第330話
「あの、セスさん、どう言う事ですか?」
「カイン=クロークはシュミット様をはめたメイドが先々代の領主の血を引く者だと考えているんでしょう……他人をバカにするのもいい加減にしなさい」
ノエルは状況が理解できていないようで、セスに質問するとセスは推測の域は脱していないようだが、カインの考えを予想する。
その言葉にカインはわざとらしく驚いたような表情をするとセスはさらに視線を鋭くして睨む。
「わるかったよ。才女として名を馳せてるコーラッドさんをバカにしすぎました」
「カイン、それもバカにしてるのと変わらないんじゃないか? ただ……そう考えると、
フォルムの先代領主は私怨ではめられたのか?」
セスの言葉を聞き、ジークも状況を理解できたようであり、フォルムの先代領主が首謀者側に名を連ねた理由を私怨だと思ったようで首をひねる。
「いや、元々、領民からの評判も悪かったよ。自己顕示欲の強いバカ、もしかしたら、私怨も混じってるかも知れないけど、それ以上に他人の上に立つような人格者ではなかった」
「……それに関してはあんたも他人の事を言えないでしょ」
カインはフォルムに来てから、領民からいろいろと話を聞いて回っていたようであり、先代領主の人格を否定し、フィーナは眉間にしわを寄せてカインも変わらないと言う。
「先々代が無意味な争いを好まなかったから、正体を隠して人の中に紛れ込む魔族にも寛容だったけど、先代は領民の不満を自分から他に向けるように厳しく取り締まった。隣国との国境が近い事もあり、隣国から逃げて来た平民達を魔族として処刑した事も多々ある」
「それがフォルムの統治が上手く行かなかった理由ですか?」
「そう言う事、かなり距離があるから、王都までフォルムの実情は届かなかったし、報告するのは所詮、領主だからね。俺が領主になってからは平和なものさ」
セスはエルトの命令で何度かフォルムに来ていたが、王都に入ってきていたフォルムの様子とカインが治めてからフォルムに違和感を覚えていたようで、現状に納得が行ったのか小さく頷く。
カインはその様子に自分は悪政も善政もまだ行っていませんと手をあげておどけたように言う。
「……嘘臭いわ」
「フィーナ、そう言うな。実際、カインが領主になってから問題は起きていないようだ」
「そこら辺はレインが上手くまとめてくれるからね。ファクト家の名前は力があって楽だね」
フィーナはカインの人格を否定する事もあり、眉間にしわを寄せるとフォルムでカインの手伝いをしているギドはおかしな騒ぎは聞いた事がないと言い、カインはレインの手柄だと笑う。
「レインの手柄?」
「やっぱり、次代の聖騎士候補の名前は大きいよね。こんな国の端までファクト家の名前は知れ渡ってるんだよ。だから、レインは女の子が近づいてきてね」
「ギ、ギドさん、か、かくまってください」
カインはレインの近況を話し始めると、タイミング良く何かから逃げているのかレインがドアを開け、近くの本棚の裏に隠れる。
「タイミング、良いな」
「そ、そうですね」
「ジークにノエルさん? 皆さん、こんなところでどうしたんですか?」
レインの話をしていた時に、彼が現れた事もあり、ジークとノエルが苦笑いを浮かべると勢揃いしている面々を見て身を隠したまま、レインは首を傾げた。
「失礼します。ギドさん、レイン様を見ませんでしたか?」
「レイン? ここには来てないけど、レインも忙しいから、あまり迷惑をかけないように」
「カ、カイン様、す、すいません。以後、気をつけます」
レインから遅れて直ぐに数名の女性がドアを開け、ギドにレインの居場所を尋ねる。
ギドの代わりにカインが答えると領主が出てきた事に女性達は慌てて頭を下げた後にドアを閉める。
「た、助かりました」
「レイン、モテモテ」
「本当ね」
ドアが閉まり、レインは胸をなで下ろすとゼイは楽しそうに言い、フィーナは苦笑いを浮かべた。
「そう言うわけでもないのですけど、カインが表に出る仕事ばかり押し付けるから、目立ってしまったようで、だいたい、フォルム周辺の開拓に護衛がいるなら、実力で考えても俺よりカインの方が高いはずなのに」
「いや、領主がホイホイと街の外まで歩きまわるわけにもいかないだろ」
レインはカインが目立つ仕事を自分に押し付けているせいだと恨めしそうな表情でカインを見るが、カインはひょうひょうとした様子で言う。
「まぁ、カインの言いたい事もわかるけど……何か裏がある気がしてならないんだ」
「わ、わかりません」
「まぁ、俺なりにレインを気づかってる結果だよ。レインが王都に戻るまでに信頼は回復させておいてあげないと、俺のせいでわりを喰らっちゃったしね」
ジークとノエルはカインの行動に何か裏があると思ったようで小さくため息を吐くと、カインはレインに聞こえないように自分なりに、レインが王都に戻れるように考えている事を告げる。
「それで皆さんはどうしたんですか? エルト様もいないようですし」
「レインにはジークに調べ物をして貰ってるって話はしただろ。その件でね。地図を広げてたのはどこで育てるか相談していたんだよ」
レインはジーク達がフォルムにいる理由を尋ね、彼にはまだ魔族と人族の共存について話をしていないため、カインは表情を変える事無く、誤魔化す。
「そうですか?」
「そうだ。レイン、ジーク達をゼイとザガロと一緒にフォルムの中を案内してくれないかな。俺はコーラッドさんとギドと少し話したい事があるから」
レインは特に疑う理由もないため、特に疑う事もない。
カインはレインが居ては話の続きも出来ない事もあり、1度、話を中断しようと思ったようでレインにジーク達の案内を頼む。
「かまいませんが、ギドさんもご一緒しませんか?」
「いや、ワシは調べ物で忙しい」
レインはカインとセスの顔を交互に見て、気を使ったようでギドにも声をかけるが、ギドは首を横に振る。
「あ、あの。カインさん」
「話はまた後でね。レイン、1通り案内したら、俺の家に連れて行って、道に迷ったら困るし」
「わかりました。それでは行きましょう」
ノエルは話の続きが気になるようだが、カインは苦笑いを浮かべて首を横に振る。
ノエルはどこか納得がいかないものの、わがままを言うわけにはいかない事は理解しているようで小さく頷くとレインの案内でジーク達は部屋を出て行き、この場所にはカイン、セス、ギドの3人が取り残された。
「カイン=クローク。先ほどのあなたの言い方は何なんですか?」
「怒らないでくれるかな。俺にだって考えがあるんだからさ」
セスはドアが閉まったのを確認するとカインの物言いに文句があるようで彼を睨みつけ、カインは落ち着いて欲しいとため息を吐く。




