第351話
テッドとの話し合いの予定を軽く調整した後、テッドは長時間診療所を留守にしているわけにもいかなかったようで診療所に戻ってしまい、ジークとノエルは一足先にカインの屋敷に戻る。
フォルムに来てからは食事の支度は主にジークの仕事になっており、夕飯の準備をしているとレイン達と周辺探索に出ていたフィーナが戻ってきてキッチンを覗く。
「へぇ、ジーク達の方は上手く行ったんだ」
「そうだな。取りあえず、新しい調合薬やラミア族とドレイク族で使えない薬草、逆に効果が高い薬草も教えて貰えそうだ」
レインは周辺探索の進捗状況をカインに報告するために仕事場の方に行ったようであり、ジークとノエルはフィーナにテッドと話をした事を説明すると、フィーナは仲間が
増えた事を単純に嬉しく思っているようで笑顔を見せる。
「それより、フィーナ、お前、外で暴れてきたんだから、着替えてくるなり、汗を流してくるなりしろよ。そのままでキッチンに入ろうとするな」
「細かいわね。動き回ってたから、おなか減ったのよ。軽くつまむ物くらい、用意しときなさいよ」
ジークはフィーナの笑顔につられたようで笑顔を見せた後に、フィーナの今の格好に気が付きキッチンから出て行けと言うが、フィーナは肉体労働をしてきたせいか、夕飯前に食べるものはないかと聞く。
「もうすぐ、カイン達も帰ってくるだろ。我慢できないのかよ」
「できない。お腹減った。この格好でキッチンにいて欲しくないなら、何か用意しなさいよ」
ジークはフィーナの様子に呆れ顔だが、フィーナはふくれっ面で言い、ジークが言う事を聞かないならキッチンで暴れ出しそうである。
「あのなぁ」
「ジークさん、カインさん達も戻ってくるまで、まだ時間がありますし、簡単なものなら、良いんではないでしょうか。フィーナさんもジークさんが用意してくれる間に汗を流してきたら、どうでしょうか? 今日は、レインさんもフィーナさんと一緒にフォルムの外に出ていたわけですし、食事前に汗を流したいでしょうし」
ジークがため息を吐くと、ここで2人の間で無駄な争いが起きても仕方ないと考えたノエルが仲裁に入った。
ノエルの仲裁にジークとフィーナはこれ以上、言い合うのも不毛だなと思ったようで目で互いに視線を交差させると言いたい事がわかったようである。
「わかった。フィーナ、用意しといてやるから、先に汗を流して来い。レインと鉢合わせもイヤだろ」
「そうね。ノエルの言う通りね。ちょっと、行ってくるわ。ジーク、おなか減ったから大目に作っておいてよ」
「どれだけ食うつもりだよ」
フィーナはジークに注文を付けるとキッチンを出て行き、夕飯前の軽食をと考えていたジークは彼女の言葉に大きく肩を落とす。
「そ、そうですね。ジークさん、何かお手伝いする事はありませんか?」
「そうだな。取りあえずは」
「うんうん。仲良き事は良い事だね」
ノエルは苦笑いを浮かべた後にジークの隣に立つと2人で夕飯の準備を始めようとするとその背後から楽しそうなカインの声が聞こえる。
「カ、カインさん!?」
「お前は、どこから湧いて出てくるんだよ」
カインの声に2人は振り返るとカインがニヤニヤと笑っており、ノエルは驚息の声を上げ、ジークは大きく肩を落とす。
「少し早く仕事が終わってね。レインの報告も今日は早かったから、帰ってきたんだよ。コーラッドさんは何かレインをいつも追いかけ回している人達に捕まったから、もう少しかかるよ。レインはフォルムの周りを探索してたから、汗を流してくるって直ぐに浴場に向かったけど」
「レインが浴場に? ……フィーナ、カギくらいはかけてるよな?」
「だ、大丈夫だと思います」
カインは夕飯の内容を確認しながら、セスとレインの事を話すと、ジークは少し前にフィーナが浴場に言った事もあり、最悪の状況が目に浮かんだようで眉間にしわを寄せる。
ノエルは首を振るものの大雑把な所のあるフィーナでは確信が持てないようで顔を引きつらせた。
「ジーク、ノエル、何かあったの?」
「いや、カインが帰ってくるちょっと前にフィーナが浴場に向かったんだけど……」
「うん。フィーナだからね。カギくらい、かけ忘れるよね」
2人の様子にカインは首をかしげると、ジークはカインがキッチンに現れる前の事を話した時、浴場の方からフィーナの悲鳴が聞こえ、カインは全てを悟ったようで大きく肩を落とす。
「フィーナ、カギをかけ忘れたのはお前だろ。レインを責めるのは間違ってるから」
「それはわかってるわ。だけどね。納得がいかないものは仕方ないのよ」
フィーナは汗を流してきた後に居間に戻ってくるとふくれっ面でジークが用意した軽食を頬張っている。
ジークは彼女の様子に苦笑いを浮かべるとレインの味方をしようとするが、フィーナには納得がいかないようで、居間の隅で小さくなっているレインを睨みつけた。
「申し訳ありません」
「レイン、謝る必要はないよ。カギをかけ忘れたのはフィーナの責任だし、今はこの屋敷に家族以外がいるのは知ってるんだし」
レインは事故とは言え、フィーナの裸を覗いてしまった事もあり、フィーナに本当に申し訳ないと思っているようだが、カインは状況的にもレインは悪くないと言う。
「しかし、そう言うわけにはいかないです」
「そう言うわけにもいかないって、責任でも取るつもりかよ」
「責任? フィーナさんをレインさんのお嫁さんにするって事ですか?」
しかし、真面目なレインにとっては重要な事であり、真剣にフィーナに謝罪をしようと考え始めている。
その様子にジークはため息を吐くとノエルは首を傾げながら飛んでもない事を言う。
「いや、それはないだろ」
「ないね」
「確かに、責任を取るとなると私がフィーナさんを一生面倒見て行くしかないですね。フィ、フィーナさん」
ジークとカインは流石に却下だと言いたいようで首を振るが、レインは完全にてんぱっているようで、ノエルの言葉に真剣な表情で頷くと、決意を決めたようでフィーナの名前を呼ぶ。
「ジーク」
「レイン、落ち着け」
レインが短絡的な事を思想何なった事もあり、カインはジークの名前を呼ぶとジークはカインの言いたい事が理解できたようで冷気の魔導銃でレインの頭を撃ち抜く。