第349話
「と言う事です。ジークに関しては惚れた弱みです」
「……そうですか」
カインはテッドに第1位王位継承者であるエルトの種族間の争いを無くしたいと言う事とルッケルでドレイクとその協力者が暗殺計画を企てた事を簡潔に説明すると、まさか第1王子の名前が出てくると思っていなかったテッドは状況の整理ができないようで眉間にしわを寄せている。
「普通はこの反応だろうな。と言うか否定のしようがないが、俺の協力する理由が軽すぎるだろ」
「仕方ないでしょう。実際、その通りなんですから」
テッドの様子にジークは苦笑いを浮かべて頭をかくと、セスは自分がだまし討ちを受けた時とテッドが同じ心境だと思ったようで大きく頷く。
「まさか、王子が関わってくるとは思ってもいなかったですが、ルッケルと言う街で王子が襲撃されるような事があったとは……」
「これでも、先日までエルト様にそばに控えていました。そして、現在は別命を受けてますが、コーラッドさんは現在のエルト様付きの優秀な方です」
「カイン=クローク、あなたに言われるとバカにされている気しかしないのですけど」
テッドはジーク達の反応から、カインの説明に嘘はないと思ったようで大きく肩を落とす。
テッドの様子にカインは楽しそうに笑うと領主になる前にエルトの側に控えていた事とセスが現役でエルトの側に控えている事を告げ、セスはバカにされたような気がしたようで頬を膨らませた。
「そんな事はないんだけどね。コーラッドさんは考えすぎだよ」
「なぁ、カイン、エルト王子は息抜きがてら、フォルムに来てたんだろ。テッド先生とは面識がないのか?」
セスの反応に苦笑いを浮かべるカイン。ジークは2人の様子に小さくため息を吐くと、テッドとエルトに面識はないのかと聞く。
「うん。流石にエルト様が歩きまわるのは危険だって、レインとコーラッドさんが反対するから、エルト様は色々と見て回りたいって言ってたんだけどね」
「当然です」
カインは人族と魔族の共存の1つの形でもあるフォルムをエルトに見て貰いたかったようだが、セスの猛反対にあっていたようでエルトはフォルムをあまり見て回ってないようである。
「ギド達に関してはノエルの考えに賛同したからかな?」
「そうだな。ノエル様やジーク、フィーナに出会い、人族にも話が通じる者がいる事を知った。そして、ワシらが窮地に陥った時、種族など関係なく、手を伸ばした者がいた。そのおかげで誰も命を落とさずに済んだ。お互いに協力する事で命を失う者がいなくなるなら、ワシらはその道を選びたいと思った」
ギドはノエルの意見に賛同した事もあるが、それと同様に状況を理解し、自分達の危険も顧みる事無く、ゴブリン族とリザードマン族の話し合いに尽力したカインの認めているようで小さく頷く。
ギドが言う手を伸ばした者とはカインの事であるのは明白であるが、カインの表情は変わる事はない。そんなカインの顔にギドは小さく表情を和らげる。
「それじゃあ、次はテッド先生の話を聞かせていただけますか?」
「そうですな……ここに集まっているみなさんは先々代の領主に娘がいた事は知っておりますな?」
「男児か女児かは調べ切れていませんでしたが、お子さんだいた事は知っています」
カインはギドの話にテッドが興味をひかれても面倒だと思ったようで、テッドに先々代の領主の子に付いて聞く。
テッドは少し考え込んだ後に、確認するように先々代の領主に娘に付いて聞き、その言葉に一同は頷いた。
「先々代の領主『ルドルフ=フォルム』には『シーマ=フォルム』と言う娘がいました。ラミア族の血が色濃く出て慕った事もあり、美しい娘に育ちました」
「まぁ、簡単にだまされる奴もいるくらいだから、美人だったんだろうな」
テッドはその娘をよく知っているのか、表情を和らげて話し始める。その様子が慈愛に満ちたものであり、テッドがシーマを自分の娘のように思っているのがわかる。
ジークはシュミットが簡単にだまされた事もあり、会った事のないシーマがどんな顔をしているか気になったようであるが、その一言を発した時にノエルから鋭い視線が飛び、言葉を飲み込む。
「そのシーマさんはドレイクを追って、フォルムを出て行ってしまったと言う事でしょうか?」
「はい。かなり前の話になりますが、フォルムに迷い込んだドレイクが居りました。大ケガをしており、ラミア族の血を引いている者達が見つけて、見捨てる事もできず、私に治療をお願いしてきました。先代の領主は隣国からの人間や魔族には厳しく当たっていた事もあり、彼の手当ては秘密裏に行われました。その時にシーマは彼に淡い恋心を抱いてしまったようです。そして、そのドレイクがこの地を離れる時に付いて行ってしまったのです。シーマだけではなく、この地に住む者で混血の立場に納得がいかない者達も一緒にです」
テッドはシーマがフォルムを出て行ってしまった時の経緯を簡単に話し、シーマだけではなく、血気盛んな者達がドレイクとともにフォルムを出て行ってしまったと言う。
「あのさ。テッド先生、1つ確認したいんだけど、そのドレイクって、片目が青色でしたか?」
「……」
ジークはシーマが付いて行ったドレイクがレムリアか確認したかったようで、テッドに彼の肉体的特徴をあげると、テッドは小さく頷いた。
「決まりだよな?」
「そうですね。レムリアお父様で間違いありません」
テッドが頷いた事で、ルッケルで暗殺事件を起こしたドレイクとラミアの正体ははっきりとしてしまい、ジークは眉間にしわを寄せ、ノエルはレムリアの復讐に賛同している人達がいる事に悲しそうに目を伏せる。
「レムリアお父様? ノエルさんはなぜ、あのドレイクの名前を」
「そのドレイクはノエルの父親だと思います。ただ、ドレイクであるノエルの父親が大ケガって何があったのかはわからないけど」
テッドはドレイクの名前がノエルの口から出てきた事に首を傾げるとジークはノエルとレムリアの関係について話す。