第362話
「……当たって砕けて見るか?」
「カイン=クローク、降参するには早くないですか? だいたい、あなたらしくありませんわ」
カインは考えるのを放棄したのか両手を上げる。
その様子にセスは彼の行動に何か裏があると思っているのか、カインを睨みつけた。
「いや、フィリム先生が動いてるとしたら、レギアス様も全て知ってるような気がして」
「今更だけど、お前の師匠って、こっちよりの考えなのか?」
カインはフィリムとレギアスの関係からレギアスがすべて知ってる上で自分達を試している可能性が1番高いと思っているようで考えを切り替えたようで、その口元は新たな思考に突入したのか小さく緩み始めている。
ジークはカインの表情に自分へと矛先が向いているわけではないが、背中に冷たいものが走る。
それでも頭によぎった疑問を聞かないわけにはいかず、フィリムが魔族についてどのような考えを持っているのかを聞く。
「興味がない。と言うのが妥当だね」
「興味がない?」
「そのままだよ。どちらかと言えばアーカスさんよりの性格と言えば良いのかな? 自分の興味を示した物にしか興味がない。それ以外なら勝手にやっていてくれって感じ」
「それは知ってるか、知らないかまた微妙なラインだな」
カインはフィリムの顔を思い浮かべたようで小さく肩を落とすと、ジークはアーカスの顔を思い浮かべたようで眉間にしわを寄せた。
「ただ、フィリム教授ですからね」
「そこだね。俺やエルト様の考えに気づき、興味を持って協力する気になってくれてたなら、心強いけど、レギアス様まで引っ張り出すかどうかが微妙。立場がある人を巻き込むにはまだ道筋も立ってないんだからな。取りあえず、腹の探り合いになれば良いなぁ」
フィリムの興味がこちらに向かっているかどうかが1番重要な所のようで、セスは大きく肩を落とす。
カインは苦笑いを浮かべるとレギアスの背後に見え隠れしている師の影に頭をかきながら、居間に戻ろうと歩き出し、ジークとセスはカインの後を追いかける。
「お待たせして申し訳ありません」
「ずいぶんと時間がかかったな。ノエルが淹れたお茶が冷めてしまったぞ」
カインはレギアスに頭を下げるが、レギアスはカインを責めるような事を言うわけでもない。
「お茶、淹れ直してきますね」
「いや、ノエルもここに居て、レギアス様、単刀直入に聞きます。フィリム先生は何を企んでいますか?」
ノエルは新しくお茶を淹れ直そうと席を立とうとする。
カインはそんな彼女を引き止めるとレギアスの顔を真っ直ぐと見て、フィリムが何を企んでいるかと問う。
「なぜ、フィリムの名前がここで出てくるのだ?」
「なぜと言われれば、勘としか言えませんが、レギアス様とレギアス様のお父上の関係性とシュミット様が留守であるワーム。この状況でレギアス様がワームを留守にするわけにはいきませんからね。失礼だとは思いますが、ラース様ではレギアス様の背中を押すには考えが足りません。そう考えると何か企むような人間は私には1人しか思い浮かびません」
レギアスはフィリムの名前に首を傾げるが、カインは本来ならワームを留守にするわけにはいかないはずのレギアスを動かすのには背中を押した人物がいるはずだと言い、カインの中ではそれがフィリムだと言うのは確定している。
「なるほど、カイン=クローク、お主の中ではフィリムが黒幕と言うのは確定と言うところか? 弟子に疑われるとはあいつもかわいそうだな」
「いえ、むしろ、あの師匠ですから疑ってかかって当然だと思います」
「そ、そうですわね。フィリム=アイ教授ですから」
レギアスはカインの様子に小さくため息を漏らす。
しかし、カインとセスに取ってはフィリムだからこそ、疑ってかかれと言う考えが大きいようであり、2人の様子にジークとノエルは微妙な表情を浮かべている。
「あ、あの、ジークさん、カインさんとレギアス様は何の話をしているんでしょうか?」
「いや、カインが言うにはレギアス様の後ろにはフィリム教授が居て、フィリム教授は全てを知った上で、レギアス様とミレット様をフォルムに送りつけてきたって事だ」
「そうなんですか? でも、そんな事をして何の意味があるんですかね?」
ノエルは状況について行けないようでジークの服の袖をひっぱり、ジークは彼女に簡単に説明をするが、ノエルはいまいち、何が起きているのかわからないのか首を傾げたままである。
「話を戻させていただきます。フィリム教授は何を企んでいるんですか?」
「フィリムの事がばれているのなら、これ以上隠しても仕方ないな。カイン=クローク、お主の言う通り、フィリムから1度、お主と話をしておいた方が良いと言う事は言われた。だが、言わせて貰うとフィリム自身は特に何も企んではいない。カイン=クロークの進む道に興味などないと言っていた。ただ、フィリムが言うには、お主が何か企んでいるようだから、協力できる事があれば、協力して欲しいと言われただけだ。口では適当な事を言っている物の、お主ほど私利私欲と言う物と対極にいる者はいないとな。それもあったし、隣国の医療に興味もあったのでな。ジークやノエルと言うつてもあるわけだ。なかなか、私自身、ジーク達がワームを訪れて来ていても時間が合うとは限らない、今日は時間もあったと言う事もあったのだが、せっかくだ。ラースとフィリムのお気に入りであるカイン=クロークという人物を見極めておこうと思ってな」
カインは改めて、レギアスにフィリムの企みについて聞くと、レギアスは苦笑いを浮かべたまま、自分の興味本位だと言う。
「レギアス様の興味? 特にレギアス様に興味を持たれるような事はしていません」
「お主のその言葉は信じるには私との間では少し信用が足りないな。私もお主と言う人間についてはそれなりに調べているつもりなんだが、わざわざ、自分の心象を悪くする理由がわからん」
カインはレギアスに興味を持たれる事など何もしていないと笑うがその表情はいつものどこか胡散臭いものであり、レギアスは大きく肩を落とした。