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勇者の息子と魔王の娘?  作者: まあ
暗躍する影
321/953

第321話

「セスさん、休憩しません?」


「……ジーク、少しは真面目に取り組もうと思わないのですか?」


ワームでの話し合いが有ってから10日ほど過ぎた日、相変わらずお客のいない店先でジークはアリアの資料を開きながら、エルトの命により、魔法式の指導をしているセスに休憩を提案するが、セスはその提案を直ぐに跳ねのける。


「まぁ、ジークに言っても無駄じゃない」


「フィーナ、お前だけには言われたくない」


フィーナはノエルが淹れたお茶を口に運びながら、ジークに長時間の勉強は無理だと言うと、ジークはフィーナが邪魔をしにきているとしか思えないようで彼女を睨みつけた。


「セスさん、ジークさんはあまり長時間は集中できないみたいですし、1度、休憩しませんか?」


「しかし、時間がないんですよ」


ノエルは苦笑いを浮かべて、ジークとセスの前に淹れたてのお茶を置くが、セスはいろいろと心配事があるようでジークを急がせている節が見える。


「セスさん、あの小者の事が心配なんですか?」


「それも確かに心配ですが……それより、今はジークの魔法式への覚えの悪さの方が気になります」


ジークはお茶が出てきた事で、一息つけると思ったようで直ぐにお茶を一口飲むと、話題を逸らそうと先日から王都に戻っているシュミットの名前を出す。

セスはそんな彼の様子に1度、ため息を吐いた後にお茶を手に取る。


「セスさん、そんなにジークさんの覚えって悪いんでしょうか?」


「ええ、薬に関する資料ですから、読める場所ではかなり覚えが早いのですが、魔法式が出てきたり、読めない部分があるとすぐに集中力を切らせてしまいますから」


「それは、どうにかしないといけませんね」


ノエルは王立図書館でジークの知らない調合薬の調合方法を直ぐに読み終えた時のジークの姿が目に映っている事もあり、首を傾げるが、セスは彼の集中力は得意分野にしか発揮できないと呆れ顔で言う。


「そんな事を言ったって、セスさんだって、苦手な分野は勉強するのってつまらなくないですか? フィーナみたいにすべて放り投げる人間だっているんですよ」


「ジーク、それは私の事をバカにしてるのかしら?」


集中力が続かないのは仕方ないと苦笑いを浮かべるジークは悪い例の説明として、フィーナを指差すと、フィーナのこめかみにはぴくぴくと青筋が浮かんで行く。


「フィーナさんも落ち着きましょう。ジークさんもどうして、フィーナさんを怒らせるような事を言うんですか?」


「……昔から、フィーナに振り回されていた事への仕返しじゃないか?」


ノエルはフィーナをなだめてから、いつも余計な所でフィーナにケンカを売るジークが何を考えているのか気になったようで頬を膨らませて彼に聞く。

ジークはノエルに言われて少し考えると彼自身も理由などわからないようで首を傾げている。


「子供ですわ」


「そ、そうですね」


ジークの言葉にセスは呆れ顔でため息を吐き、ノエルは苦笑いを浮かべた。


「それで、セスさん、エルト王子と小者の方は順調なんですか? あの小者、おかしな事を企んでいませんか?」


「はい。今のところは問題になっておりません。エルト様の従者数名が流石に慌てましたが、そこら辺のエルト様の行動には皆、慣れていますので」


「……まぁ、それくらいの柔軟性がないとエルト王子のそばには仕えられないよな」


味方のいない状況にジークはエルトとシュミットが上手く行っているかと聞く。

セスは転移魔法でシュミットを王城に連れて帰った時の事を思い出したようであり、自分も振り回されている身として従者達の気持ちもわかるようで眉間にしわを寄せる。

その時の姿が目に浮かんだようで、店内は微妙な空気になり、ジーク、ノエル、フィーナは顔を見合わせた後に苦笑いを浮かべた。


「それでも、色々と問題になったんじゃない? 実際、処分として、ワームに領地替えになってるわけだし」


「いえ、先日、シュミット様が話していたメイドの件なのですが、国王様もラング様も違和感は覚えていたようで、エルト様の説明もあり、現在はエルト様の一時預かりとなっています。常に2人で行動している事もありますが、周囲からのシュミット様への警戒は薄れて行っているように思えます」


「そこら辺は、エルト王子の才能だよな」


シュミットを罠にはめたメイドの件は国王とラングも独自で調べていたようであり、シュミットは減罪されたようだが、エルトの功績はやはり大きかったようである。


「そうですね。他人を許せるのはある種の才能だと思います……ただ、信じすぎるのはどうかとも思いますけど、いくら何でもいろいろと早急すぎますし」


「すいません!?」


「いや、ノエルが謝るところじゃないでしょ」


セスはエルトの器の大きさを評価しているものの、両王子暗殺に魔族が関わってきている事もあり、魔族との共存についてはもっと時間をかけて行うべきだと思っているようで大きく肩を落とす。

彼女の様子にノエルは自分が責められている気がしたようで、慌てて頭を下げるとフィーナは彼女の様子に苦笑いを浮かべた。


「で、ですけど、シュミット様を騙して、エルト様とライオ様の暗殺を企てたのは……」


「……ジーク、ノエル、フィーナ、私やエルト様に隠している事がまだありそうですね」


しかし、ノエルは余程慌てていたようで、ルッケルでの暗殺事件の首謀者が実父であるレムリアだと口走りそうになり、ジークは慌てて彼女の口をふさぐが、既に遅く眉間に青筋を浮かべたセスが3人を睨みつける。


「……セスさん、世の中には知らなくて良い事がたくさんあるんですよ」


「すいません。もう少し時間が欲しいです」


「待ちますわ!! その時が来るまでいくらでも待ちますわ」


ジークは誤魔化せるわけないと思いながらも彼女から視線を逸らし、ノエルはまだ話せないと申し訳なさそうに肩を落とす。

そんなノエルの姿がセスのツボに的中したようで本能が理性を凌駕したようで、彼女はノエルに飛びつき、ノエルを抱きしめると頭を撫でまわしながらその時が来るまで待つ事を約束する。


「ジ、ジークさん、助けてください!?」


「いや、今回は撫でまわされるべきだろ」


「そうね。ノエルの責任ね。だけど……」


「セスさん、相変わらずの変態っぷりだな」


セスの腕の中から助けを求めるノエル。今回はノエルの自業自得の面が多いが、何より全開のセスに関わり合いたくないジークとフィーナは彼女を見捨てる。


「しかし、今更ながら、大変な事に足を突っ込んだな」


「でも、レムリアさんが何をしようと引く気はないでしょ?」


「フィーナもだろ?」


「まあね」


ノエルとセスの様子を眺めながら、レムリアの復讐が少しずつ動き出している事に2人はため息を吐くも、既に腹の決まっている2人には関係ないようで顔を見合せるとイタズラな笑みを浮かべる。

その様子は長い時をともに過ごしてきた2人にしかわからないものであり、多くの言葉を交わす事はない。


第6章完結になります。


半端な気もしますが、セスやシュミットを味方に引き入れ、アリアやレムリアの過去に触れる事とそれなりに重要だったのではないかと思っています。


第7章ではジーク達がカインの領地に向かう事になりますが、フォルムでは何が待ち受けているのでしょうか?


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