第319話
「……今更だけど、大事ね」
「そうだね。それで、シュミット、その男とはどこで知り合ったんだい? いくら何でも簡単にシュミットと面会できるほど、警護も緩くないだろう?」
フィーナは大きく肩を落とすと、エルトは苦笑いを浮かべた後に真剣な表情をしてシュミットに改めて、話せる事はないかと聞く。
「……元々は屋敷に仕えているメイドからの紹介でした」
「メイド? まぁ、男だし、仕方ないよな」
「ジークさん、それはどう言う事でしょうか?」
シュミットはぽつぽつと話し始めると、彼の口から出たメイドと言う言葉にジークはうんうんと頷く。
そのジークの様子にノエルは笑顔でジークの言葉の真意を聞くが、笑顔であるはずのその目はまったく笑っていない。
「な、何でもない」
「……おかしな勘違いをするな。ジーク=フィリス。そのメイドは少し前に落ちぶれてしまった貴族の血に連なる者との事だったのだ。それで家の再建を求めていたのだ。他の者からの評価も悪くなかったし、有能なのは私にも理解できた。そのため、しばらくは私のそばで公務の手伝いをしていて貰いました」
ジークはノエルからの圧力に屈したようで勢いよく首を横に振るとシュミットはその姿に小さくため息を吐いた後にレムリアを連れて来たメイドについて話し始める。
「シュミットにも臣下になるべく人間には力を与える事は許可されていたしね。そのメイドがその男を連れてきたと言う事だね」
「はい。父上にも話を通し、家の再建が現実味を帯びてきた時、その者が私の元に連れてきました。その者の遠縁の者であり、再建がなったなら、この者に自分の補佐をさせたいとそのために私の下で公務に付いて学びたいと」
旧家の再建は順調に進んでいたようであり、その話はラングの耳にも届いていたと言う。
「おかしな所は見当たらなかったのかい? ドレイクなら、見た目に特徴的なものがあるはずだし」
「見当たりませんでした。確かに赤い髪をしていましたが、瞳は青く、角だってありませんでしたから」
エルトはドレイクの特徴を見落としたのではないかと言うが、シュミットはそんな事はないと慌てて首を横に振った。
「青い瞳か?」
「はい……」
ノエルから聞いたレムリアの瞳の色の意味にジークとノエルは小さく表情を歪める。
「その者は私の下で学びたいと言ってはいたものの、その者の見識は深く、私は師のように思ってしまいました。あの者の言う事はすべて正しいとまで思うようになっていました。それであんな事をしてしまったんです」
「それは言い訳だろ」
「ジ、ジークさん、言葉を選んでください」
シュミットはともにいる間にレムリアの言葉を信じて行ってしまったと言うと、自分の本意でエルトやライオを狙ったわけではないと言う。
しかし、ジークには自分のやった行いを他人のせいにしているだけにしか思えずに嫌悪感を露わにするとノエルはジークに落ち着いて欲しいと彼の服を引っ張る。
「シュミット、確認して良いかい? その男がシュミットのそばにはどれくらいの間にいたんだい? もしかして、アンリが体調を崩し始めたころじゃないかい?」
「それは……そうですね。考えると同じくらいの時期だと思います」
エルトはジークとは違い事が思い浮かんだようであり、シュミットのそばに仕えていた男がアンリの体調不良の原因ではないかとシュミットに問う。
シュミットはその言葉に少し考えると小さく頷いた。
「……魔族による呪いか? 現実味を帯びてきたな」
「そうね……ねえ、ジーク、そう考えると王都に流れてた噂って」
「たぶん、王都に紛れ込んでる魔族が流してるんだな。そう考えると厄介だぞ。どれだけの人数が紛れ込んでいるかわからないわけだしな」
「噂を消すためにはジークの働きも重要だね」
以前にエルトから聞いた王都に流れる噂の出所が見えてきた事にジークは眉間にしわを寄せる。
その噂は王都の内側から争いの火種を焚きつけるには充分なものであり、アンリの回復は火種を消すには必要な事であり、エルトはジークに発破をかける。
「わかってるけど……そう言えば、その男を連れて来たメイドってどこに行ったんだ? そいつも魔法か何かで騙されていたのか?」
「……消えた。そんな者などどこにもいなかったように、屋敷の者も誰も覚えていなかった。ルッケルの時に私に協力した貴族達も誰もそんな者はいなかったと言うし、誰も私の事を信じてくれなかった」
ジークはため息を吐いた後にメイドのその後について聞くと、その者は姿を消しており、シュミットはその時の事が信じられないようで乱暴に頭をかく。
「それは……厄介ですね」
「そうですね」
「セス、ノエル、何かあるのかい?」
シュミットの様子にセスは何かに気が付いたようで眉間にしわを寄せた。
ノエルもセスと同様の事を思ったようで不安そうな表情をするとエルトは2人に説明を求める。
「そのメイドだった者は魔眼を持っていると思われます。目を合わせた者に嘘の記憶を植え付ける事ができる者もいると言われています」
「そして、魔眼はラミアと言われる魔族の多くが持っていると言われています」
「ラミア?」
ノエルとセスが導き出した答えはラミアと言う魔族が協力していると言う物であり、エルトは首を傾げるが、王都の中に魔族が入り込んでいる事にラースとレギアスの眉間にはくっきりとしたしわが寄っている。
「でも、ラミアって、割と人族の街に住みこんでいるのよね?」
「何を言っているのだ。魔族と人族がともに生きられるわけがないだろ!!」
フィーナは先日、ノエルから何種類か魔族について聞いていた事もあり、ラミアぐらいいて当たり前という感覚で答えるとシュミットはフィーナを怒鳴りつけた。
「えーと、ラミアは人族と同様の姿をする事も出来ますので、人族の街にいてもおかしくないと思います。そ、それに、あ、あの」
「ラミアは人族の生命力を食わないと生きていけないみたいだから、王都にいてもおかしくないと思うぞ。敵意を持っているかは相手次第だと思うけどな。言いたくないけど、持ちつ持たれつみたいなところもあるんじゃないのか?」
ノエルはシュミットを落ち着かせるためにラミアと言う種族について説明をしようとするが、説明するには恥ずかしい事も混じっており、彼女の顔は真っ赤に染まり出す。
ジークはその様子に苦笑いを浮かべると、理由を察して欲しいと男性陣に目配せをし、ノエルの反応とジークの様子に男性陣は何となく理解ができたようで小さく頷いた。