第352話
「真面目と言うか、融通が利かないと言うか」
「危なく、レインの今後の人生が摘んじまうところだった。ノエル、レインは真面目なんだ。悪質な冗談を言うな」
強制的にレインの頭を冷やしたジークとカインはレインを居間のソファーに寝かせ、ジークはノエルにおかしな事を言うなとため息を吐いた。
「ジーク、今の言葉はどう言う意味よ?」
「そのままだ。レインは将来有望なんだぞ。それをフィーナが悪いのにレインに責任を負わせるわけにはいかないだろ」
フィーナはジークの言葉が気に入らないようで眉間にしわを寄せるが、ジークはフィーナにはレインは勿体なさ過ぎると言い切り、それを聞いた彼女の眉間のしわはさらに深くなって行く。
「あの、でも、責任の取り方ってなると、わたしはそれくらいしか」
「責任も何もレインが深く考え過ぎなんだよ。カギをかけなかったフィーナも悪いし、中に入る前に確認しなかったレインも悪い。一方にだけ、責任を取らせるのは違うの。フィーナもこれ以上はおかしな事を言わない。この話はここで終わり」
ノエルは責任の取り方に良い案が浮かばなかったようで申し訳なさそうに肩を落とす。
カインはそんな彼女の様子に苦笑いを浮かべると、カインはフィーナにこれ以上引っ張るなと釘を刺した。
「わかってるわよ。流石にあそこまでてんぱるなんて思ってなかったわよ。犬にでもかまれたと思って忘れるわ」
「まぁ、フィーナが忘れてもレインが忘れてくれたら良いな。おかしな決心をしたみたいだから、どうにかしないと」
フィーナは流石に責任を取ると言われるのはおかしな事だと認識しており、納得がいかない想いはしながらも頷く。
その様子にジークは苦笑いを浮かべた後、ソファーに寝かしているレインがおかしな暴走をしないようにしなければいけないと大きく肩を落とした。
「そこが問題だね……夢だったで終わらないかな?」
「流石に無理だろ。それより、セスさんって、そろそろ戻ってくるかな? 俺も腹減ってきた」
カインはレインが気を失っている事もあり、夢オチになれば良いと言うが、それには無理があり、ジークは頭をかくとこれ以上、話し合いをしても仕方ないと思ったようで帰ってこないセスの名前を出す。
「カインさん、セスさんを1人で歩かせていても良いんですかね? 女の人の夜道の一人歩きは危険じゃないですか?」
「それって、ノエルは俺にコーラッドさんを迎えに行けって言ってる?」
「そ、そんな事はありませんけど、やっぱり、カインさんが迎えに来てくれたら、セスさんは嬉しいんじゃないかな? って、思うんです」
辺りは日が沈み始めており、ノエルはセスが屋敷に戻ってこない事を心配し始めるが、その言葉には裏があり、カインは彼女の言葉にくすりと笑う。
カインの表情にノエルは慌てるが、言わないといけない事だと思ったようで両手を握りしめてカインに詰め寄る。
「思うんですって言ってもね。連れてかれちゃったから、どこに行ってるかわからないし」
「そんな事、言いながら、使い魔で後を付けてるんだろ」
「いや、俺の使い魔は鳥だから、夜目が利かないし、まったくわからないね」
カインはセスがどこに行ったかわからないと手を大げさに広げて言うが、ジークはカインが何もしていないとは思っておらず、小さくため息を吐く。
カインはそんなジークの言葉に冗談で返すが、セスがコーラッド家と言う名家の娘である事もあり、しっかりと使い魔を使って警護はしている。
「夜目ね。まぁ、そうしておくか」
「カインさんも変に意地を張らなければ良いとわたしは思います」
カインの冗談にジークはどこか呆れているようで頭をかくが、ノエルは納得がいかないのか頬を膨らませている。
「ノエル、あんまりセスさんとこれを近づけようとしないでよ。さっき、私はレインとでジークにおかしな事を言われたけど、こいつとセスさんだってあれでしょ。セスさんにはもっと良い男がいくらでも見つかるわ」
「こんなのって、言われたよ」
「な、何をするのよ!?」
ジークとノエルはセスの日頃の反応を見ている事もあり、カインとセスの応援側に回っているが、フィーナはセスの事を考えて反対しており、カインを指差してセスにはカインでは釣り合わないと叫ぶ。
カインはフィーナの言葉に苦笑いを浮かべると彼女の指をつかむと関節技を仕掛け、居間にはフィーナの悲鳴が響きわたる。
「……あなた達は何をしているんですか?」
「セスさん、お帰りなさい。レインの追っかけに捕まったらしいですけど、どうでしたか?」
そんななか、タイミング良くセスが帰ってきたようで居間に顔を出して直ぐにカインとフィーナの様子を見て大きく肩を落とした。
ジークはセスの反応に苦笑いを浮かべるとカインから話を聞いているためか、セスに何か面白い事はなかったかと聞く。
「特にはありませんわ。レインにお付き合いしている女性はいるかと言ういつもの質問ですわ。後はフィーナと最近、怪しく見えるのですがとは聞かれましたが、それはないと答えておきましたわ」
「フィーナと? それだけど、さっき、レインがフィーナに結婚を申し込もうとしましたよ」
「そうですか? ……ど、どう言う事ですか!?」
セスはフォルムに滞在するようになってから、何度も聞かれているようで億劫そうに答えるも、今日はフィーナとレインの関係を怪しんでいる人間も数名いたようで呆れたようにため息を吐いた。
そんなセスの様子にジークは少し悪戯心が芽生えたようで口元を緩ませるとセスは1度、頷くが少し考えるとジークが飛んでもない事を言った事に驚きの声を上げる。
「ジーク、コーラッドさんも融通が利かないんだから、おかしな事を言ってからかわない。だいたい、その話は終わりって言っただろ」
「まぁ、そうなんだけど、レインもちょっと困ってるようだし、フィーナで噂を流しとけば、少しの間は落ち着くのかとも思ってさ。セスさん、今のは冗談です」
カインはジークの行動に少し呆れたようで肩を落とすとジークは苦笑いを浮かべた後、セスに頭を下げた。
「そ、そうですよね。冗談ですわね」
「冗談と言われるとそれはそれで何か悔しいわね」
「フィーナさんも落ち着いてください。それにここで押さえないと面倒な事になりそうですから」
セスは冗談だと言われて安心したようで胸をなで下ろすが、セスの様子にフィーナは納得がいかないようで眉間にしわを寄せた。
ノエルはそんなフィーナの様子に苦笑いを浮かべるも彼女を落ち着かせようと声をかける。