第340話
「……レイン、大丈夫か?」
「た、たぶん」
ジークが今にあるテーブルに人数分の朝食を並べているとカインとレインの手合わせが終わったようで、見学をしていたノエルとセスとともに居間に入ってくる。
レインはカインに手酷くやられたようでその様子はボロボロであり、ジークはその様子に眉間にしわを寄せて声をかけるとレインは苦笑いを浮かべる。
「カイン、朝からやりすぎだろ」
「そうでもないよ。王都にいる時より、訓練に充てられる時間は少ないからその分、内容は濃くしないといけないからね」
ジークはため息を吐くとレインをここまで打ちのめしたカインへと視線を向けるが、レインとは対象的にカインは息1つ乱しておらず、レインの訓練に胸を貸しただけだと笑う。
「何と言うか、反則染みてるな」
「反則染みてるじゃなくて、反則です」
カインの様子にジークは頭をかいた後、中断してしまった朝食の準備を再開しようとした時、ノエルはカインの戦い方が信じられないようで顔を引きつらせている。
「どうしたんだ?」
「カインさん、複数の支援魔法を使い分けて戦ってるんです。支援魔法の複数使用は魔力が暴走するから無理なのにそれをやってるんです。支援魔法だけじゃなく、無詠唱魔法も、無詠唱魔法はエルフさんが良く使うから人族には難しいと言う話なのに」
「そ、それは反則だな」
「どうかしたか?」
ノエルはレインの相手をしている時のカインの動きは彼女の理解を超えるものだったようで、顔を引きつらせたままであり、ジークは人族の限界を超えたような戦い方をするカインに眉間にしわを寄せるとカインへと視線を向けた。
カインはジークの視線に気が付いたようでくすりと笑い、何かあったかと聞く。
「ノエルが、お前の戦い方はあり得ないって言うから、俺も支援魔法の複数使用は無理だって聞いた記憶があるんだけど」
「できない事はないよ。魔法が付加されてる武具ってあるだろ。簡単に言えばそれの応用だからね」
ジークはカインの戦い方について聞くと、カインはできない事はないと笑うと懐から様々な色に輝く宝石のような小石を取り出し、テーブルの上に並べる。
「これって、魔力の結晶体か?」
「そう。ジークがワームやルッケルに言ってる間にジオスに戻った事もあるんだけど、2人ともいなかったから、せっかく、ジオスに顔を出したついでにアーカスさんのところに顔を出してきたんだけど、持って行って良いって言うから、持って帰ってきたんだ」
カイン隠す事無く、種明かしをすると青く輝く1つの結晶体を手に取り、窓からはいる日の光りに照らすと、結晶体は日の光を浴びて青い光を反射している。
「これって、あれで作ったって事か?」
「そう言ってたね。アーカスさんが支援魔法用にためた魔力を結晶化したものだって、結晶化しても魔力量が少なかったから、あまり使い勝手がないって言ってたけど、上手く、状況を見て、魔力を引き出してやれば使い方なんていくらでもあるからね」
アーカスはルッケルでの毒ガス騒ぎ後もジオスの遺跡から持ってきた魔導機器をしっかり研究しているようで、その過程で出た物だか、扱いきれる者がいないようで放置されているようである。
「魔力を引き出すって言っても簡単にできるのかよ? 俺は魔導銃を使ってようやくって言った感じなのに」
「まだ実験的なものだけどね……ジーク、朝食にしないかい? 流石に朝から動き過ぎたから限界だ」
簡単に魔力の結晶体を使いこなす、カインの様子にジークは文句がありそうだが、カインはその様子に苦笑いを浮かべた時、彼の腹の虫が盛大に悲鳴を上げ、少しだけ気まずそうに視線を逸らすと頭をかく。
「そうだな。なぁ、カイン、しばらく、フォルムで過ごせって言うなら、買い物してこないと不味いだろ? 食料がないぞ」
「確かにそうだけど……ジーク、その手は何?」
「何って、食糧を買ってくるから、食費をくれ。後、俺、今日はルッケルとワームの連絡係をしないといけないから、フォルムの食料の大まかな値段を教えろ」
流石に6人分の食事を作ると先日までカイン1人で住んでいた屋敷に保管していた食料は底をついてしまい、ジークは無理やり連れてきたんだから、食費を出せと手を出す。
「食料はフォルムで全部、買ってくれ。そうしないと通貨が回らない。お金は後で、まったく、しっかりと育ってくれて、ため息しか出ないね」
「俺に6人分の食費が出せると思ってるのか? 言っておくが、ウチの儲けのほとんどが現物支給だぞ」
「それは知ってる。取りあえず、ジークも座ったら」
カインはジークの様子にため息を吐くと取りあえず、イスに腰掛けると先に朝食を済ませたいようでジークにも座るように言う。
その言葉にジークは視線を移すと自分以外はすでにイスに腰掛けており、何か納得がいかない気分がしながらもノエルの隣のイスに腰を下ろす。
「あの、フィーナさんはどうしたんですか?」
「フィーナ? まだ寝てるんだろ」
ジークがイスに座るが、まだ1席、空席であり、レインはフィーナがいない事に首を傾げるが、ジークは興味がなさそうに言うと食事を始めようとする。
「起こしてきた方が良いでしょうかね?」
「お願いできますか? 流石に俺が行くわけにはいきませんので」
「いや、寝かせておけば良いよ。少しは自分の生活パターンじゃなくて、他人に合わせるって事を覚えた方が良いから、後で俺がお仕置きをするから」
レインの性格ではフィーナがそろうまで食事を始めようとしないと思ったのか、ノエルは席を立とうとし、レインはノエルに頭を下げるが、カインがノエルを止めた。
「同感だな。一応、カインが仕事をさせようとしてるわけだし、フィーナが何と言おうが、フォルムの領主カインは冒険者フィーナの依頼人なんだ。冒険者だって言うなら、立場をわきまえるとか教え込んだ方が良いからな」
「あの、依頼と言うより、拉致と言った方が正しいんじゃないでしょうか?」
「そうですね。フィーナの性格を考えるとカイン=クロークが話をすると意地になる気がしますわ」
ジークはフィーナの意識開拓のためにカインに任せようとするが、フィーナとカインのやり取りに不安しか感じないようで、ノエルは顔を引きつらせ、セスは大きく肩を落とす。