第310話
「知らん」
「……この答えもいつもの事すぎて、ここに来たって気がするな」
「そ、そうですね」
カインがいつ来るかわからない事もあり、早めに調べ物を済ませておこうと考えた3人は翌日にシルドの店に顔を出した後に罠を解除してアーカスの家にたどり着く。
しかし、アーカスの返事は興味がないためか、いつもの通りであり、ジークは眉間にしわを寄せ、ノエルは苦笑いを浮かべる。
「無駄足じゃない。苦労してここまできたのに」
「だいたい、植物は大地や水から養分を吸い上げ、陽の光を浴びて自らに必要な栄養素を作り上げるんだ。仮にそんな魔導機器があったとしても、そんな物で育てた物が薬草として効果を発揮すると思うのか?」
「それを言われるとな」
フィーナは無駄な時間を過ごした事に不満そうに頬を膨らませると、アーカスはジーク達の浅はかな考えに呆れているようであり、その言葉にジークは気まずそうに頭をかく。
「あ、あの。それなら、アーカスさんはフォルムで育てられる物に心当たりはありませんか? こんな感じなんですけど」
「何か、無いですか? ばあちゃんの資料でも調べて見たんだけど、これと言ったのがなくてさ」
「……アリアの資料を見た? 参考になるほどの資料は置いてなかっただろ」
ノエルはカインから渡されたメモを持ってきており、そのメモをアーカスに渡してアドバイスを求める。
アーカスは面倒事に巻き込まれたとは思いながらも、ジークとフィーナだけなら簡単に追い返せるが、ノエルが加わってからはそう簡単にいかなくなってしまった事もあり、メモを覗き込むと眉間にしわを寄せた。
「そうなんですよね。前はもっとあったと思ったんですけど、思っていたより、資料もなくて、子供の頃に見たから、多かったと思い込んでただけかな?」
「アリアの資料の8割はここにあるからな。たいしたものは見つからなかったんだろう」
「……なぜに?」
ジークは調べ物が終わらなかったのは自分のせいではなく、資料の不足からだと言い訳を始めた時、アーカスの口から思いもよらない言葉が発せられる。
その言葉にジークは一瞬、呆けるも直ぐに疑問の声をあげるが、アーカスが返事をする事はない。
「ふむ」
「アーカスさん、俺の質問に答えてくださいよ!?」
「無理でしょ。アーカスさんだし。アーカスさん、それより、遺跡の中の資料から、面白いものって見つかってないの?」
アーカスはメモへと視線を移しながら、何かを考えるような素振りをしていると、ジークはアリアの資料をアーカスが持っている理由を聞くが、フィーナは無理だと言うと何か面白い物がないかと部屋の中を物色し始める。
「現状で言えば、使えそうなものはない。と言うより、私の知識の中にはない物質を使っている物が多くてな。代用品でできるかと実験をしている段階だな」
「知らない物質ね……何か、強そうね」
「フィ、フィーナさん、その答えはどうなんでしょうか?」
ジークの質問には答えず、フィーナの疑問に答えるアーカスだが、遺跡の中にあった資料での研究は未知の物質などがあるようで行き詰っているようである。
フィーナはあまり難しい事はわからないようで、とりあえず、適当に返事をしておくとノエルは彼女の様子に小さく肩を落とした。
「ふむ……小僧、あの性悪から、この土壌の土や石を貰ってこい」
「へ? それって、フォルムに行って来いって事?」
アーカスに取ってフォルムの土壌のデータは興味がそそる物だったようであり、ジークにいつものように面倒事を押し付ける。
しかし、ジークは突然の事で意味がわからないようで間の抜けた返事をする。
「それ以外に何がある?」
「あの、アーカスさん、それを集めて何をするつもりなんですか?」
「ノエル、聞いたってわかんないんだから、気にしなくて良いんじゃない?」
くだらない質問をするなとアーカスは不機嫌そうに言うと、ノエルはアーカスが何をする気かわからないため、首を傾げるもフィーナはアーカスの難しい話を理解する頭がないせいか、既に投げ出している。
「貰って来いって言われても、俺達、フォルムまでの移動手段がないし、カインがジオスに来てからですよ」
「仕方ない。それで良い」
既にアーカスからアリアの資料の事を聞く事を諦めたジークは時間がかかると言い、アーカスはその言葉に頷く。
「後、カインにただで頼み事をするとおかしな事を押し付けられるんで、代わりのもの、フォルムで育てられそうなものを教えてください」
「自分で調べろ。アリアの資料は書庫にある」
「……無理、あの書庫の中から、俺が目的のものを探すのは無理」
交換条件を出すジークだが、アーカスはそこまでやるつもりはないようで彼を追い払うように書庫へ行けと言うが、以前に書庫で酷い目に遭っているジークが素直に頷くわけがない。
「た、確かにそうですね。並んでいる本がもう少し統一性を持っていれば別ですけど」
「そうね。正直、あそこから、何かを探せる気はしないわ」
「……言っておくぞ。私だって借りた物の取扱い方法は心得ているアリアの資料はまとめて置いてある。机の後ろにある棚だ」
ノエルとフィーナの2人もジークと同じ事を考えたようで肩を落として言うと、アーカスは眉間にしわを寄せた。
「……冗談じゃないですよね?」
「小僧、お前は私をなんだと思っている?」
「いや、ばあちゃんの資料を借りっぱなしなんだし、文句は言えないと思うんですけど」
「そうですね」
ジークの反応にため息を吐くアーカスだがジークの言い分はもっともであり、ノエルは苦笑いを浮かべる。
「それじゃあ、おばあちゃんの資料を持って、店に戻りましょう? アーカスさん、持って帰っても良いのよね?」
「既に私には必要のない物だからな。ただ、それなりに量がある。貴重な資料もあるから、大切に扱え」
フィーナは飽きてきたのか、アリアの資料を持って帰ると言うと、アーカスは特に反対する事もないようであり、資料の取り扱いに注意するようと告げ、自分の研究に戻ってしまう。
「だって、ジーク」
「わかってる。取りあえず、アーカスさんは研究に戻っちまったし、ばあちゃんの資料を持って帰るか」
3人はアリアの資料を見せに持って帰るために書庫に移動するが、アーカスがアリアから借りていた資料は思いのほか多く、担げるだけ担ぎ、転移魔法で店まで移動する事になった。