第345話
「なぁ、ノエル」
「なんですか?」
「今更だけど……俺達って、フォルムに何しにきたんだ?」
「そ、そうですね」
フォルムのカインの屋敷に住みついて数日が経った頃、あてがわれた調合室でジークがノエルに声をかけるとノエルはジークの言いたい事が理解できるようで苦笑いを浮かべた。
ジーク達はカインに魔族の血を引く者達と接触して欲しいと言われているのだが、この数日は場所はフォルムに変わっているがジオスにいる時と同じ事しかしておらず、カインと魔族の話をするにしても、事情の知らないレインもいるため、話し合いもできずにいる。
「カインもなんだかんだ言いながら、領主の仕事も忙しそうだから仕事時間に時間を取るわけにもいかないしな」
「そうですね。セスさんも一緒に引っ張り回されていますから、邪魔したら悪い気もしますし」
カインは領主としての仕事をする中で、優秀なセスを遊ばせておいてはもったいないと思ったようで彼女に手伝いをさせており、ノエルは2人の進展を期待しているようで目を輝かせている。
「……まぁ、進展すれば良いよな」
「そうですよ。こんな機会、滅多にないんですから」
「いや、正直、魔術学園時代の話を聞くと進展はない気がする」
ジークは2人の進展がある事を望みながらも、今までの事を考えると進展があると思えないようで大きく肩を落とした。
「ジークさん、そう思うなら、わたし達で協力できる事をしましょう」
「……ノエル、落ち着け」
ノエルは2人のために何かしたいようであるが、ジークは彼女がやる気を出すと空回る部分も多いため、落ち着くように言う。
「ジークさんは何かしてあげたいとは思わないんですか?」
「思うけど、ノエルがやる気を出すとおかしな方向に話が流れて行く気がするから」
「そ、そんな事はないです」
ノエルはジークの反応が不満なようで頬を膨らませるが、ジークは彼女の様子に苦笑いを浮かべると調合が終わったようで手を置く。
「結局は、セスさんが素直になれば簡単に決着のつく問題だしな。カインの性格を考えると、セスさんの好意に気が付いていてとぼけているだろうし」
「そうなんですよね。どうして、カインさんはセスさんに好きだって言ってあげないんですか? やっぱり、女の子としては好きになった人から告白をして欲しいと思うんです。ジークさんの口からもカインさんに言ってください」
ノエルはカインからきちんとセスに告白するべきだと調合室に置いてあるテーブルを叩きながら主張し始める。
その様子は完全におかしな暴走を始める1歩手前であり、ジークは彼女の様子に困ったように頭をかく。
「言うのは構わないんだけど、セスさんの場合、カインが告白しようものなら、おかしな暴走するからな。実は何度かカインが告白しているにも関わらず慌て始めて聞いていないとかありそうだ」
「ジーク、正解」
「カ、カインさん!? い、いつからここに!?」
ジークはカインは何回か告白していたんじゃないかと言うと、調合室のドアの方からカインの声が聞こえた。
ノエルは突然、聞こえたカインの声に驚き、ドアへと視線を向けると苦笑いを浮かべているカインが立っている。
「いつからと言うと、ノエルがテーブルを叩いているところからかな? その音のせいで、俺のノックは聞こえなかったみたいだね」
「そ、そうですか」
カインはノックをしても2人の反応がなかった事もあり、ドアを開けたと言うとノエルはカインに怒られると思ったのか、ジークの背中に隠れる。
「ノエル、どうしてジークの背中に隠れるのかな?」
「と、特に深い理由はありません」
「カイン、何かようか?」
ノエルはジークの背中の後ろで小さく身体を震わせ始めており、ジークはノエルの様子にため息を吐くとカインに調合室を訪れた理由を聞く。
「とりあえず、こいつの補充と後はこの間から話をしていたフォルムの調合師とジークの話し合いの予定が組めそうだから報告にね」
「あぁ、いつものだけで良いのか?」
「いや、コーラッドさん用のも頼むよ。ノエル、隠れてないで出てくる。別に何もしないから」
カインは空になった栄養剤の瓶を手にしており、ジークは調合棚から栄養剤を数本出すとテーブルの上に置く。
カインは栄養剤を手に取ると笑顔でノエルに出てくるように言う。
「な、何もしないですか?」
「何かして欲しいのかい?」
「な、何もしないでください!?」
「冗談だから」
ノエルかカインの笑顔に寒気がしたようで、彼の前に出るわけにはいかないと調合室の奥に逃げて行ってしまい、彼女の様子にカインは苦笑いを浮かべた。
「カイン、流石にやりすぎだろ」
「そんなつもりもなかったんだけどね。それでジークは話し合いは了承して貰えるんだよね?」
「元々、それが目的でフォルムに滞在してるんだ。断る理由がないだろ。それでいつになりそうなんだ?」
ジークはため息を吐くとカインへと非難するような視線を向けた。
その様子にカインはノエルにあそこまで怖がられるのは心外だと言いたいようで大きく肩を大きく肩を落とすも、ジークに予定の確認を取り、ジークは断る理由がないため、予定日を聞く。
「ジークさえ、良ければすぐにでも」
「……おい。それってどう言う事だ?」
「すぐにって言うのは冗談だけど、日程はジークが話し合いで決めてよ。お待たせしてすいません」
ジークの質問にカインは口元を緩ませ、ジークはカインの表情の変化にイヤな予感しかしないようで眉間にしわを寄せる。
そんなジークの様子など気にする事無く、ドアを開けると廊下に人を待たせていたようでドアを開けて1人の老人を招き入れる。
「ジーク、フォルムの医師兼調合師の『テッド=ヴィスター』先生」
「は、はじめまして、ジーク=フィリスです」
カインは男性をテッドと呼び、ジークに紹介するとジークは慌てて頭を下げ、テッドはジークの顔を見て柔和な笑みを浮かべている。
「ど、どうかしましたか?」
「気分を悪くしたかい? そうだったら、すまないね。カイン様から聞いていたが、本当に若い調合師だったんだね。しかし、こんな年寄りに話を聞くより、もっと進んだ治療薬の調合方法もあるだろうに」
ジークはテッドの視線に何か感じたようで首を傾げるとテッドはジークに頭を下げると、自分の話がジークに役に立つかはわからないと言う。
「それじゃあ、ジーク、テッド先生、私は仕事があるので戻ります。ノエルも隠れてないで挨拶しなさい」
カインは2人を引き合わせる事でやるべき事は終わったようで調合室を出て行く。