第324話
「それで、どうする? フォルムに来てみるか?」
「行ってはみたいけど、正直、セスさんの視線が痛い」
改めて、ジークに聞くカインだが、ジークは興味はそそられているもののご立腹のセスが怖いため、フォルムに行く事は出来ないと首を振った。
「そう。まぁ、仕方ない。コーラッドさんはばあちゃんがこれを残した意味も感じ取れてないみたいだしね。これをすべて読み解かないと答えが見えないんだから」
「カイン=クローク、私をバカにしているのですか?」
カインは1度、ため息を吐いた後にセスを挑発するように笑う。その様子にセスはプライドを傷つけられたのか、カインを睨み返す。
「少なくとも、誰かに物を教える時に教える相手の事も視野に入れないような人にはばあちゃんがこれを残した意味を感じ取る事はできないだろうね。ジーク、これの意味を知りたいなら、コーラッドさんに教わるより、参考書や辞書を片手にやった方が効率が良いぞ」
「あ、あの、カインさん、その言い方は良くないんではないでしょうか?」
セスが自分を睨んでいようとお構いなしのカインは、セスではジークに物を教える事は出来ないと言いきってしまい、その言葉にセスの顔は怒りに歪んでいく。
ノエルは一触即発ともいえるこの様子に流石に不味いと思ったようであり、カインに謝って欲しいのか、カインに声をかけた。
「それなら、カイン=クローク、あなたなら、この集中力の欠片もないジークにこの資料を解読させる事ができると言うのですか?」
「当然」
しかし、場を何とか平和に治めたいノエルの思いは当然のように無視されてしまう。
セスはカインにだってできるわけなどないと言いたげだが、カインは当然だと言わんばかりに挑発的な笑みを浮かべている。
「ジークさん、どうしましょうか?」
「放っておいていいだろ。類似点と相違点ね……」
2人の様子に気が気ではないノエルは泣きそうな表情でジークに助けを求めるが、ジークはエルトやライオから魔術学園時代の2人の話も聞いているためか、興味なさそうに言うとアリアの資料に目を移す。
「……殺す」
「フィーナさん? お、落ち着きましょう」
「また、面倒なタイミングで」
その時、店と家の居間を分けるドアが勢いよく開き、ジークとノエルの視線は音のした方向に向けられる。
2人の視線の先には怒りの形相のフィーナが経っており、ノエルは彼女を落ち着かせようとするが、ジークは面倒だと言いたげに大きく肩を落とした。
「フィーナさん!? カインさん、セスさん、逃げてください!?」
「……店の中で暴れるな」
フィーナの視界がカインを捕えると、彼女は一直線にカインに飛びつこうと店の中を駆け出して行く。
ノエルはフィーナを止めようとするが、運動神経が皆無の彼女ではフィーナを止める事はできず、フィーナはノエルの身体を交わすとカインに殴りかかろうと拳を振り下ろす。
しかし、彼女の拳がカインの頬に届く事はなく、その拳はカインに届く前に空を切った。
「ジーク、邪魔をするんじゃないわよ!!」
「人の店で暴れるな」
怒りの形相のフィーナを見た後、ため息を吐いたジークは直ぐに彼女の次の行動を予想しており、冷気の力を秘めた魔導銃で彼女の足を撃ち抜いていたのである。
フィーナは邪魔が入った事に怒りの矛先はジークに向けられるが、ジークは自分勝手な彼女の行動に頭が痛くなってきたようで額を手で押さえた。
「もう1度、眠りにつくか?」
「……」
フィーナがジークを怒鳴りつけている背後に口元を緩ませたカインが立つ。
背後から受ける重圧にフィーナの背中には冷たい物が伝い、顔はこわばって行く、カインの放つ重圧はフィーナだけではなく、ノエルにまで効果があるようでノエルは涙目になりながら、ジークの背後に隠れる。
「カイン、店で暴れるな」
「大丈夫。ジークが動きを止めたから、フィーナが血の海に沈むだけだから」
「訂正する。店を汚すな。血は掃除が大変だ」
ノエルが怯えている事もあり、ジークはカインに止まるように言うが、彼に止まる気などないようでその目には怪しい光が灯っており、手に持っていた杖を天井高くまで振り上げた。
その様子にジークはため息を吐くが、ジークも矛先が自分にくるのは避けたいため、どこか投げやりに見える。
「確かに掃除は大変だ……場所を変えるか?」
「カインさん、できればその振り上げた杖を下ろしましょう」
「そうだね。ノエルから許可も出たし、杖をフィーナの頭の上に勢いよく振り下ろそうか?」
「下ろす場所はそこではありません!? だ、ダメです」
ノエルは声を震わせながらカインに無駄な攻撃は止めようと言うが、カインは楽しそうに笑い、杖はフィーナの頭に向かって振り下ろされ、ノエルは目の前で起きる惨劇に目を逸らす。
「まぁ、冗談だけどね。それに俺に逆らった罰は労働力として働かせよう」
「労働力? って、何をさせるつもりだ?」
「いや、実際、今のフィーナってうちに寄生しているダメ人間だから、ウチの領地で働かせようと思って」
しかし、杖の先がフィーナの頭を割る事はなく、彼女の頭に当たる瞬間にその動きを止め、カインは口元を緩ませる。
その口から出た言葉にジークは意味がわからないようで首を傾げると、カインはフィーナをフォルムに連れて行くと言う。
「イヤよ。何で、私があんたなんかと!!」
「良いんじゃないか? 村長もいつまでもフィーナにただ飯を食わせてるわけにもいかないだろ」
カインとともにフォルムに行くなど耐えきれないフィーナは声を上げ、抗議をするが、ジークはフィーナの事を思うと賛成した方が良いと思ったようで頷く。
「ジーク、裏切ったわね!!」
「いや、裏切るも何もないから」
「それじゃあ、ジークの休憩がてら、フォルムに行くか? コーラッドさんからも許可を貰ったし」
フィーナはジークがカイン側に回った事に彼を裏切り者と罵るが、ジークは呆れたようにため息を吐く。
カインはセスからの挑戦まがいの言葉でジークを動かす権利を手に入れているためか、ジークもフォルムに連れて行く気のようである。
「俺も行くのか?」
「息抜きは大事、ノエルとコーラッドさんはどうする?」
首を傾げるジークに、カインは何か考えがあるようで、ノエルとセスにも声をかけるとノエルは直ぐに頷き、セスはカインのお手並みを拝見だと言わんばかりに頷いた。
「それじゃあ、行くか?」
「私は行かないって言ってるでしょ!! って、何よ。これは!?」
カインが転移魔法の詠唱に取りかかろうとするが、フィーナはジークに動きを止められた足を何とか動かし、逃走を試みようとする。
そんな彼女の頭の上に、先ほどまで止められていた杖の先が落とされると同時に杖の先からは植物の根の用が現れ、彼女の巻き取ってしまう。
「カイン、待ってくれ。店のプレート変えてくるから」
「それなら、問題ないよ」
「わ、わたし、今日は間違いなくプレートを変えました!?」
ジークは断れないと思ったようで席を立って、入口のプレートを準備中に変えてこようとするとカインは彼を引き止め、ノエルは今日は絶対にプレートを変更したと言う。
「いや、ジークがこんな事になってるって知らなかったから、元々、拉致する気で俺がきた時にプレート変えたんだ」
「……取りあえず、カギだけかけてくる」
カインは犯人が自分だと笑い、ジークは何か納得がいかない物を感じながらも店のドアのカギをかけに入口に歩く。