第346話
「あの、挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。ノエルです」
「テッド=ヴィスター言います……ずいぶんと若いご夫婦ですな」
カインが調合室を出て行ったのを確認するとノエルはテッドに頭を下げ、テッドはジークとノエルを交互に見た後、2人を夫婦だと勘違いしたようで表情を和らげる。
「ふ、夫婦、その、あの」
「えーと、まだ夫婦にはなってないです。近いうちにはとは思ってますけど、とりあえず、座ってください。ノエルも落ち着け」
ノエルはテッドの口から出た夫婦と言う言葉に顔を真っ赤にすると否定しようとするもののすでにしどろもどろになっており、ジークは彼女の様子に苦笑いを浮かべるとノエルとテッドに座るように言い、お茶の準備を始める。
「若いのにずいぶんと手際が良いですな。道具の手入れも丁寧ですな」
「そうですか?」
テッドはテーブルに座る事はなく、ジークの調合道具が気になっているようで調合室の様子を眺め出す。
彼の目に映るジークの調合道具は手入れもしっかりとされており、テッドは感心したようで大きく頷くとジークはあまり言われない言葉のためか、少しだけ気恥ずかしそうに頭をかく。
「わかるんですか?」
「まぁ、長い間、この仕事をやっているとね。ジークさんの先生でもあったおばあ様は丁寧な仕事をする方だったようですね。1度、会ってみたかったですね」
「ありがとうございます」
ノエルはテッドがなぜ、ジークが統合道具の手入れをしっかりとしているかわからないようで首を傾げる。
テッドはノエルの様子に長年の経験からだと言った後、アリアの腕も確かだと思ったようで表情を和らげ、ジークはアリアが誉められた事が純粋に嬉しかったようでテッドに向かって頭を下げた。
「ふむ。お茶も美味しいですな」
「ありがとうございます。それで、カインから話し合いをって事なんですけど」
「そうですな……」
ジークが淹れたお茶で3人はテーブルを囲むと、テッドはジークのお茶が気に入ったようで表情を和らげる。
ジークはその言葉に照れくさそうに頭をかいた後、本題に移ろうと話し合いについて聞くとテッドは首をひねり、何かを考え始める。
「どうかしましたか?」
「いや、カイン様から、ジークくんの調合した薬を見させて貰いましたが、私から教わるような事はないのではないかなと思うんですよね」
テッドはジークの持っている調合技術を高く評価しているようで、自分が教える事などないのではないかと言う。
「そんな事はないです。俺は若輩者ですし、ここは隣国に近いですから、俺の知らない薬の使い方や人やアレルギーのでる薬草、知らない事はたくさんありますから、実際、ノエルには俺の良く使う薬草が使えない物もあって、俺の周りにはあまりいませんでしたが、他にもそう言う人がいると思いますんで」
「ほう。ノエルさんには使えない薬草があるわけですか」
「は、はい。そのせいで……馬車が」
ジークは教わりたい事はたくさんあると言い、テッドに頭を下げる。
その言葉にあった薬の適正にテッドは眉間にしわを寄せると、ノエルは苦手な馬車の事を思い出したようで顔は青くなって行く。
「ノエルさんは馬車が苦手なんですか?」
「はい。今はカインさんから借りている転移魔法の魔導機器があるから良いんですけど、決まった場所にしか行けないですし」
「そうですか。そうですか。実は私も馬車が苦手でしてね。老体には堪えます」
ノエルの顔を見て、テッドは苦笑いを浮かべると、ノエルは馬車に乗っている気分になってきたのか、さらに血の気は引いて行っており、ジークは彼女の様子に困ったように笑う。
テッドはジークとノエルの顔を交互に見て、ジークがノエルの事を思って薬の知識の幅を広げようとしている事に気づき、若い2人を様子に表情を和らげると自分も馬車が苦手だと言う。
「そ、そうですよね。あんなもの、乗って良い物じゃないですよね!!」
「ノエル、それは言いすぎだから、それに世の中の人すべてが転移魔法を使えるわけじゃないし馬車がないと物資が流通しないんだから」
「あ? す、すいませんでした」
ノエルは今まで、周りに馬車の苦手だった人間がいなかったためか、同じく馬車が苦手な人間が現れた事に気を大きくしたのか勢いよく立ちあがるとめちゃくちゃな事を言い始める。
ジークはノエルの様子に苦笑いを浮かべて彼女に座るように言うと、彼女の服の裾を引っ張り、ノエルはジークに言われて正気に戻ったようで、同時に恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にしてイスに座り直す。
「まぁ、苦手なものは仕方ないですな」
「ですね。でも、乗り物酔いなら薬で和らげる事もできますから、色々と知識を増やしたいんです。お願いできませんか?」
テッドはノエルの姿に苦笑いを浮かべると、ジークは改めて、テッドに頭を下げる。
「1つ、教えていただきたい。ノエルさんはどの薬草が身体に合わないんだい?」
「えーと、いくつかわかっているのが……」
「ほう」
テッドはノエルに使用できない薬草について聞き、ジークは薬草の名前を挙げて行き、挙げられて行く薬草の名前にテッドは興味を示しているのか小さく頷く。
「……ジークくん、1つ聞いても良いですか?」
「はい? 俺に答えられる事なら」
「君はどんな事があってもノエルさんと添い遂げるつもりですかな?」
「当然です」
テッドは改めて、ジークにノエルと一緒になる覚悟はあるのかと聞く。
その顔は笑ってはいるが、その瞳は鋭く、ジークは彼が何を言いたいのか理解できたようで頭をかいた後、真剣な表情をしてテッドの目を真っ直ぐと見返す。
「まさか、生きているうちに2度もドレイクと添い遂げようとする人族に出会うとは思っていなかったですな」
「2度も……あの、それって、どう言う事ですか? あの、ひょっとして、それって、アルティナさんと言う方じゃないですか?」
テッドは薬草の種類からノエルがドレイクだと理解したようであり、2人がどれだけ困難な道を進もうとしている事も同時に理解したようで大きく肩を落とす。
彼の口から出た言葉にノエルの住んでいた場所がこの近くにある事もあり、テッドとアルティナに面識があると思ったようでノエルは驚きの声を上げる。