第366話
「……厄介な人間が増えた気がする」
「どうかしましたか?」
「セスさん、お帰りなさい。いや、ちょっとね」
夕飯の準備もあり、ジークはキッチンに立ち、部屋の片付けをしながら見ていたミレットの姿を思い出し、小さく肩を落とした。
その時、セスがレギアスを送り届けて屋敷に戻ってきたようでジークに声をかけ、ジークは振り返り苦笑いを浮かべる。
「そうですか? ……カイン=クロークとミレット様はどうしたんですか?」
「えーと、物置の片づけをしています」
「……それは立場的にどうなんでしょうね」
居間に来客であるミレットと屋敷の主であるカインがいないため、セスは首を傾げる。
ジークは言いにくそうに2人が片付けをしている事を告げ、セスは身軽な2人の様子に眉間にしわを寄せた。
「そうなんですよね。それと……」
「何かあるんですか?」
「勘なんですけど……ミレット様はカインと同種の人間な気がします」
「なぜ、そのような答えを出したのですか?」
ジークはミレットを観察していた中で、ミレットにある種カインと同じものを感じたようで眉間にしわを寄せた。
セスはジークの出した答えが信じられないようで小さく肩を落とし、ジークが何故、そのように思ったのかと聞く。
「いや、片付けの途中で、カインがミレット様に今のフォルムの状況やギドやゼイ達の事を説明したんですけど」
「そうですね。必要な事ですね」
「……レインには隠してあるって言ったら、楽しそうに笑って全面的に協力するって言ってました」
「それは確かにカイン=クロークと同種の匂いがしますわ」
カインはレインに魔族と共存を考えている事やフォルムに魔族との混血が多く住んでいる事を隠している事を説明し、レインに話すにはまだ早いと告げると、ミレットは直ぐに同意を示したようである。
その時のミレットの顔はかなり喜色に満ちていたようであり、その顔を思い出したジークは大きく肩を落とし、セスはジークの言葉に彼と同じ不安を抱いたようで眉間にしわを寄せ、腕を組み考え始め、ジークは彼女の様子に話しかけても反応は薄いと思ったようで夕飯の準備を続けて行く。
「ただいま。ジーク、今日の夕飯は何? ……セスさんは何してるの?」
「セスさんは今、考え事中だ。後、フィーナ、何度も言わせるな。帰ってきて、直ぐにここに顔を出すな。お前は外で仕事をしてるんだから、埃が舞うだろ」
しばらくするとフィーナが戻ってきたようで、キッチンに顔を覗かせ、キッチンの中で腕を組み、ぶつぶつ言っているセスの様子に首を傾げた。
彼女は今日もレインやゼイ達とともにフォルム周辺を歩き回っており、彼女の身体は誇りにまみれている。
ジークはフィーナの様子を見て、ため息を吐くと彼女を追い出すように手を振る。
「先に汗を流しに行くと覗かれるかも知れないでしょ」
「すいません」
フィーナは先日、レインに覗かれた事もあり、頬を膨らませて自分は後にすると言うと、レインが申し訳なさそうな表情でキッチンへと顔を覗かせる。
「……まだ、許してなかったのか?」
「感情は別問題よ。だいたい、ジークだって、何かの間違いでレインがノエルの裸を覗いたらイヤでしょ」
ジークは覗き騒ぎは終わった話だろうと言うが、覗かれた側としては再発は防ぎたいようでため息を吐くと、被害者がノエルだった時を考えろと言う。
「そんな事をしたら、俺はレインを殺すな」
「……真顔でそんな事を言わないでください。だいたい、あれは事故だと」
「流石に冗談だから、レインはそんな事はしないだろう」
「2度としませんよ。私は先に汗を流してきます」
ジークは被害者がノエルだった場合を考えたようで、その目には黒い物が宿り、レインはいつもとは違うジークの様子に顔を引きつらせる。
ジークは冗談だと笑うがその目は笑っておらず、レインは首を大きく横に振り、もうしないと言うとこれ以上、覗き疑惑をかけられたくないため浴場に向かって行く。
「ジーク、おなか減った。簡単なもので良いから作って」
「我慢しろ。また、この間みたいに変な時間に騒がれても面倒だ」
「何よ。多めに作ってるじゃない。これ、貰った」
「おい……ったく」
レインがいなくなり、フィーナは小腹が減ったからジークに何か作るように言うが、先日の件があるため、我慢するように言う。
フィーナは我慢できないようでジークの背後に回るとか夕飯を覗き込むとおかずの1品に目を付けたようで素早くかすめ取った。
ジークは彼女の行動に慌てて、フィーナの腕をつかもうとするが既に遅く、おかずはすでにフィーナの口に収まっている。
「何りょ? 文句ありゅ?」
「文句あるから言ってるんだろ。と言うか、口に物を入れたまま話すな」
「……良いじゃない。ジークだって、わかってたから多めに夕飯を作ってたんでしょ?」
ジークはフィーナの様子に大きく肩を落とすと、フィーナは口の中にある物を飲み込み、細かい事を言うなとため息を吐いた。
その様子からはジークが自分のために夕飯の量を多めにしてくれていると勘違いしているようである。
「違う。今日から、1人、この屋敷に住む人間が増えるんだ」
「増える? ……ドレイクって、そんなに早く子供ができるの? 今朝までは何ともなかったのに?」
「ジーク=フィリス、あなたはノエルに何をしたんですか!!」
ジークはミレットがしばらく同居する事を伝えようとするが、フィーナは何故かおかしな勘違いをしたようで眉間にしわを寄せ、ジークを睨みつけると彼女の言葉に先ほどまで頭をひねっていたセスがなぜか反応し、ジークを指差し怒鳴りつけた。
「……フィーナ、お前のそのぶっ飛んだ答えはどこから出てくるんだ? 後、セスさん、面倒なんで居間で考え込んでてください。夕飯の準備の邪魔です」
「やっぱり、違うわね。セスさん、考え事なら少しあっちに行ってて」
「ま、待ちなさい!? ジーク=フィリス、白状しなさい!!」
2人の反応にジークは大きく肩を落とすとセスを追い払いたいようで、調理を再開する。
その様子にフィーナは自分の考えた事が起きていないと確信したようで、増えたもう1人の事が気になるのかセスの背中を押して、1度、キッチンから出て行く。




