第354話
「で、フィーナは寝たわけか? まったく、もう少し考えて動けないかな?」
「難しいだろ。フィーナだし」
「……この不味さが、効くな」
カインは汗を流し終わった後、まだ乾ききっていない髪をタオルで拭きながら、フィーナがいない理由を聞き、大きく肩を落とした。
ジークはその様子に苦笑いを浮かべると、カインにいつもの栄養剤を渡し、カインは腰に手を当てて一気に飲み干し、直ぐに吐きだしそうになるが何とか胃の中に押さえ込む。
「……そんな事をするなら、飲まなければ良いのではないですか? 普通に効果がある栄養剤があるんですから」
「そ、そうですね」
カインが1度、栄養剤を戻しそうになった姿に、セスは理解できないと言いたげにため息を吐くとノエルは苦笑いを浮かべる。
「わかってないね。これじゃないともうダメなんだよ。コーラッドさんも続けていけばわかるよ」
「わかりたくありませんわ。と言うか、ジーク、その栄養剤には中毒性があるわけではありませんよね?」
「いや、大丈夫だと思うけど、俺が知ってる限り、中毒性がある材料は使ってないですよ」
カインはセスの言葉に何もわかっていないと首を横に振るが、セスはジークのいつもの栄養剤はゴメンだと言う。
その中で、カインだけではなく1部の者に絶大な人気を誇る栄養剤に何かあると思ったようで怪訝そうな表情をするがジークは首を横に振った。
「中毒性があったら、俺やラング様は末期だな」
「ばあちゃんの頃から服用しているからな」
中毒性ではなく、やはり好みの問題のようであり、ジークはセスに疑われている事もあるのか困ったように頭をかく。
「しかし、今更だけど、レインに負担をかけすぎたかな? 猪突猛進みたいなメンバーしかいないし、それにフォルムに来てから働き過ぎなのは事実だしな」
「そうだな……言っておくが、俺はレインの補佐をしに行かないからな。しばらくは周辺探索より、優先しないといけない事がある」
カインはレインが疲労によるダウンだと理解したようで打開策を探そうと首をひねると、ジークはおかしな事に巻き込まれる前に釘を刺す。
「いや、わかってるよ。ジークにやっても貰う事は多いんだ。テッド先生の知識と技術交換も大切だけど、テッド先生も高齢だからジークやノエルが手伝い事も多くなるし」
「……ちょっと待て。今、さらっと俺とノエルの仕事を増やさなかったか?」
カインの言葉にはいつの間にかジークとノエルは診療所の手伝いをする事になっており、ジークは眉間にしわを寄せる。
「テッド先生の手伝いは重要だろ。そこから、混血の方達と知り合えるから、交流を広めるにはちょうど良い。俺もフォルムの街を歩いてるけど、俺に直接話をしてくるような人はいないだろうし、ジークとノエルがテッド先生と一緒にいる事で、テッド先生から話をして貰った方が滞りなく話が進む」
「そうだとしても、納得がいかないんだよな」
カインはジークがテッドと一緒にいる事に意味があると言うが、ジークは理解できるものの納得はできないようで乱暴に頭をかく。
「フィーナさん、私と結婚してください!! ……あれ? フィーナさんがいない」
「……レインさん、起きましたね。説明しましょうか?」
「はいはい。俺の役目だね」
その時、ソファーからレインが起き上がり、気を失う前の続きを叫ぶが、フィーナはすでに目の前からおらず、状況が理解できないようで呆けている。
ノエルはその姿に苦笑いを浮かべて、現状をレインに説明した方が良いのではないかとカインに視線を送り、カインは頭を拭いていたタオルをジークに渡すとレインに状況の説明を始め出す。
「しかし、フィーナさんの裸をみてしまい、彼女を傷つけてしまったなら、責任は取らないといけないはずです」
「予想以上に真面目だ」
カインはフィーナにも非があったため、レインは気にする事はない事とフィーナもそれに関して納得した事を説明するが、レインは真剣に悩んでいるようで首をひねっている。
ジークはその姿にレインの事がわからないようで大きく肩を落とした。
「何て言ったら良いんだろうね。別にレインがそれを気にしてフィーナに交際を求めるなら、俺とジークを倒してからにしろ」
「……いや、それは確実に違うから」
「妹を守るのには必要じゃないか? 裸を見たから、交際を求めるって、それってある意味、身体が目当てだから」
「……それは極論だろ。それに俺は何度も言うが、お前ともフィーナとも兄弟じゃないからな」
カインはレインの反応になんて言ったら良いのかわからないようで、頭をかいた後に良い案が思いついたと言いたげに言うが、その発言は本筋からずれている。
「ノエル、ジークがこんなに冷たい事を言うんだけど、どうしたら良いと思う?」
「ジークさん、ダメです。フィーナさんをそんな目に遭わせるわけにはいきません。身体目当てなんて不潔です。絶対にダメです!!」
「ノエルにおかしな事を吹き込むな」
カインはノエルを使ってジークを味方に引き込もうとすると、ノエルはカインの身体目的と言う言葉が気に入らないようで全力でジークにカインに付くように言う。
カインの言葉に完全に流されているノエルの様子にジークは大きく肩を落とす。
「だいたい、レインがそんな事で選ぶか、レインもおかしな事を言われるんだから、冷静になれと言うか、人生を棒に振るな」
「……ジークも言い過ぎな気がしますけど」
ジークは話がおかしな食っている事でもう1度、レインに落ち着くように言うが、その中にはフィーナへの罵倒が混じっており、セスは大きく肩を落とす。
「まぁ、冗談は置いておいて、そう言うのは謝罪とか責任とかじゃないだろ。それは何と言うか相手を見てないだろ。それはやっぱり良くないと思うよな」
「はい。そうだと思います」
「そ、そうなんでしょうか?」
ジークはセスに言われた事もあり、レインにもう1度、考え直すように言うとノエルはジークの意見に大きく頷く。
2人の言葉にレインは恋愛に関しては自分に経験もない事もあり、真剣に話を聞き始める。
「ほら、レインのせいで、バカップルに火が点いた。ジーク、いちゃついてるなら、夕飯、温めて来てよ」
「別にいちゃついているわけじゃない」
しかし、カインはレインをからかい飽きたようでジークに夕飯の準備をするように言い、彼をキッチンに追い出す。




