第303話
「……ジーク、どう言う事、あのおっさんがまともな事を言ってるわ」
「フィーナ、実際、お前も店から勝手に商品を持って行ってるんだ。あの小者と同じ事をしてるんだぞ」
シュミットの自分勝手な意見を跳ね返すラース。その姿にフィーナはおかしな物を見ていると思ったようで首を傾げるが、ジークはフィーナの考えを変える事ができるのではと思ったようで、普段、彼女がやっている事はシュミットと変わらない事を伝える。
「いや、いくらなんでも、あの小者みたいな事はしてないでしょ」
「えーと、フィーナさん、言い難いんですけど、金額の問題かも知れませんがやってる事は一緒です」
「それは……少し反省するわ」
フィーナはシュミットと一緒にして欲しくないようだが、ノエルはバツが悪そうに首を横に振ると、彼女の様子とシュミットと同類になりたくないようで反省すると小さく頷いた。
「そうしてくれ……それで、おっさん、俺達はいつまで待っていれば良いんだ? 正直、無駄な事に付き合ってるほど、ヒマじゃないんだ」
「あぁ。すまんな」
ジークはシュミットに付き合っていられないと少しげんなりとした様子でラースに声をかけると、ラースもシュミットに付き合うのは時間の無駄だと判断したようで彼を置いて歩き出そうとする。
「貴様、平民の分際で、王族である私の話を無駄とはどう言う事だ!!」
「あっ!? ……あの、だ、大丈夫ですか? ケガはありませんか?」
シュミットは平民と見下しているジークにバカにされた事が気に入らないようで矛先を彼へと変え、ジークの胸倉をつかもうとする。
しかし、感情的になっているシュミットにジークを捕まえる事などできるわけもなく、ジークはシュミットの突撃を交わすと前のめりになっている彼の足を引っ掛けるとシュミットは地面に顔から倒れ込んで行き、その様子にノエルはシュミットに駆け寄るとケガの有無を聞く。
「ジーク、あんた、やるわね」
「あんなのに捕まったら、カインに何を言われるかわからないだろ。と言うか、頭に血が上ってるのを差し引いても、運動能力はエルト王子の2~3周り以下だな」
心配しているノエルとは正反対にフィーナはジークの行動を誉め、ジークにいたっては冷静にシュミットがエルトよりだいぶ劣ると彼の評価を行っている。
「貴様、平民が王族をバカにして許されると思っているのか!!」
「威張り散らすだけの小者に何を言われたって痛くも何ともないね。少なくとも俺に非はない。それなのに文句を言われて、他人からの預かり物を力づくで徴収されそうなんだ。抵抗くらいする」
シュミットは額に青筋を浮かべながらジークを怒鳴り散らすが、ジークから言わせて貰えば自分に非などなく、シュミットの言葉には頷けないときっぱりと言う。
「ラース!! 貴様は私の臣下だろう。主に逆らったこの平民を投獄しろ。これは命令だ!!」
「……いや、おっさんは小者の教育係として、ワームに来たのであって、小者の家臣でも何でもないだろ」
「あぁ、国王様とラング様の指示で、シュミット様の間違いを正すように仰せつかっている」
シュミットはラースに命令するが、ジークは彼の言葉に心底呆れているようで大きく肩を落とし、ラースは自分とシュミットの関係をはっきりさせておこうと思ったようで間違った意見は聞けない事を告げる。
「そんなわけがあるか!!」
「いや、言いたくないけど、あんた、エルト王子とライオ王子の暗殺まで企ててるんだ。あんまりおかしな事をしてると地方都市に飛ばされるだけじゃなく、首が飛ぶんじゃないのか?」
「実際、ラング様の功績があって助けて貰ったようなもんでしょ。本人に実績も何もないんだから、おっさんだけじゃなく、他についてくる家臣もいないんじゃないの?」
シュミットは血脈は尊重されるべきだと思っており、自分の言葉は絶対だと言おうとするが、現実的なジークと名目上は冒険者と言う実力主義の世界にいるフィーナから見ればシュミットはただのわがままの子供以外の何物でもなく、彼の言葉を瞬時に否定した。
「小僧、小娘、ずいぶんとバッサリと言うな」
「いや、ルッケルの騒ぎからエルト王子とライオ王子に巻き込まれて、振り回されている身としては、王族にははっきりと言いたい事は良いって事がわかった。エルト王子もライオ王子も、それにラング様も正しい事を言っていればきちんと話を聞きいれてくれるって事を身を持って体験したからな」
「ち、父上が?」
ジークとフィーナの言い方にラースは言い過ぎだとは思ったようだが、ジークはシュミットを黙らせる必要があるためか、ラングの名前を出し、父親であるラングの名前にシュミットの顔は小さく引きつって行く。
「小僧、お主、いつの間にラング様とお会いしておるのだ?」
「あー」
ラースはラングの名前が出た事に眉間にしわを寄せる。
ジークはアンリの体調不良の原因が魔法的なものだとラースが知っているかわからないため、困ったように笑う。
「ふむ……確かにアリア殿の血を引く小僧なら考えられる事か」
「あの」
「……」
ジークの様子から、ラングと知り合ったきっかけに1つの当たりを付けたようでラースは眉間にしわを寄せるとノエルはアンリの事がどこまでラースの耳に届いているか気になっているようである。
シュミットはラースの声が聞こえたようで、何かジークの不利になる事や自分に都合のいい事を探そうとしているようで聞き耳を立て始めた。
「いや、カインが俺の作った栄養剤を飲んでて、懐かしさのあまりにウチに取引を持ってきただけだ。ばあちゃんの栄養剤を常用していたらしい」
「……あの栄養剤か? レギアスも作っているが、良くあんなものを飲む気になるな」
ジークはシュミットの様子に気が付いたようで、シュミットにアンリの症状について教えるのは騒動のタネになりそうな気もしたようで、アリアから引き継いだ栄養剤の名を上げて誤魔化そうとすると、レギアスもアリアの教えの通りの栄養剤を調合しているようで彼の眉間のしわはさらに深くなって行く。
「ジーク、何をいってるのよ? ……」
「と言う事で、ラング様も俺の重要なお客様って事です。魔導機器で王都まで行けるようになったから、これがなくなったら、王都まで行けませんからね。おっさん、それより、早くしてくれないか?」
「そうだな。シュミット様、我らは公務に戻りますので用が済んだようなのでお帰り下さい」
フィーナはアンリの事を隠す理由がわからないようであり、簡単に話そうとするが、ジークが直ぐに両手で彼女の口を塞ぐとラングの名を強調してシュミットに魔導機器を取り上げる事などできないと釘を刺し、フィーナがいつ余計な事を言うかわからないためか、早くこの場を切り抜けたいようでラースを促す。
ラースはジークが何か誤魔化しているのは理解できたようだが、シュミットがいる場で話す事ではない事は察したようで頷くとシュミットに1度、頭を下げた後に応接室に向かって歩き出し、3人はラースの後ろを追いかけるが、1人取り残されたシュミットは忌々しそうに4人の背中を睨みつけている。