村に子供が少なかったから、村の年寄り連中に甘やかされてきたからな」
「それに冒険者だって言うなら、周囲を見る事を覚えないといけないからね。あの甘えた性格のせいで、今は面倒事はジークか俺に丸投げすれば良いと思ってるからね。それじゃあ、ダメなんだよね」
ジークはフィーナの性格を考えると下手に誉めるのは危険だと判断しているようで大きく肩を落とした時、物音1つ立てずに2人の背後にカインが立ち、2人の耳元でフィーナの成長のためだと笑う。
「カ、カイン!?」
「……本当にお前はどこから湧いて出てくるんだ?」
背後から聞こえたカインの声にレインは驚きの声を上げるが、ジークはどこかでカインの行動に諦めが入っているようで眉間にしわを寄せた。
「いや、ジークとレインがウチの愚妹の事で盛り上がってるから、ノエルが他の女の話はしないでってジークに嫉妬のこもった視線を向けてるから、止めにきたんだけど」
「そんな視線、向けていません!?」
カインは楽しそうに笑うとキッチンの外で様子をうかがっていたノエルに話を振るが、その振り方はどこかおかしく、ノエルは驚きの声を上げる。
「ほら、可愛い彼女が嫉妬してくれてるんだ。抱き締めて、俺が見てるのは君だけだよ。とか、気の利いたセリフでも言ってきたら、どうだ?」
「……そんな恥ずかしいマネできるか?」
「えー、ノエルは期待に満ちた目で見てるのに」
ノエルの反応にさらに追い打ちをかけるようにジークをからかい始め、ジークはカインに引っかき回されたくないようで頭を押さえて言うが、ノエルは少し期待したようで顔を赤らめもじもじとしており、カインはジークの肩に手を置き、目で行ってこいと言う。
「カイン様、ジークとノエルをからかうのはそれくらいにしませんか?」
「そうですね。ミレット様が言うなら、ここまでにしましょう。周りに観客がいると言い難いでしょうし」
「……」
カインの様子にミレットは仲裁に入り、カインはミレットの顔を立てようとしたようで苦笑いを浮かべて、彼女の言葉に頷いた。
レインはミレットがカインの屋敷にしばらく同居する事を知らないため、彼女を見て何かあると思ったようで警戒するような視線を向ける。
「レイン、おかしな空気を出さない。ジーク、夕飯はどうなってる?」
「あー、フィーナ待ち、レインは覗き疑惑があるから、俺は見張り」
「だから、覗きません」
カインはレインに警戒を解くように言った後にジークに夕飯の準備ができているかと聞く。
ジークは夕飯自体の準備は終わってると言うと、フィーナが浴場に行ってからそれなりに時間が経っているため、食器の準備を始め出す。
「ジークさん、お手伝いします」
「あぁ、頼む。ほら、そこに突っ立ってるなら、ノエルがよそったものを運べよ」
ジークは鍋のそばに食器を運ぶとノエルは食器に夕飯を盛り付けて行き、ジークはキッチンの中にいるカインとレインを追い払うように言う。
「ジーク、俺、一応、領主」
「領主だって言うなら、食事係でも雇え、今更だけど、何で、フォルムまで来て俺が食事当番なんだよ」
カインは夕飯を運ぶ事には抵抗はないのだが、冗談めかして領主である事を主張し始める。
ジークもその言葉を冗談だと理解しながら軽口を叩くが、そこでいつの間にか料理係を押し付けられた事を疑問に思ったのか眉間にしわを寄せた。
「レイン、行くよ」
「は、はい」
「ミレット様の紹介はフィーナが来てからにしよう。2度も同じやり取りをするのも面倒だからね」
カインはジークの言葉など聞こえないと言いたげにレインを急かしてキッチンを出て行き、その様子にジークは納得がいかないようだが、文句を言ってもカインに丸めこまれる気がしたようで何も言わずにノエルが盛りつけた夕飯を運んで行く。