第350話
「隣国の事だから、ちょっと断言はできないなぁ。その時には俺もフォルムにはいなかったし」
「ノエルの話から言えば、レムリアさんは隣国では名が知れているでしょうし、勇者と呼ばれる方達と対峙したんではないんでしょうか? いくら、ドレイクが強力だと言え、人族にも同等の実力を持っている方達もいますから」
レムリアのケガの理由はカインでも予想が付かずに苦笑いを浮かべると、セスは勇者と対峙したのではないかと言う。
「勇者ね。おじさんとおばさんだったりして」
「……」
カインは勇者と聞き、ジークの両親の事を言うとジークの表情は見るからに不機嫌そうに変わっていく。
「カイン=クローク、あなたはどうして余計な事を言うんですか?」
「あくまで可能性だよ。だいたい、この周辺で勇者と呼ばれている人間なんてわずかなんだから可能性としては低くはないよ」
「ジーク=フィリス? ひょっとして、ご両親はトリス=フィリスとルミナ=フィリスですかな?」
セスはカインに責めるような視線を向けるが、カインは可能性としてはあり得る事だと言う。
その言葉でテッドはジークの両親の名前を知っているようで驚きの声を上げる。
「赤の他人です」
「このパターンは初めてだね」
「少し大人になったようですわね」
ジークは話の流れからもテッドに当たるわけにはいかないと思ったようで、こめかみに青筋を浮かべながらも引きつった笑顔で他人と言い切った。
それをジークの成長と判断したようでカインとセスは顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。
「まぁ、本人もこう言ってるので、その2人との関係性は気にしないでください。これ以上は面倒になりますから」
「そうですな。家族の事に他人が口を出すわけにはいきませんな。私が何かを言ってこれ以上、こじれてもいけないですし」
カインはジークが我慢している事もあり、これ以上はトリスとルミナの名前を出すのはここまでと言うと、テッドもそれなりに年を取っている事もあり、家族の軋轢に口を出す事でもないと思ったようで小さく頷く。
「しかし、あれだね。シーマさんって俺達とほとんど年って変わらないくらいだよね?」
「そうですな。それがどうかしましたか?」
「いや、ノエルの父さんってロリコン?」
カインはシーマがレムリアの後を追いかけて行き、ルッケルの暗殺計画の中で重要な位置にいた事もあり、レムリアがシーマを手元に置いている事で1つの疑問を口にすると、カインの言葉にその場は微妙な空気に陥る。
「カイン=クローク、冗談を言っている場合ではないと言うのが、わからないのですか?」
「いや、ノエルとしては行く何でも娘と同じ年くらいの娘に手を出してないと信じたいよね?」
「そ、それは少し、それにレムリアお父様はアルティナさんの事を深く愛していられましたし、浮気なんてありえません」
セスは眉間にしわを寄せるが、カインは気にする事はなく、ノエルに話を振る。
ノエルはレムリアとアルティナの姿を思い浮かべたようで、レムリアはシーマに手など出していないと主張する。
「……今はそう言う事じゃないだろ。仮にシーマさんがノエルの父さんに恋愛感情を持っていたとしても、それに答えるかは別問題だろ。それに混血の人達がノエルの父さんについて行ったってのも気になるし、別にフォルムでは表だって迫害されて立って事でもないんだろ?」
「先代はラミア族の血を引いていなかったみたいだからね。先々代の書斎にある資料を見て取り締まろうとはしていたみたいだけど、それは寸でのところで回避されたね。そう考えるとシーマさんはフォルムを守った事にはなる。やり方に納得はいかないけどね」
ある1面から見れば、シーマの行動は混血の叩きだそうとした先代領主から、フォルムを守った事ではあるが、その方法に納得がいかないカインは眉間にしわを寄せた。
国の在り方について、より良い物を目指しているカインであり、誰かを傷つけて守った物に納得がいかないのは彼を知っている者から見れば当然のことである。
「そうですね。納得がいきませんわ」
「誰かを傷つけて手に入れた物は、他の誰かに同じ方法で奪われても仕方ないんだ。もっと、他の手段だってあったはずだろ」
「……もっと、早く、カイン様に出会いたかったものですな。それができれば、シーマも領主を引き継ぐ事ができたかも知れない。ルドルフの意思を間違える事無く、引き継ぐ事ができたかも知れない」
セスはカインの言葉に同調すると、カインはシーマの行動に手を強く握っており、その手からは血がにじみ始めている。
テッドはカインの様子から彼の言葉に嘘はないと思ったようで、少しだけ残念そうに笑う。その言葉には彼の友人であった先々代の領主であるルドルフとカインを引き合わせたかった事がわかる。
「カイン様、お願いがあります。こんな事を言える義理ではないが、シーマを許していただきたい。あの子にも考えていた事、迷っている事があった。ただ、私はそれを教えてやる事ができなかった」
「カインさん、あの」
テッドは王子暗殺事件の犯人グループにシーマがいる事もあり、彼女を捕まえる事が出来たら、その命を助けて欲しいと言う。
その様子にノエルはテッドの味方をしたいようでカインに何かを言おうとするが、未遂に終わったとは言えその暗殺事件の主犯は彼女の父親であるレムリアであり、言葉を詰まらせてしまう。
「ねえ。ジーク、今更だけど、暗殺事件ってなんだっけ?」
「俺に聞くなよ。ルッケルでは誰も死んでないし、何か、血を大量に流してヤツはいたけどぴんぴんとしてるしな」
「そうだね。あのコーラッドさんのふくらみの柔らかさには血を流す価値はあるよね」
「同意を求めるな」
その言葉にカインは元々、シーマを処罰する気もないようでルッケルでの暗殺未遂事件などなかったと言い、ジークはカインの考えに察しがついたようでため息を吐いている。
「カイン=クローク、ジーク=フィリス、あなた達は何を言っているんですか!!」
「いや、あれはルッケルのイベントで1番、記憶に残る事だった」
セスは2人の会話に顔を真っ赤にして怒鳴り始めるが、カインは冗談で全てを終わらせようとしており、その様子にジークは苦笑いを浮かべた。
「まぁ、とりあえず、やる事が増えたって事だな。少なくともシーマさんはフォルムの人達の事を思っての行動だし、1線を超える前に止めないとな。それに俺としてはノエルの父さんも止めないといけないので、後味の悪い終わり方はごめんです。なぁ、ノエル」
「はい。レムリアお父様に復讐なんてさせません。これ以上、アルティナさんを悲しませるわけにはいきませんから」
「ありがとう」
ジークはテッドを見て、任せて欲しいと言うとノエルもジークと同じ想いのようで大きく頷く。
2人の力強い言葉にテッドは表情を和らげる。




