第365話
「こう言うのを見ると、カインとフィーナが同じ血を分けた兄妹だって事が信じられなくなるよな」
「そ、そうですね。カインさんはきっちりとしてますから」
ジークはフォルムに来てそれなりに時間も経っている事もあり、カインの屋敷の中は熟知している。
その中で比較的荷物の少ない部屋を選ぶが、中の荷物はきっちりと部屋の隅から積み重ねられており、その様子にジークは改めて、カインとフィーナが似ていないと眉間にしわを寄せて言うとノエルは苦笑いを浮かべた。
「とりあえず、始めるか? 取りあえず、寝るスペースさえ確保できれば良いから、早いところ終わらせるか、フィーナが戻ってくると煩くなるし」
「そうですね……あの、ジークさん」
ジークは荷物の量からも、少しの時間で全てを片付けるのは無理だと判断しているようで頭をかくと作業を開始する。
ノエルはジークの言葉に大きく頷くが、何かあるのか不安そうな表情をして彼の服をつかむ。
「今更、俺達が何か言っても仕方ないだろ。それよりは俺達が進む先を見誤らない事だろ。少なくとも、今、俺達はレギアス様に試されてる。小さな事でも、俺とノエルがともに過ごす事で、魔族と人族の偏見を拭えるようにさ。それに何となく何だけど、レギアス様はきっと、俺達の考えを理解してくれると思うんだ」
「何となくですか?」
「まぁ、勘なんだけどな。これに関してはなぜか自信があるな」
ノエルの不安そうな表情にジークはポンポンと彼女の頭を2度ほど叩くと笑顔でレギアスは協力してくれると言う。
その表情はノエルを励まそうとしているだけではなく、彼自身も良くわからないがレギアスは味方になってくれると確信めいたものがあるようである。
「こう言う時のジークさんの勘って当たるんですかね?」
「……悪い予感が当たるのは自覚がある。だけど、そう言われるのは若干、納得がいかないんだ。ただ、下向いても何も変わらないなら、顔を上げてた方が良いだろ。顔を上げてれば、ノエルの顔も見えるからな」
「そうですね。わたしもジークさんの顔が見えた方が良いです」
ジークの勘は悪い方で当たるのは定評があるが、良い方ではあまり経験がないようでノエルは小さく首を傾げると、ジークはため息を吐いた後に表情を和らげた。
ノエルはそんなジークの表情に顔を少し赤らめるとジークの考えに賛成だと大きく頷く。
「そこ、いちゃついてないで、片付けをする」
「ひゅう!?」
「ずいぶんとおかしな声を上げたね」
その時、2人の背後からカインの声が聞こえ、ノエルはその声に驚いたようで小さく飛び跳ね、彼女の様子にカインはイタズラな笑みを浮かべている。
「カイン、お前は何がやりたいんだ?」
「片付けを手伝いにきたんだけど」
「いや、お前、この屋敷の主なんだから、レギアス様とミレット様の相手をしてないとダメだろ」
ジークはノエルとの会話をカインに聞かれたと事に若干、気まずいのか、それを悟られないように呆れたようなため息を吐くが、付き合いの長いカインを誤魔化せるわけもなく、カインはジークの様子に小さく口元を緩ませ、手伝いにきたと言う。
しかし、彼の行動はやはり、領主と言う立場からは外れており、ジークは大きく肩を落とした。
「取りあえず、コーラッドさんにレギアス様をワームに送り届けて貰ったよ。ミレット様は」
「ここにいます。私もお手伝いします」
レギアスも多忙な人間のため、セスの転移魔法でワームにお帰りいただいたようであり、カインとともに片付けをする気のようでミレットは腕まくりをしている。
「……どうして、こうも自分達の立場を考えない人間が集まるかな?」
「そ、そうですね」
カインもミレットも立場的には片付けと言った作業などは使用人を使う立場にあるのだが、平民出身と言う事もあり、2人の行動には片付けくらいは自分達でするのは当然の事である。
ジークはミレットに片付けをさするのは申し訳ないと思っているようで困ったように頭をかく。
「使用人がいたらとは思うけどね。1人だと正直、必要ないから、そうだ。ミレット様、好き嫌いがあったら、ジークに話して置いてください。今の料理当番はジークなんで」
「ジークがですか?」
「まぁ、なぜかそうなってますね」
現在は屋敷にジーク達が住んでいるが、普段は自分1人のため、使用人を必要としていないと笑うと食事の事を思い出す。
ミレットはその言葉に小さく首を傾げるとジークは小さく肩を落とした。
「と言うか、俺達もいつまでもフォルムにいるわけじゃないんだ。ミレット様の住居と世話係は直ぐに手配しろよ」
「わかってるよ。と言うか、ミレット様は、ワームから使用人を連れて来なかったんですか?」
「先ほども申し上げましたが、私は平民出身ですし、レギアス様が私を後継に指名したのは先日ですし、まだ、正式な発表も認可も受けてはいません。それにレギアス様からカイン様を見極めるように指示も受けましたので、できればこのまま、このお屋敷でお世話になりたいと思います」
「この屋敷でね」
ジークとカインはミレットの住居について考え始めるが、ミレットはカインの屋敷で暮らす事を熱望しており、カインは困ったように頭をかく。
「何か隠さないといけないものがあるのですか?」
「隠しておくのも何なので、現在、この屋敷は先代領主の隠し財産があるので、襲撃者に狙われ中です。そんななかにミレット様をお預かりするのはあまりジーク達も良くレギアス様を連れてきたと思ってね」
「仕方ないだろ。何か言う余裕もなかったんだから」
カインの様子にミレットは彼へと疑うような視線を向ける。
カインは現状で言えば隠す方が危険だと判断したようでミレットに屋敷が狙われている事を話し、ジークは責められている気がしたようでカインとミレットから視線を逸らす。
「襲撃者ですか?」
「はい。ミレット様に被害が出ないように迅速に対処するつもりですが、安全が確保できないので本当はワームに戻っていただきたかったんですけどね」
ミレットは襲撃者と言う言葉に眉間にしわを寄せるとカインはいろいろと問題が重なった事に対処する方法を考えているのか小さく肩を落とす。