第333話
「なんで、ジークは疲れてるんだ?」
「聞くな」
カインが領主の仕事を終えて、セスと一緒に屋敷に戻ってくるとジークは居間のソファーでうつぶせになり、ぐったりとしている。
その様子に首を傾げるカインだが、ジークは思い出したくないのか小さく首を横に振った。
「あれ? ジークとノエルだけ? フィーナは」
「フィーナさんはレインさんの案内でまだ、フォルムを見ていると思います。わたしとジークさんは途中で別行動になりましたので」
カインはジークの様子に苦笑いを浮かべた後、居間を見回すとフィーナの姿はなく、ノエルに彼女がどこに行くかと聞くとノエルは申し訳なさそうにフィーナ達と途中で分かれた事を告げる。
「なるほど、ジークがノエルを怒らせて、フィーナ達は避難したわけか」
「……そう言う事だ。それで、そっちは何かあったのか?」
カインはノエルの説明とジークの様子から1つの答えを導き出すと、ジークは簡単に自分達の行動が読まれている事に苦々しく表情をゆがめた時、セスの様子がおかしい事に気づく。
セスはカインに名前で呼んで欲しいと言われた事に未だにどうするか考えているようでぶつぶつと呟いており、その姿はどこか怪しげである。
「ちょっとね。それで、何か面白いものは見つかったかい?」
「見つかるも何もノエルから逃げる事に必死で何も見て回ってない。ただ、国境付近って言うわりには平和な感じがしたな」
「まあね。国境が近いと言っても戦線は大部、離れてるし、大きな森があるから、その中を抜けてくる人間は警戒しないといけないけど、そこら辺は使い魔を使って監視してるからね。現状で言えば、襲撃者もなさそうだし、安全だよ」
ジークはカインが治めているわりに平和な事に納得がいかないようで眉間にしわを寄せるがカインはやるべき警戒はしていると笑う。
「ただ、実際はこっちに侵攻してくる余裕はないだけだと思うけどね。何があったかわからないけど10年くらい前に騎士団が国へ帰ったみたいだから、あっちの王都で何かあって、今は国力を維持するために忙しいのかもね」
「カイン、お前はその情報をつかんでないのか?」
「つかんでたら、こんなに曖昧に言わないって、だいたい、その頃の俺はまだジオスにいただろ」
カインはソファーに腰掛けると現在の隣国には戦争を続ける余力はないと思っているようであり、問題ないと言う。
ジークは何か気になる事があるようで、カインに詳しい話を聞こうと身体を起こすが、流石のカインであっても調査しきれていないようである。
「何か気になる事でもあるのかい?」
「いや……」
「ノエル、ちょっと良い?」
カインの問いに口どもるジーク。カインはその様子に何か気が付いたようでノエルを呼び寄せた。
「どうしたんですか?」
「ジークが何を隠そうとしてるか。ノエルは知らない」
「えーと、わ、わかりません」
カインはにっこりと笑い、ノエルにジークが隠そうとした事について聞くとノエルはわからないと首を振るが、その目は完全に泳いでおり、彼女もジークと同様にカインに何か隠している事がわかる。
「あれだね。ノエルが来てから、ジークの隠し事がさらにわかりやすくなった気がするね」
「な、何を言っているんですか? わ、わたしは何も知りません!? レムリアお父様が!?」
ノエルの反応に確信に変わったカインは大きく肩を落とすとノエルは何かを誤魔化そうとするが、既に彼女は完全に慌てており、口を滑らせて、実夫であるレムリアの名前を出した時、ジークがノエルの口を手で塞ぐがすでに遅い。
「……ジーク、ノエル、レムリアって人に付いて詳しく聞こうか?」
「な、何もないぞ」
「そ、そうです。何もありませ……す、すいません。嘘を吐きました!?」
カインは眉間にしわを寄せて、レムリアについて話すように言うとジークとノエルはそれでも誤魔化そうとする。
しかし、ノエルはカインの目から受ける重圧に完全に飲み込まれてしまったようで、おびえた目でカインに頭を下げた後、ジークの後ろに隠れる。
「はいはい。取って食うような事はしないから、ジークの背中の後ろから出て来なさい。それだとまともな話もできないだろう」
「あ、あう」
「カイン=クローク、ノエルを泣かせるなんて、この私が許しませんわ!!」
カインはノエルの様子に彼女をそこまで怯えさせるような事をしてないため、少しキズついたのかため息を吐き、ノエルは涙目になりながら、ジークの隣に座ろうとした時、ノエルの様子にいつものおかしなスイッチが入ったセスがカインを指差し、彼を怒鳴りつける。
「何だろうな。この状況」
「何だろうね。コーラッドさん、今回に関して言えば、俺はおかしな事をしてないから、とりあえず、座る。話が続かないから、俺はちょっとお茶を淹れてくるから、ノエルも話をまとめておいて」
「待ちなさい。カイン=クローク、話は終わっていませんわ」
相変わらずのセスの意味のわからない行動にジークはため息を吐く。
カインはセスに落ち着くように言うと立ち上がり、頭をかきながらキッチンに移動して行き、セスはノエルを泣かせたカインが許せないようで彼の後を追いかける。
「ジークさん、どうしましょう?」
「まぁ、言わないといけないだろ。それに協力しているラミアがフォルムの先々代に関係するんなら、カインもフォルムの現領主として、対応しないといけない事もあるだろうし、それに話さないといけない事なのは確かだしな。今がその時なんだろう」
居間で2人になり、ノエルはレムリアの事をカインに話して良いものか判断が付かないようで不安そうな表情でジークの顔を見上げてどうしたら良いかと聞く。
その様子にジークはポンポンと彼女の頭を優しく叩き、カインを信じようと笑う。
「そうですね。カインさんなら、きっと、レムリアお父様を止める手立てを考えてくれますよね」
「たぶんな。襲撃を受けた恨みがあるから、次に対面した時は完全に無力化してくれる気がする」
「そ、それはそれで不安なんですけど」
ノエルはカインが頼りになる事を知っているためか、表情を和らげるも、ジークの言葉でカインとレムリアが戦う姿が目に浮かんだようで大きく肩を落とすが、その様子からは先ほどまで彼女の顔に出ていた不安の色は払拭されている。