第347話
「アルティナ?」
「ノエル、落ち着け。あのテッド先生はどうして、ノエルがドレイクだと?」
テッドはアルティナとは面識がないようで首を傾げた。
ジークはこのまま、全ての情報を垂れ流してしまうのは良策ではないと思ったようで、一先ず、テッドの持っている情報を引き出そうとする。
「ジークくん達はフォルムの事をどこまで知っているのかな?」
「それは」
テッドは領主がカインに代わり、タイミング良く種族の違いなど気にしないと言うジークとノエルが現れた事に作為的なものを感じたようで真っ直ぐとジークを見て言う。
ジークはその視線にどこまで答えて良いかわからないようで困ったように頭をかくが、テッドの様子から隠しているのは良くないと思ったのか、1度、深呼吸をして自分を落ち着かせる。
「この地には昔、ラミア族が住んでいて、正体を隠して人族とともに生きていると言う話をカインから聞きました。あ、あの、テッド先生はもしかして」
「残念ながら私は人族だよ」
ジークはカインから聞いた話をした後に、テッドにラミア族の血を引いているかと聞く。
テッドはその質問に申し訳なさそうに首を横に振った。
「そうですか。それなら、どうして?」
「血も大部、薄れてきているから、どこまでをラミア族と言って良いのかはわからないけどね。その者達には使ってはいけない薬草がある。私は私の先生から教わった。この地で医師として生きるなら、人の中で生きる事を望んだ者達がいる事を知らなければいけないと事実とその術を教わったんだ」
テッドは自分に医師としての心得と術を教えてくれた人の事を思い出したようで過去を懐かしむように表情を和らげる。
「あ、あの、テッド先生はその時に何も思わなかったんですか? 相手はその魔族なのに」
「最初は少し抵抗があったよ。だけど、私達は医師だ。傷ついた者達を助ける責任がある。医療は血や種族になど関係なく平等に与えられるべきものだと考えたんだ。それに、私は小さな頃からフォルムで育ったからね。長年、連れ添った友人をそんな目で見る事はできなかったんだよ。おかしいかな?」
「そ、そんな事ありません」
ノエルはテッドが魔族にどうして偏見を持たずにいられたかと聞く、その表情はどこか不安げであり、テッドはそんな彼女の様子に優しげな笑みを浮かべると自分が間違った事をしたかと聞いた。
テッドの言葉はノエルが望むものであり、その言葉に笑顔を見せて大きく頷く。
「それじゃあ、テッド先生はテッド先生の師匠から、ラミア族だけではなくドレイク族にも使えない薬草がある事を聞いたんですか?」
「そうだね。私の先生はラミア族の血を引いていたと言う話だし、その時はフォルムは隣国からの支配を受けていた事もあり、隣国に住むドレイク族とも交流があったようでね。ラミア族とドレイク族については少しだけ知識がある」
テッドはフォルムの昔の状況を話し、その時に受け継がれた知識だと笑う。
「なるほど、あ、あの、その知識を俺に教えてください。ノエルのためだけじゃなく、いつか、種族の事なんて気にする事無く、生きていける時代がくる時のために」
「……そんな時代が本当にくると思っているのかい?」
ジークはテーブルに両手をつくとテッドに向かって深々と頭を下げるが、テッドはジーク達より長い時間を生きてきた事もあり、彼らが望むように世界をどこか諦めているようでジークとノエルに問う。
「きます」
「ジークくんははっきりと言わないんだね」
テッドの問いにノエルは迷う事無く答えるが、ジークは直ぐに答える事はなく、テッドはジークへと視線を向ける。
「正直、難しい事はわかってますから、できるとは言えません。ただ、俺やノエル、他にもそれを望む人がいる。そんな人達の道しるべくらいにはなれたら良いと思ってます。それができれば流れる血はきっと減るから」
「道しるべか……昔、君と同じ事を言った男がいたね」
ジークはどれだけ困難な道のりだと理解している事もあり、少しだけ困ったように言うが口とは別にその目には絶対に成し遂げると言う意思が宿っている。
テッドはその目とジークの言葉に何か感じたようで1人の友人の顔を思い浮かべているのか目を閉じる。
「私の知識と技術をジークくんに教えましょう。ただ、1つ条件があります」
「条件ですか?」
テッドは目をあけると小さく頷き、ジークへと彼の知識を渡すと言うが、何か考える事があるようで1つの交換条件を出す。
ジークは交換条件などあると思っていなかったようで首を傾げる。
「先ほど、私はドレイク族と添い遂げようとした人族を見るのは2人目だと言った事を覚えていますか?」
「はい」
テッドは少し前に話を戻すとジークとノエルはお互いの顔を見合せた後に大きく頷く。
その話は自分達にも興味がある事であり、テッドの話に耳を傾ける。
「君達に隠していても仕方がないから、話してしまおう。さっき話した私の友人は先々代の領主の事なんだが」
「先々代って、お子さんがラミア族の血を濃く引いていたって!? す、すいません」
テッドは話し始めようとするが、彼の話の途中でノエルはカインとセスから聞いたフォルムの先々代の領主の話を思い出したようで声を上げるが、直ぐに話を折ってしまった事に気が付き慌てて頭を下げた。
「知っていたようですね」
「えーと、カインとセスさんから、少しだけ、ラミア族の血を濃く引いてしまったから、後を継ぐ事はできなかったって、その子がどうなったかまでは知りません。カインもそこまではつかんでないみたいで」
テッドはノエルの反応に特に気分を悪くする事はなく、苦笑いを浮かべるとジークは隠していても仕方ない事もあり、困ったように頭をかくと白状する。
「そうかい? わかっていたけど、カイン様はずいぶんと優秀のようだね。食えない男だとは思っていたんだけど」
「それは煮ても焼いても食えない事は確かだな」
「そ、そうですね」
テッドはひょうひょうとしながらも新領主に収まり、問題なく領地運営をしているカインの事を評価しているようで苦笑いを浮かべる。
その評価にジークとノエルは何と返して良いのかわからないようで眉間にしわを寄せた。