第337話
カインの屋敷の泊まったジークだが、慣れないベッドでは眠れなかったようで朝早くから、目を覚ますと庭先に置いてあった木剣を手に身体を動かしている。
「あれ? ジークが珍しい事をしてる」
「カイン? 朝から何をしてるんだ?」
しばらく、木剣を振っていると視線に気づいたようで手を止めるとカインがこちらを見ている事に気づく。
カインはジークが自分に気付いたため、わざとらしく言うとジークは見られた事にバツが悪そうな表情をして木剣を置いた。
「止める必要はないんだけど、続けてても良いんだよ」
「別に何となく身体を動かしたかっただけだから、もう良いんだよ。それより、お前はこんな時間から何してるんだよ?」
木剣を置いたジークの様子にカインは続けるように言うが、ジークはカインが朝早くから何をしているのか気になったようで庭に現れた理由を聞く。
「何をと言われたら、ジークと同じ理由かな? レインが泊まった時は朝食前に軽く手合わせをするんだけど、最近は机に向かっての仕事が多いせいか、身体が鈍っているから、早めに動いておこうと思って」
「兄貴は宮廷魔術師って立場で、朝から木剣を振ろうとしてるのに、妹は寝てるんだろうな」
カインは寝ぼけている身体を起こそうとしているようで、軽い柔軟運動を開始すると、口は悪く問題の多いカインだが、フィーナに比べると良くできた人間であり、ジークは大きく肩を落とした。
「確実に最後まで寝てるだろうね。朝食の匂いがしてきたら、起きるんじゃないかな?」
「あいつはいろいろと大丈夫なのか?」
「嫁の貰い手があるか心配だね。ノエルが現われなかったら、なんだかんだ言いながらも最終的にジークとくっついただろうけど」
「……いや、それはないだろ。しかし、本当にどうにかしないとこのままずっと村長に寄生して生きて行きそうだからな」
カインは今のままでは本当にフィーナを嫁に貰ってくれる人間が現れないと思っているようで、少しだけ困ったように笑う。
ジークも同意見のようで、フィーナの意識開拓ができないかと考えているのか、乱暴に頭をかいた。
「そこは問題だね。好きな男でもできてくれたら、良いんだけど」
「そうだな……って、おい。いきなり危ないだろ。って、聞け!?」
カインは小さくため息を吐いた後、木剣を2本手に取り、1本をジークに投げて渡す。
ジークはその木剣を難なくつかむがカインの突然の行動に文句を言おうとするがカインはジークに向かって木剣を鋭く振り下ろし、ジークは慌てて木剣で受け止める。
「魔導銃を使い始めてから木剣を使ってなかったわりには身体は動くみたいだね。ノエルの父さんの事もあるから、身体を動かしてるのは覚悟の表れかな?」
「別に良いだろ。それより、そっちこそ、何なんだよ。お前、一応は魔術師だろ。剣のふりがおかしいぞ。確実にフィーナより、鋭いから」
カインはジークが素早く反応した事に少しだけ驚いたような表情をした後、小さく笑みを浮かべると打ち込みの速度を上げて行き、ジークは防戦一方になりながらも、カインの打ち込みを全て木剣で弾いて行く。
「魔術師って言っても、人それぞれだからね。魔法だけ使っていれば魔術師ってわけじゃないよ。ただ、武芸も魔法も両立できる人間が少ないだけ、それに最近は後衛が多かったからね。少し鈍り気味」
「魔術学園が誇る天才様が言うと何か余計にムカつくな」
カインはまだまだ余裕があるようで、1度、ジークと距離を取ると今度はジークに打ち込んで来いと彼を挑発する。
その態度に若干、イラつきながらも直ぐに攻め込んではカインの思うつぼだと思ったようでカインのスキを探そうとその視線を鋭くする。
「って、おい!?」
「いや、ジークの言った通り、俺って魔術師だし、魔術師は魔法を使うものだよ」
しかし、真剣な表情をしたジークの足に庭に生えていた芝が急激に成長し始め、彼の足をからめ取り、庭でジークは逆さ釣りになってしまう。
カインが真面目に手合わせをすると思っていた事もあり、ジークは突然の事に驚きの声を上げるがカインは楽しそうに笑っている。
「……お前が何をやりたいか、俺にはまったく理解できない」
「この後、レインの相手もしないといけないから、余力は残しておかないといけないだろ」
カインが魔法を解除し、庭に下ろされたジークは疲れた様子で言うとカインは思いのほか、ジークの動きが良かったと思っているようでこれ以上の体力は使えなかったと言う。
「余力ね……なぁ、レインって、やっぱり、強いのか? エルト王子やお前は次代の聖騎士になるかも知れないって言ってたけど」
「武芸に関しては充分な素質を持っていると思うよ。気真面目な性格だし、細かい事にも気が利くから他の騎士からの信頼も厚かった。まぁ、中にはレインを罠にはめて汚名を着せようとした人間もいるけど、騎士として愚直と言っても良い。おっさんの下にいたからね。おっさんがそこら辺はカバーしていたしね。ただ、瞬間的な判断を求められた時の判断は遅い。レイン自身はフォローする能力にも長けているから、真っ直ぐに向かって行く人間が副官に付けば部隊指揮としても安定すると思うけど」
レイン相手の肩慣らし扱いされた事にジークは少しだけ面白くないようで不機嫌そうな表情をするが、純粋にレインの実力が気になったようでカインに彼の評価を聞く。
カインはジークの様子に苦笑いを浮かべた後、自分のレインへの評価を口に出す。
「……それって、フィーナみたいな本能で動くバカが一緒だって事だろ。酷い不安がするんだけど」
「そう言われると、そうかもね。まぁ、レインが聖騎士になれるかは王都に戻らないと何とも言えないね。廃嫡はされていないみたいだけど、当主の命令を無視して新米領主を助けるためにフォルムまで来てくれたんだから、早いうちに戻してあげたいんだけどね。俺のそばは自分でいるのもなんだけど山や谷しかないから、進むのは大変だからね」
カインの言う人材をバカだと判断したようで大きく肩を落とすジーク。カインはジークの言う事も確かにあるなと思ったようで眉間にしわを寄せるも、レインの将来の事を考えて王都に戻してやりたいと言う。