第344話
「と言うか、俺なんか、選ばなくたって、レギアス様なら優秀な部下でも何でもいるだろ。それに子供がいないなら、親類とかいるんじゃないのか?」
「優秀な部下はいるかも知れないけど、とりあえず、弟はいたはずだね」
ジークは普通に考えて、自分が養子に選ばれる事などないとため息を吐くと、カインはあいまいなのか首をひねりながら、レギアスに弟がいる事を告げる。
「それなら必要ないだろ」
「それがね。俺もあった事がないんだよ。フィリム先生から、少し話を聞いたくらいだし、たしか、父親とそりが合わなくて家を出てしまったって、どこで何をしているかはまったくわからないらしいよ」
「父親とそりが合わなかったね。と言うか、レギアス様も父親と仲が悪かったって聞いたような気がするんだけど」
カインはあまり気にした事がなかったようで、苦笑いを浮かべるとジークはレギアスが家名を継ぐ時にひと騒ぎあった事を思い出して頭をかく。
「うん。父親の方はレギアス様より、弟の方に目をかけていたみたいだけどね」
「家族間のごたごたか? 俺にはわからない世界だな」
「まぁ、色々とあるんだろうね。俺達、平民には良くわからない世界だけど」
後継ぎ問題はやはり大きな問題のようであり、カインは小さくため息を吐くと、肉親と言う物にあまり縁のないジークは眉間にしわを寄せた。
平民出身であり、実力で領主と言う地位を手に入れたカインもジークと同様に理解ができないようで苦笑いを浮かべた。
「でも、ジーク、マナー関係は1通り覚えておいた方が良いぞ」
「何でだよ?」
カインはずれていた話を元に戻そうと思ったのか、改めて、マナーの話をするとジークは意味がわからないようで不機嫌そうな表情をする。
その表情はカインまでも自分を冒険者として扱おうと思っていると捕えたようである。
「ジーク、俺はジークが冒険者だろうが、薬屋の店主だろうが、使える者は使うぞ」
「……そうだな。お前はそう言う奴だよな」
カインはジークの様子に迷う事無く、ジークに面倒な事を押し付けると言い切り、その言葉にジークは大きく肩を落とした。
「まぁ、真面目な話、エルト様やライオ様の護衛としてジークは呼び出される可能性が高いからね。騎士達の中にも自分達の思惑で動いている人間もいるから、信頼できる人間をそばに置いておきたい事もある。後はそう言うのも考えて会場内に紛れ込んでいて貰う可能性も少なくないから、せっかく、領主の妹って立場がある人間もできたわけだしね」
「……完全に俺を巻き込むつもりだろ」
カインはエルトやライオの護衛のためにジーク達を引っ張り出す気であり、ジークは近いうちに必ず起きるであろうその状況が目に浮かんだようで眉間にしわを寄せる。
「ジークは断らないだろう? ジーク達にとってはエルト様が王位を継いだ方が都合が良いんだから」
「そんな言い方しなくても手伝う。知り合いに何かあったら、気分的に良くないからな」
カインはわざとなのか、意地の悪い言い方をするも、ジークは親交の深い人間を見捨てられるほど冷たい人間でない事はカインが1番知っており、ジークの答えに満足そうな笑みを浮かべた。
「後は……ノエルは一応、良いとこの娘さんなんだから、後々の事を考えると1通り覚えておいて損はないぞ。ノエルに恥をかかせないためにも」
「た、確かにそうだ」
カインは小さく口元を緩ませると、レインに聞こえないようにジークを呼び寄せるとアルティナの話の時に聞いたノエルがドレイクの名家の出である事を言い、ジークはその言葉で初めて気が付いたようで驚いた表情をする。
「このまま、薬屋を続けるとしても、きちんと挨拶をしに行かないといけないからね。マナーは必要だね」
「必要なのか? いや、でも」
ジークは首をひねり始め、カインはその姿に表情を和らげた。
「あの、カインさん、ジークさんはどうしたんですか?」
「あれだよ。ノエルが愛されてるって事だよ」
「そ、そうなんですか?」
ジークとカインが内緒話のような事をしていた事にノエルは気が付いていたようで、ジークが考え事を始めた事で、ノエルは話の内容が気になったのか、カインに聞く。
カインはノエルの質問に楽しそうに笑うと彼女をからかうように言い、ノエルの顔は真っ赤に染まっていく。
「今更だけど、よく似た2人だね」
「カイン=クローク、あなたは何がしたいのですか?」
カインと話をしていたジークとノエルは作業が続けられそうになく、フィーナもすでにカインの手で沈められている事もあり、セスはカインを責めるような視線を向けた。
「いや、そんなつもりはなかったんだけどね。ただ、ああ言うのを見ると少しだけ、羨ましくなるよね。コーラッドさんもレインもそう思わない?」
「な、何を突然言い出すんですか!? そ、それは確かに羨ましいとは思いますが、私は、あれです。べ、別にあなたの事など」
カインは大切な人の事を思って、成長しようとするジークとノエルの姿に小さく表情を緩ませて羨ましいと言うとセスはカインの突然の言葉に慌て出し、しどろもどろになって行く。
「……そう思うなら、もう少し周りを見たらどうですか?」
「それはそれ。まぁ、何か、俺から言うと負けた気がするから」
レインはカインとセスを交互に見た後に、どちらかが素直になれば直ぐに進展があると思っているようで大きく肩を落とした。
カインはレインの様子に苦笑いを浮かべるとすでに慌て始めて、自分とレインの言葉が聞こえていないセスを見て言う。
「負けた気がするって、そう言う問題じゃ無い気がするんですけど」
「それより、俺に話を振る前に自分の方をどうにかしたらどうだい? 俺みたいなぽっとでの領主より、騎士様の後継問題の方が重要だろ。エルト様もだけど、レインも他人の事を気にし過ぎる前に自分の事を考えたら、どうだい?」
レインはカインの言葉に眉間にしわを寄せると、カインは人の事を心配しているヒマがあるなら自分の事を考えるようにと笑う。
レインはその言葉に若干、バツが悪くなったようでカインから視線を逸らして頭をかく。