第334話
カインが淹れたお茶を前にジークとノエルは彼女の実夫であるレムリアとその最愛の女性であったアルティナの話をカインとセスに話す。
カインは自分が殺されかけた事もあり、両手を組み、眉間にしわを寄せ、セスはノエルとレムリアの関係性に何と言って良いかわからずに複雑な表情をしている。
「そう。あのドレイクはノエルのお父さんか」
「は、はい。すいません」
カインは1度、確認をするようにつぶやくとノエルはカインがレムリアに殺されかけた事もあるため、頭を深々と下げる。
その表情はカインの次の言葉が気になるようで酷く不安げである。
「別に怒らないから、怖がらない。むしろ、そこまで怖がられると傷つくよ」
「す、すいません」
カインはノエルの様子に苦笑いを浮かべた後、場を和ませようとしたようで冗談めかして言い、ノエルはもう1度、カインに向かって頭を下げた。
「カイン、それで」
「現状で言えば、何も言えない。ノエルのお父さんの目的がどこまでかわからない。アルティナさんを奪った国への復讐なのか、人族全てに向けた物なのか……」
ジークはカインにレムリアを止める言い手立てはないかと聞くが、カインは首を横に振るが、何か引っかかる物があるのか乱暴に頭をかく。
その様子にジークとノエルは彼が次に何を言うのか気になるようで息を飲む。
「問題はジークがどのタイミングでノエルのお父さんに『娘さんを僕にください』って、言うかだよね」
「……おい。時間をかけて考えてた答えがそれか?」
しかし、カインの口から出るのは冗談交じりの言葉であり、ジークは気が抜けたようで大きく肩を落とし、カインが悪ふざけを始めた事でセスの眉間にはぴくぴくと青筋が浮かび始める。
「重要な事だろ。タイミング的に上手く行けば、多くの人族、魔族を巻き込んでの婿と舅のケンカで落ち着かせる事もできないかな? と思って」
「いや、無理だろ。だいたい、俺とノエルをどんな立場にするつもりだ」
カインはレムリアが率いる魔族との戦争になった時に、戦争ではなく家庭の問題としようとするが、そうするにはかなり規模が大きすぎるため、ジークは首を横に振り、ノエルは苦笑いを浮かべた。
「歴史に残るんじゃないかな? 義理の息子が良いのが気に入らない義父は友人を味方に夫婦を離縁させようとするけど、息子の友人達がそれを阻止するためにその義父に立ち向かっていく」
「そんなので歴史に残りたくない。普通に人族と魔族の中で争いがなくなったって歴史にしてくれ」
「そうです。それは恥ずかしすぎます」
カインの悪ノリは止まる事はなく、真剣な表情で言うとジークはカインの言葉に大きく肩を落とし、ノエルはその時の事を想像したのか顔を真っ赤にしてうつむく。
その様子にカインは小さく表情を和らげるが、レムリアと対峙した時にジークとノエルが決断しなければいけない問題の事を思ってか、直ぐに表情を険しくする。
「ジーク、ノエル、実際、問題ですが、レムリアさんと対峙した時にお2人はどうするつもりですか? 2人は戦えるのですか?」
「えーと……」
カインが考えている事と同じ事をセスも考えており、真剣な表情で2人に問う。
その質問はノエルからレムリアとアルティナの話を聞いた時から、悩み続けている問題であるため、ジークは少し困ったのか頭をかいた後、表情を引き締めた。
「正直、その時になってみないとわかりません。ただ、力づくで止めないといけないなら、全力でレムリアさんは俺が止めます。それ以外の方法が考え付くなら、そこら辺はカインやセスさんに任せる方法で」
「おい」
「いや、俺のない頭で考えるよりは、相手を無力化させるとか、罠にはめるとかはカインの仕事だから」
ジークはレムリアを最悪の手段で止める場合は自分がやると言う覚悟は決まっているようだが、そうならないようにカインやセスに何かを考えて欲しいと言う。
その言葉にカインは眉間にしわを寄せたまま、突っ込みを入れるが、ジークは自分では無理だと清々しいまでの笑顔で言い切った。
「罠ですか?」
「いや、1番良いのは話し合いでの解決だろ。戦争は人族も魔族も死んじまうかもしれないから、できるだけ避ける方向で、それをできるのは俺達じゃなくて、頭脳労働派の人達だから」
「まぁ、できれば、そうしたいけど。戦争で解決しても絶対に遺恨が残るしね。でも、実際はかなり難しい事だろうね」
セスはジークの言葉に呆れたのか大きく肩を落とすが、ジークは戦争は避けたいと隠す事無く本音を漏らし、カインも戦争を避けたいのは同意見のようで苦笑いを浮かべている。
「それはそうかも知れませんが……」
「そのためにも協力者は増やして行かないといけないね。どうやって、増やしていくかだね」
「あの、カインさん、レインさんに正直に話すわけにはいきませんかね? 後はアズさんやリック先生、ジルさんやジオスの方達にも」
割り切れないのか両手を前に組み、頭をひねるセス。カインは戦争回避のためには人族、魔族、両陣営に協力者を増やす事は必須だと思っており、小さくため息を吐く。
カインの言葉にノエルは親しい人達に自分がドレイクだと隠している事を申し訳なく思っているようでカインにどうにかできないかと聞く。
「そうだね。流石にまだ早いかな? 話は直ぐに広がるだろうし、できればもう少し待った方が良いかな。エルト様が王位を継いだ後にこれからの国の方針を打ち出した後じゃないと危険だと思う」
「で、でも、わたしはみなさんにあれだけお世話になっているのにだましているんだと思うと」
カインはノエルの問いに迷う事無く、焦りすぎだと言うが、ノエルは良心の呵責があるようで目を伏せてしまう。
「ノエルが今、やろうとしているのは自分が辛いから、罪の意識から逃げようとしているだけ、黙っていると相手をだましているからと言っているけど、その事実を聞かされた相手の事を考えていない」
「おい。カイン」
「ジークも聞く。ここからは真面目な話だ」
ノエルの様子にカインは彼女が話した方が良いと思っているのは自分が楽になりたいからだと言い、カインの言葉にジークは慌てて彼を止めようとするが、カインの表情は真剣そのものであり、その様子にジークは息を飲む。