第358話
「診療所を手伝う事で、テッド先生の薬の知識とかを目で見えるのは良いんだけど、先にテッド先生の使ってる薬草や治療薬の事を教えて貰いたいんですけど」
「ジークさん、今、話を変えようとしてますね」
「そんな事はないぞ。ノエル、遊んでないで、続きしようぜ」
ジークは話を変えようとするが、ノエルは彼の考えが直ぐに理解できたようで彼をジト目で見る。
その視線にジークは直ぐに否定するとこれ以上、突っ込まれないために作業を再開して行く。
「ジークくんもノエルさんには形無しですね」
「そ、そんな事はないと思いますけど」
2人の様子が微笑ましいのかテッドは柔らかな笑みを浮かべると、ノエルは少し恥ずかしくなったようでテッドから視線を逸らした。
「実際、ジークくんは診療所の手伝いをする意味がわかっているんでしょう」
「まぁ、わかってますけど」
テッドはジークの理解力の速さから、ジークとノエルに診療所の手伝いをして貰っている意味をわかっているのかと確認し、ジークは頷きはするもののどこか納得いかないようである。
「診療所をお手伝いする意味? テッド先生がお忙しいからじゃないんですか? 時間が取れないと話し合いもできないですし」
「確かにそれもあるんだけど、1番はフォルムの人達に顔を覚えて貰うって事だろテッド先生はフォルムの人達に信頼されているだろうから、ここで信頼して貰えって言う事だろ。カインの考えそうなことだ」
診療所の手伝いはカインからの提案だったようであり、ジークはカインの手のひらの上でまた踊らされている事に小さく肩を落とした。
「それでも、ここで顔を売っておけば、この後の事にも役に立つでしょうしね」
「そうですね。ここで知り合い増やしておけば、薬草栽培の指導の時に役に立つでしょうしね」
「あ、そう言えば、ジークさん持って来た薬草の栽培っていつからするんですか?」
元々、ジーク達がフォルムに拉致されてきたのはフォルムでの新たな薬草類の栽培方法を教えるためであり、診療所の手伝いはその足掛かりでもあると言う。
ノエルはそこで自分達がフォルムに来た理由を思い出したようで、そこで素朴な疑問を口に出す。
「一応、その場所を確保するために今、レイン達が農地を開拓してるんじゃないのか?」
「そうですね。元々、フォルムで農業をしている人達にはその人達の畑がありますから、新な農地を作らなければいけないでしょうし」
「でも、そう考えるとかなり長い時間、わたし達はフォルムに滞在しないといけないんじゃないでしょうか?」
「確かにそうだよな」
カインの考えはフォルムの開拓した場所で薬草類を育てようとしているのだが、栽培する期間を考えるとかなり長い時間、フォルムに拘束される必要性があり、ジークはジオスでの事やアンリの治療の事もあるため、困ったように頭をかいた。
「いや、流石にそんなに拘束する気はないから」
「カインさん? どうしたんですか?」
その時、診療所のドアを開け、カインとセスが顔を出し、ノエルは2人の突然の来訪に驚きの声を上げる。
「近くにきたから、ジークが真面目にやってるか心配になってね」
「……ノエルは真面目にやってて、俺はサボるとでも思ってるのか?」
カインはフォルムの中を巡回していたようであり、顔を出した理由を冗談めかして言うが、ジークはカインの言葉に納得がいかないのか眉間にしわを寄せた。
「そう思ってもおかしくないでしょうね。ジークはサボり癖がありますから」
「セスさん、それはちょっと酷いです。俺はやる事はやってます」
セスはジークのジオスでの店の様子も見ているため、ため息を吐き、ジークはサボり癖などないと主張する。
「そう言うなら、アリアさんの資料の解読については何か進展はありましたか?」
「……テッド先生、この薬品、在庫が少なくなってますけど、どうしたら良いですか
? これなら、俺も調合方法を知ってますから、俺が調合しましょうか?」
「今はそんな事をしている場合ではないんじゃないでしょうか?」
セスは眉間にしわを寄せ、アリアの資料解読の進捗状況を聞く。
ジークは何も進んでいないようで何事もなかったかのように診療所の仕事を再開させようとする。
「相変わらず、何も進んでないみたいだね」
「そうですね……カインさん、元々はカインさんならジークさんにジークさんのおばあ様の資料を解読させられるって話じゃなかったでしょうか? その割にはカインさんがジークさんの勉強を見ているところを見た事がないんですけど」
ジークが話を変えようとする様子にカインは苦笑いを浮かべると、ノエルは忙しい事は理解できている物の全然、ジークの勉強を見ようとしないカインに疑問を抱いているようで首を傾げた。
「あー、俺も忙しくてさ」
「……それって、何も考えてないんじゃないですか?」
ノエルの質問に少し困ったように笑うカイン。ノエルはそんなカインの表情を見て、フォルムの発展のためにだけに連れてこられたと思ったようで眉間にしわを寄せる。
「いやいや、しっかりと考えているよ。だから、テッド先生にジークを預けたんだから」
「それはある種、俺は丸投げされた気しかしないんだけど」
「でも、俺やセスさんより、専門的な人だろ。ばあちゃんが書いた魔法式の意味もここでわかるはずだよ」
カインは自分やセスが教えるより、テッドにアリアの資料を解読する手掛かりを教わった方が良いと思っているようだが、ジークは納得がいかないようで眉間にしわを寄せた。
「それって、どう言う事ですか?」
「普通にテッド先生が魔法治療する時の魔法式も書いてあるだろ。その中にばあちゃんの資料に書かれてる物もあるし、ジークは本に書いてある物を読み解くより、実際に治療しているところを見ている方が頭に入るだろうし」
「……その可能性は否定できないな」
首を傾げるノエルだが、カインは知識で覚えるより、目で見て覚えた方がジークの勉強になると思っているようでくすりと笑う。
カインの言葉にジークは自分の性格が見透かされている事にため息を吐く。




