第364話
「まさか、ノエルがドレイクだとはな」
「申し訳ありません……」
ノエルがドレイクだと知っても何度も面識があり、いつもの彼女を見ているせいかレギアスの緊張感は長続きせず、苦笑いを浮かべる。
ノエルはレギアスの様子に肩を落とし、小さくなっており、その様子がさらにドレイクは恐怖の対象と言う概念から外れて言ってしまい、居間を柔らかい空気を包んで行く。
「……こんな事で良いんでしょうか?」
「まぁ、そう言う時もあるから」
「一先ずは納得しておきますわ。それに私達はまだ、レギアス様から答えを頂いていませんし」
セスだけはこの空気に納得が言っていないようで小さく肩を落とす。
そんな彼女の様子にカインは柔らかな表情を浮かべて、セスに声をかけるとセスはカインの顔から直ぐに視線を逸らし、緩んでいる場合ではない事を告げる。
「そうであったな……」
「……協力して欲しいとは言いません。ただ、しばらくは目をつぶっていて欲しいです」
「それはこの後の行動で判断してくれと言う事か……まだ、判断材料として少なすぎるのも一理あるのは確かだ」
レギアスはセスの言葉にもう1度、目を閉じるとカインの考えやわずかな期間とは言え、関わりのあったノエルの事を整理しているようにも見える。
その姿にカインはレギアスに向かって頭を下げると、レギアスはゆっくりと目を開き、彼の意図を察したようで小さく頷く。
「レ、レギアス様、あ、ありがとうございます」
「ノエル、落ち着け。だいたい、私はフォルムになど来ていない。私は今、ラースの屋敷で街道整備の話し合いをしているのだからな」
ノエルはレギアスの言葉から、協力してくれると思ったようで何度も何度も頭を下げる。
しかし、レギアスはあくまでも自分はカインやエルトの思想を聞いていないと強調し、首を横に振った。
「あ、あの、それは」
「あくまで、現在は中立、若干、魔族との共存には否定的って事です」
ノエルは意味がわからないようでカインとセスに説明を求めるような視線を向け、セスはいきなり処罰されない事だけははっきりしたため、胸をなで下ろしながら、彼女に説明をする。
「そうですか……残念です」
「暗い顔をしない。ノエルの頑張りしだいでレギアス様はこっちの味方になる可能性もあるんだから、半歩くらい前進したと思って良いよ」
ノエルは残念そうに肩を落とすとカインは苦笑いを浮かべながら彼女を励ます。
「カイン=クローク、しばらく、目をつぶっている条件はわかっているだろうな?」
「はい。ミレット=ザンツ様を預かる事ですね」
「うむ……ミレット、しっかりと学べ、この地でカイン=クロークと言う男が目指すべきものを」
レギアスは改めて、ミレットをフォルムで預かるように言い、カインは断れない状況だとすでに理解しており、素直に頷く。
レギアスはその後、ミレットへと視線を移し、自分の代わりにカインと言う男を見極めろと言う。
「わかりました。カイン様、改めて、お願いします」
「はい。こちらこそ、お願いします。ただ……1つ問題が」
ミレットはその言葉に小さく頷いた後に、カインへと視線を移し、深々と頭を下げる。
カインはミレットを快く迎え入れたいのだが、1つ困った事があると眉間にしわを寄せた。
「問題?」
「いきなりだったので、住む場所がありません。レギアス様の後継者となると使用人などを用意しないといけませんから」
レギアスはカインが何か問題を突きつけてくると思ったようで眉間にしわを寄せるが、カインはこればかりはどうしようもないと小さく肩を落とす。
「……そうですね。ミレット様はレギアス様の後継者ですからね」
「コーラッドさん、睨みつけないで頂けませんか? 元々、私も平民出身なのでこの屋敷のみですし、部屋も余っていませんから」
ミレットのために住居を用意すると聞かされたセスは、自分の時とは全く違う対応に納得がいかないようでカインを睨みつける。
カインはセスの様子に困ったように笑うが、屋敷内に部屋が余っていない事を話す。
「部屋ですか? 私は先ほども言いましたが、元々、平民の出身なので気にしません。使用人も必要ありません」
「……流石に、それじゃ、不味いだろ」
ミレットはカインが気にするような事はないと言うと、居間のソファーで寝るつもりなのか、ソファーの弾力を確認し始め、ジークは眉間にしわを寄せた。
「ジークとノエルを同じ部屋にして……」
「ダメですわ!!」
カインは付き合っている事もあり、ジークとノエルを同じ部屋にしようと考え始めたようだが、直ぐにセスが全力で否定する。
「なんで、コーラッドさんが否定するかな?」
「考えても見なさい。まだ、若い者達が1つ屋根の下にいるのです。ジークとノエルに当てられて問題があっては困ります!!」
「……むしろ、そこで問題を起こして早くまとまってくれよ」
「ジーク、お主も頭を悩ませる事が多いな」
カインはセスの様子に苦笑いを浮かべるが、セスは顔を真っ赤にして倫理的な問題があるとテーブルを叩いて主張する。
ジークはカインとセスの様子に何も進展しない2人の事で頭が痛くなってきたようで大きく肩を落とし、レギアスは苦笑いを浮かべた。
「はいはい。わかったよ。取りあえず、ミレット様をソファーで寝かせるわけにはいきませんので、住居が用意できるまで私の寝室をお使いください。ソファーは私が使いますから」
「……領主がソファーは問題があります。あなたは何を考えているのですか?」
カインはセスの様子に小さくため息を吐くと、自分がソファーで寝ると告げるが、その発言は領主として問題があり、ミレットはカインに威厳をもって欲しいと言う。
「知っての通り、俺も平民出身ですし、気にする必要はないです。それに調べ物をしていたりするとソファーでも机でも眠れますから」
「……その前に荷物を整理して部屋を開けようとか考えろよ。無駄な荷物を転移魔法でジオスに運ぶとか方法はあるだろ。少しでも片付けば、俺がそこで寝るから、俺の使ってる部屋をミレット様が使えば良い」
「わ、わたしも手伝います」
カインとミレットの間ではどちらがソファーで寝るかと言う話になっているようだが、ジークは大きく肩を落とすと物置になっている部屋を片付ける事を提案すると立ち上がり、居間を出て行き、彼の後をノエルが慌てて追いかけて行く。