第353話
「当たりどころが悪かったかな?」
「レインさん、起きませんね」
セスが戻ってきた事もあり、片づけなども考えて夕飯を済ませてしまいたいジークだが、先ほど、冷気の魔導銃で頭を強制的に冷やされたレインはまだソファーの上でダウンしたままであり、ジークは魔導銃を眺めてため息を吐いた。
「どうする? 夕飯にする? フィーナは軽く済ませてるから、俺は後なら後でも構わないんだけど」
「せっかく、帰ってきてるのに1人で飯食うのはあれだろ。朝まで寝てるような事は流石にないと思うから、俺も持ってて良いぞ。食器以外は先に片付けてきとくか」
レインが起きるまで待つと言う方向で話は進み始めたようで、ジークは頭をかきながらキッチンに向かって歩き出す。
「それじゃあ、先に俺も汗を流してくるかな? コーラッドさんはどうする? 先に汗流してくるなら、後にするけど」
「私は後でも構いませんわ」
「そう? それなら、お先に……覗かないでね」
「覗きませんわ!!」
カインは先に汗を流してこようと思ったようで、セスをからかうように笑うと居間を出て行ってしまう。
「まったく、カイン=クロークは何がしたいのか、まったくわかりませんわ」
「そうですね……あの、セスさん」
カインの姿が見えなくなるとセスは大きく肩を落とす。ノエルはそんなセスの姿に苦笑いを浮かべると何かあるのか、セスの名前を呼ぶ。
「どうかしましたか?」
「あの。カインさんの事、いつまで、フルネームで呼んでるんですか? カインさんも面倒じゃないかって言ってませんでしたか?」
「そ、それは、特に深い理由などありませんわ」
ノエルはセスがいつまでもカインの呼び方を変えない事に疑問を覚えたようで理由を聞くとセスは顔を赤くして首を横に振る。
「単純に恥ずかしいからですか? 照れる必要性はなさそうですけどね。ノエル、フィーナ、セスさん、お茶、置いておきますよ」
「ありがとうございます。ジークさん」
ノエルとセスのやり取りを見て、苦笑いを浮かべたジークが3人分のお茶を用意してきたようで彼女達の前に置く。
「そ、そんなわけではありませんわ」
「別に気にする必要ないと思うんですけどね。ゼイも呼び捨てしてるし、本人があまり気にしてないだろうし」
「ジークも余計な事を言うんじゃないわよ。どうして、セスさんをおかしな道に誘い込もうとするのよ。セスさんは元々、貴族なのよ。あんなのを選ぶ必要性がないわ」
セスはジークの言葉に顔を真っ赤にして恥ずかしいわけではないと強調するが、ジークはそんなセスの様子にため息を吐く。
フィーナはジークが持ってきたお茶を1口飲むと、ジークとノエルがカインとセスの間を取り持とうとしているのが気に入らないためか、眉間にしわを寄せている。
「しかし、今更だけど、フィーナ、お前はもう少しカインの事を評価したらどうだ?」
「そうですね。実の妹にここまで評価されないのはどうなんでしょうか?」
「あのクズのどこに評価するべき場所があるのよ」
フィーナの様子にジークは苦笑いを浮かべ、セスは実の妹の発言とは言え、惚れている相手がバカにされているのは許せないようでムッとしたような表情をするが、フィーナはあり得ないとため息を吐こうとするが、欠伸が漏れる。
「フィーナさん、眠たいんですか?」
「うーん。少し」
フィーナの欠伸にノエルは彼女に声をかけるとフィーナは欠伸をこらえながら頷く。
「飯食ったから、眠くなってきたんじゃないのか?」
「そうかも、結構、今日も疲れたし」
フィーナはフォルムの周辺探索が大変だったようで止めようと思っても欠伸が出てくるようであり、その目はかなり瞼が落ちてきている。
「結構、そっちは大変なのか? 何か見つかったか?」
「見つかるも何も、ゼイもザガロも人の話きかずに歩きまわるし、話を聞くって事を知らないから」
「……あの2人もフィーナにだけは言われたくないだろうな」
ジークは彼女の様子に苦笑いを浮かべながらも、フィーナ側の進捗状況も確認したいようでフォルム周辺で何か見つかったかと聞く。
フィーナは目を覚まそうと首を横に振ると、考えたままに行動するゼイとザガロに振り回されて大変だと言うが、いつも彼女に振り回されているジークとしては少しは自分の気持ちもわかれと言いたげである。
「レ、レインさん、大変ですね」
「そう考えると今は純粋に疲れが出てきてるんではないでしょうか? ジーク、どこに行くんですか?」
ゼイとザガロに加え、フィーナと言った3人の暴走をいさめる立場のレインの苦労をノエルとセスは理解したようで顔を合わせて苦笑いを浮かべた。
ジークは1つため息を吐くと、何か考えがあるのか居間を出て行こうとする。
「ちょっと、栄養剤でも処方しようかな? と」
「……止めなさい。下手したら、止めを刺す事になりますわ」
ジークはレインの事を心配したようで、栄養剤を飲ませようとしたようだが、セスはジークが持ってくる栄養剤はカイン達1部の人間達に人気のある栄養剤の方だと思ったようでジークを止める。
「でも、効き目は俺が保証しますよ。セスさん用に作っている奴より、何倍も効果があると思ってます」
「せめて、私が貰っている物にしてあげてください」
「あれだと気付けにならないんですよね。フィーナも限界近いみたいだから」
セスは栄養剤を与えるのは賛成するがレインの命が心配のため、妥協案を提案するが、ジークはフィーナの事もあるのでレインを無理やり起こそうとしている。
「……やっぱり、ダメだわ。悪いけど、私寝るわ。おやすみ」
「あ、はい。おやすみなさい」
ジークとセスのやり取りの隣でフィーナは限界が近いようで眠気を隠す事無く大欠伸をすると立ち上がり、ふらふらと部屋に戻って行く。
「レインが起きるまで待つ必要はなかったな。起きなくてもカインが戻ってきたら、飯にしましょうか?」
「そうですね」
フィーナの自分勝手な行動に軽食まで作らされたジークは納得がいかないものを感じながらも本人がいなくなってしまったため、これ以上は何か言っても仕方ない事であり小さく肩を落とすと、セスも不毛なものを感じたようでその言葉に頷いた。