第327話
「一応、知り合いだしな。前に話した協力的なゴブリンのゼイとカインが恩を売ったリザードマンのザガロ」
「そ、そうでしたか……セス=コーラッドです」
ジークはセスの様子に苦笑いを浮かべつつ、2人をセスに紹介する。
以前に協力的な魔族がいる事は聞いているためか、セスは相手の機嫌を損ねても不味いと思ったようで大きく深呼吸をして息を整えるとゼイとザガロに向かって頭を下げ、釣られるように2人も釣られて頭を下げる。
「で、カイン、何で、フォルムに2人がいるんだ?」
「そうです。詳しく説明してくれますよね?」
「詳しくも何もね」
2人が挨拶を終えた事でジークは改めて、カインに説明を求めるとセスはだまし討ちを喰らった事もあり、額に青筋を浮かべてカインに詰め寄るが、カインは苦笑いを浮かべてセスと少し距離を取った。
「どうする? 先に2人に魔法をかける? その方がコーラッドさんも話しやすいだろうし」
「……このままで構いませんわ。エルト様の目指す世界では他種族の方とも偏見など持たずに話さなければいけませんから」
カインにはセスがまだ戸惑っているのが、理解できているようでゼイとザガロに魔法をかけようかと聞く。
セスはエルトの理想の国造りに賛成したからには乗り越えないこと理解しているため、その提案に首を振り、カインは彼女の様子に小さく表情を緩ませる。
「カインさん、あ、あの」
「わかってるよ。フィーナ、ザガロ、ここで乱闘騒ぎを始めるなら、2人そろって眠って貰うよ」
ノエルはセスがカインの前だから意地を張っているのもわかるようで苦笑いを浮かべるも、フィーナとザガロの空気がおかしな事になっている事に気づき、カインの名を呼ぶ。
ノエルの声にカインが彼女の方へと視線を向けるとノエルはフィーナとザガロを指差し、カインは大きく肩を落とすと視線を鋭くして2人を睨みつけた。
カインの視線には他者を圧倒するほどの威圧感があり、フィーナとザガロはその威圧感に怯んでしまったようで顔を引きつらせて廊下の壁に背を預ける。
「カインのプレッシャーは魔術師が放つ物じゃないよな」
「そうですね」
「オレ、サカラワナイ」
カインに圧倒される2人の様子にジークはため息を吐き、ノエルとゼイは自分に向けられた重圧ではないものの、どこかで恐怖を覚えているようで2人でジークの背後に隠れる。
「で、カイン、どうして、こんな事になってるんだ?」
「どうしてって、フォルムの周辺は開拓されてないからね。少しずつ土地を広げていきたいんだけど、戦力が不足してるしね。手が空いてるなら力を貸して欲しいって協力を頼んだんだよ」
「……それだけじゃありませんね」
居間に移動するとカインは単純に力を貸して欲しいとゴブリンとリザードマンに頼んだと言うが、セスはカインの様子から彼が他にも何か考えがあると思ったようでカインを睨みつけた。
「それだけじゃない?」
「ええ、きっと、私がエルト様にはめられたように」
「……あぁ、既成事実を作ろうって事か。レイン相手なら効きそうだよな」
首を傾げるノエルだが、セスは自分と同じく騙される人間がいると思ったようであり、彼女の言葉にジークは察しが付いたようで苦笑いを浮かべながら頭をかく。
「どうして、俺を疑うかな? そんなだまし討ちみたいなことを俺がすると思っているのかい?」
「……その無駄な笑顔がわざとらしくて胡散臭いよ」
「……と言うか、カイン=クローク、あなただからすると言っているのです」
カインはジークとセスから疑われている事に無実だと言いたげに笑うが、ジークとセスはそんなカインの笑顔にさらに不安をあおられたようで大きく肩を落とした。
「信用ないな」
「……でしょうね」
2人の反応にカインはため息を吐くが、フィーナは自業自得だと言いたいようで彼を睨みつけている。
「まぁ、色々とね。レインだけじゃないんだけど、フォルムも調べて見ると面白い土地だって気付いたから」
「……はめられてるのはレインだけじゃないんだな」
カインはフォルムと言う土地に何かあるのか、くすくすと笑うとジークは彼の目的がレインを嵌める事だけではないと察したようで大きく肩を落とす。
「まぁ、それは追々話すよ。まぁ、ノエルは直ぐに気づくかも知れないけどね」
「わたしは直ぐに気づく?」
カインはノエルの顔を見て表情を和らげると、ノエルはカインの言葉の意味がわからないようで首を傾げる。
「そう。ノエルならね」
「カイン、ノエルをおかしな事に巻き込むつもりか?」
「そうじゃないって、表に出る事はできなくても、同じ想いの人間はいるって事」
ジークはカインがノエルをおかしな事に使おうと考えていると思ったようで、カインを睨みつけるが、カインは小さくため息を吐く。
「同じ想いの人間?」
「フォルム、オレタチ、ナカマイル」
「仲間? それって、フォルムの近くにゴブリンが住んでいる事か?」
ゼイは嬉しそうに声を上げるが彼女の言葉に1つの答えを導き出したようで、カインへと視線を向けた。
「ゴブリンじゃないけどね。統治をする上でこの周辺の過去の文献を調べていたら、色々と見つけてさ。流石にレインを嵌めるために危ない橋は渡らないって」
「人族の中でゴブリンやリザードマンが紛れ込んでいれば、魔族が気が付き接触してくる可能性はあると思います。ただ、流石に危険ではないでしょうか?」
ゼイがばらしてしまった事もあり、カインはつまらなさそうに種明かしを始めるが、セスはカインが軽く考えすぎていると思っているようで眉間にしわを寄せている。
「まぁ、その辺は話すにしては役者が足りないね。俺も領主の仕事があるから、そっちは他の人間に任せているし、ゼイとザガロに魔法をかけてから、合流しようか?」
「……まだ協力者がいるのかよ。今度は誰だよ」
「ギドサマ、マッテル」
カインは他の協力者にもあって貰おうと思ったようで、イタズラな笑みを浮かべるとジークは知らない人間を紹介されると思ったようで大きく肩を落とすが、ゼイの口からはギドの名前が挙げられる。
カインは3人を驚かせたかったためか、ゼイにばらされた事につまらなさそうにため息を吐く。
「……ギド、集落の方は問題ないの?」
「ど、どうでしょうか?」
小さいとは言え集落をまとめているギドがフォルムに来てカインの手伝いをしている事にフィーナは信じられないと言いたいようで大きく肩を落とすとノエルは苦笑いを浮かべる。