第305話
「そうです。シュミット様は1度、エルト様とライオ様の暗殺を企てています。そのような場所にエルト様を向かわせるわけにはいきません」
「そりゃ、そうよね。それに正直、信じるには値しないわよ。エルト様がワームに現れるわけがないんだから、ここでエルト様が消えたって、自分には疑いの目なんて向かわないって考えるわよ」
エルトの考えは誰の目から見ても命の危険を伴う物であり、セスは猛反対し、フィーナは大きく肩を落とした。
「セスもフィーナも反対かい?」
「当然です!! ジーク、絶対にエルト様の言う事を聞かないでください」
賛成意見を得られない事にエルトは苦笑いを浮かべるが、セスはシュミットの元に行かせるわけにはいかないため、ワームへ移動手段を持っているジークに釘を刺す。
「いや、俺もセスさんに賛成なんで、ワームに行く気にはならないんだけど」
「それは少し困ったね」
「……本当に困ってるのか?」
ジークはセスに逆らう気はないと両手をあげて言うと、エルトは困ったと言いたげに笑うが、その表情からは諦めと言ったものは感じられず、ジークはエルトがまたろくでもない事を考えていると思ったのか眉間にしわを寄せる。
「そうだね……セス、1つ、聞くよ。ジーク達にもね」
「何でしょうか?」
エルトはわざとらしくため息を吐いた後に1つ質問があると言い、セスはエルトの言葉に騙されないようにと思ったのか身構えた。
「私は父上の後を継ぎたい。種族の争いなどなく、全ての人間が共に笑い、支え合える国を」
「素晴らしい事だと思います」
エルトの口から出た言葉は彼の目指す国の姿であり、セスはふざけている時もあるがエルトが彼なりに国の将来を考えている事も見てきたようでその言葉に素直に頷く。
「その国を目指す上で、従弟1人動かせない者が王になれると思うかい? 夢を語れると思うかい? それともその国を作るために邪魔な人間を排除してしまえば良いと思うかい」
「そ、それは」
「……エルト王子、口が上手くなってるよな」
エルトの目はセスから外れる事はなく、彼の口から出る言葉は正論であるためか、セスは戸惑ってしまい、直ぐには何も答える事ができない。
エルトがセスを黙らせた様子にジークはどこか諦めが出てきたようで大きく肩を落とした。
「と言う事で、3人とも賛成してくれるよね」
「賛成も何も半強制でしょ」
「そ、そうですね」
エルトはセスを黙らせた事に気をよくしたのか、笑顔で3人にも意見を求めるがフィーナはため息を吐き、ノエルは苦笑いを浮かべる。
「そう言って貰えると思ったよ。持つべきものは目指すべき道が同じ同志だね」
「ど、同志ですか? ジーク、詳しい話を聞かせてくれますか? エルト様と一緒に私をはめていたと言う事ですか?」
エルトはくすりと笑うと、その言葉にセスは最初からエルトとジーク達が自分を言い負かすために協力していると思ったようで眉間にしわを寄せながらジークに聞く。
「……どうして、俺達がいつもエルト王子の手先扱いされるんだ?」
「ど、どうしてでしょうね。で、でも、わたし達もエルト様に協力して貰わないといけないところが多いんですから仕方ありませんよ」
ジークはまたもセスからおかしな疑いをかけられている事に力なく笑うとノエルはジークを励ますように言うが、相変わらず、その言葉は励ましにはなっていない。
「いや、ジーク達もシュミットと私が会うのは反対だと思うよ。ただ、3人も私やカインと同じ考えを持っているだけだよ。人族のジークと魔族のノエルが一緒になるにはそんな世界が望ましいからね」
「まぁ、ジークとノエルが一緒になるのは私も反対はしませんが……あれ? 人族のジークと魔族のノエル?」
エルトは2人の様子に苦笑いを浮かべるとわざとなのか、ノエルが魔族だと言う事をセスに話し、セスは信じられない言葉がエルトから出て事もあり、目を白黒させながらジークとノエルを交互に見る。
「おい。エルト王子、いったいどう言う事だ?」
「どう言う事って、セスもさっき、私の理想に賛成してくれただろ。だから、いつまでも隠しておくのも悪いなと思ってさ」
「……と言うか、確実のセスさんが裏切らないための既成事実を作ってたわよね。魔族のノエルと懇意にしていたってなるとセスさんの立場が危うくなるし」
ジークは突然の事に驚きの声を上げると、彼も突然の事で慌てているようでエルトの胸倉をつかむ。
エルトはやはりわざとばらしたようで、悪びれることなく、話すにはこのタイミングしかなかったと言い、フィーナはエルトの様子に大きく肩を落とした。
「ノエルが魔族?」
「はい。隠していて申し訳ありません」
セスは未だに信じられないようであり、ノエルに確認するように聞くとノエルは黙っていた事を申し訳なく思っているようで深々と頭を下げる。
「待ってください。魔族はもっと野蛮で、凶暴でグロテスクで、こんな可愛いノエルが魔族なわけありませんわ!!」
「あー、カインがコーラッドさんの事を変態と言うのも何となくわかるな」
「と言うか、人族と見た目のあまり変わらない魔族もいるわけでしょ。判断基準が違うわよ」
セスの魔族の判断は見て目であり、ノエルを抱きしめて魔族であるわけがないと叫ぶと、ジークは彼女の様子に少し距離を取りたいのか呼び方を変え、フィーナは大きく肩を落とす。
「何を言っているんですか? 誰の目から見てもノエルは人族ではありませんか? 人族と姿形の近い魔族とは言え、どこかに身体的な特徴があります。ノエルにはそんなものはありませんわ」
「コーラッドさん、ノエルの瞳の色と髪の色は? 後、悪いんだけど、ノエルは俺のだ」
「ジ、ジークさん」
魔導機器でドレイクの象徴の1つである2本の角も目視できないため、ノエルは人族にしか見えず、セスはノエルを抱きしめたまま、ふざけた事を言うなと叫ぶ。
その姿にジークはため息を吐くも、いつまでもセスがノエルに抱きついているのが許せないようで彼女の手の中からノエルを引っ張り出し、自分の手の中に収めるとノエルは目の前に映るジークの顔を見て頬を染める。
「瞳は金色、髪は赤ですが、それがどうかしましたか?」
「それじゃあ、ここ、触って」
「あ、あの」
セスは最初からノエルが魔族だと言う事を嘘だと思っているため、瞳と髪の色では彼女がドレイクだと気づく事もなく、その様子にジークはノエルの頭を触ってみるように言う。
「何を言っているんですか? ノエルの頭に何か……あの、これって、もしかして、角ですか? 金色の瞳に燃えるような赤い髪、そして、2本の角?」
「あれ? ノエルってドレイクだったんだ? それなら、あの魔力の高さも頷けるね」
セスはノエルの頭に2つのなれない感触がある事に気づき、彼女の頭は直ぐにノエルが魔族の中でも最高位であるドレイクだと答えを出したようで、顔から一気に血の気が引いて行く。
しかし、彼女の主君であるエルトは種族の違いなど些細な事と思っている事もあり、ノエルがドレイクだと知っても驚く事はない。