第332話
「思ったより、平和ね。あのクズが統治してるんだから、もっと殺伐としててもおかしくないのに」
「あの、フィーナ、それは言い過ぎだと思うんだけど……」
レインの案内でフォルムを歩くと、領民達の様子は穏やかであり、フィーナは納得がいかないようで眉間にしわを寄せた。
レインは相変わらずのフィーナのカインへの評価に苦笑いを浮かべるが、その時、ジークと目が合い、彼の様子に何か違和感を覚えたようで首を傾げる。
「ジークに何かあったんですか?」
「あったと言うか」
「カイン、ヨケイナコト、イッタ」
ジークは何か考えているのか、眉間にしわを寄せており、ノエルは心配そうに彼の隣を歩いている。
その様子にレインはフィーナに何かあったかと聞くと、フィーナは困ったようで頭をかくがゼイがカインのせいだとあっさりとばらしてしまう。
「カインが余計な事を?」
「そ、わざわざ、ジークを挑発するような事を言うのよね」
ゼイの言葉に首を傾げたままのレインの様子に、フィーナはカインの行動の意味がわからないとため息を吐いた。
「でも、カインが無意味な事をするとは思えないんですが、カインにはカインの考えがあって動いてると思いますよ」
「わざわざ、ジークを怒らせて何をする気なのよ? あいつ、一応、ジークに頼み事してたのよ」
カインの性格を考え、無駄なものはないと言うレインだが、フィーナはわざわざ自分達をフォルムまで連れて来た割に行動が伴っていないと思っているようで、その顔は不満げである。
「……それを含めて、何かの企み事なんだろ」
「ジークさん、どう言う事ですか? カインさんは何がしたいんですか?」
「わからない。目的はわからないけど、意味や裏だけは確実にある」
フィーナとレインが自分の話をしている事にジークは気が付いたようで、カインにはめられている感が否めないこの状況に不機嫌そうな表情をしたまま言う。
その言葉にノエルは意味がわからないようで首を傾げるとジークは大きく肩を落とした。
「何と言うか、絶大な信頼感と言って良いのかな?」
「そ、そうですね」
ジークのカインへのおかしな方向への信頼感にレインはくすくすと笑い、ノエルは何と言って良いのかわからないようで苦笑いを浮かべている。
「何か、全部、あいつの手のひらの上で踊らされている気しかしなくて納得がいかないんだよな」
「そうよね。また、何を企んでいる事やら……レイン、あんたは何か知らないの?」
ジークはカインの目的を何とか見極めようとしているのだが、まったく想像もつかないようで乱暴に頭をかく。
フィーナもまったく想像がつかないためか、レインに何かわからないかと聞く。
「想像はつかないですね。ただ、必要な事ではあると思いますよ。カインは一見無駄な事をしていても、無駄な事はないですから」
「そうだな……ただ、何かあるなら、簡単に説明してくれよ」
「まったくよ」
レインもレインでカインへの信頼を持っており、カインを信じて見ればと言うが、ジークはカインのやり方が納得がいかないようでため息を吐く。
「でも、簡単に言われても、ジークはジークで意地を張って言う事を聞かないんじゃないかな」
「そんな事はないぞ……きっと」
レインはジークとカインの関係を微笑ましく思ったようで表情を和らげると、ジークはレインにまで自分の性格が読まれている気がしたようで眉間にしわを寄せた。
「カインが何を考えてるかは想像がつかないですが、ジーク達にフォルムを見せようとしているのにも意味があると思いますから、しっかり見て行ってください」
「あぁ……だけど、カインが治めているにしては平和すぎる」
「ジークさん、その言い方はどうかと……あの、レインさん、先ほどからずっとみなさんに見られてる気がするんですけど、わたし達、何かしましたかね」
ジークはカインがフォルムを見て欲しいと言った意味を考えようとフォルムの様子をぼんやりと眺めると先ほどのフィーナと同じ感想を持ったようで小さく肩を落とす。
ノエルはその様子に苦笑いを浮かべるが、領民達とすれ違う時の領民の視線が若干、居心地が悪かったようでレインに何か失礼な事をしてないかと聞く。
「何もしてないとは思いますよ。隣国との国境付近ですし、何度も争いに巻き込まれていますから、少し警戒されているのかも知れません。俺やカインがきた時もそうでしたから」
「そんな感じじゃない気がするんだけど……」
「そうよね。視線が私達って言うより、レインに向けられてるし、むしろ、勘違いで睨まれてる気がするわ」
レインは土地柄ではないかと苦笑いを浮かべるが、ジークとフィーナは先ほどレインを追いかけていた女性達の視線と同じものを感じたようで彼の鈍さにため息を吐いた。
「どうかしましたか?」
「いや、実際、レインはこれだけモテてるのに何かないのか?」
ジークとフィーナの声が聞こえたのか首を傾げるレイン。
ジークはその様子に苦笑いを浮かべて、フォルムの女性達からのアタックにどう思っているかと聞く。
「モテていると言われても、俺自身、何でこうなっているかわかりませんし」
「いや、家柄とかいろいろとあるだろ。こんな国境付近までファクト家の名前は知れ渡ってるみたいだしな。次代の聖騎士様とまで言われてるんだ。お近づきになりたい奴らは多いだろ。王都にいる時もモテてたんじゃないのか? ……あの、ノエルさん、どうかしましたか?」
レインは困っているようで大きく肩を落とすが、ジークは少しレインが羨ましいと言いかけると、ノエルはジークの言いたい事が理解できたようで笑顔でジークを見ているが、その目は笑っておらず、ジークはご立腹のノエルの様子に顔を引きつらせる。
「フィ、フィーナ、ノエルサマ、コワイ」
「今のはジークが悪いわね」
ノエルの背中に見える怒りの様子にゼイは顔を引きつらせて、フィーナの背中に隠れた。
フィーナは口を滑られたジークが悪いと思ったのと同時にノエルに押されているジークの姿に少しだけいい気味とだと思ったようで小さく表情を緩めた。
「レ、レイン、案内の続きをしてくれないか?」
「ジークさん、どうして逃げようとするんですか?」
「フィーナさん、ゼイさん、ザガロさん、2人は忙しそうですから、俺達は俺達で行きましょうか?」
ジークは逃亡を試みようとレインに案内の再開を頼むが、ノエルはジークの肩をがっちりとつかむ。
そんな2人の様子にレインは巻き添えはゴメンだと思ったようでジークを見捨て、歩きだす。