第3話
「そ、その、ドレイクさんが何かようなのかな?」
「は、はい。そうですね。あ、あの、失礼ですが、お父様とお母様は御在宅でしょうか?」
「い、いや。い、いないよ。うちに帰ってきた事なんてないから、どこかで冒険とかしているんじゃないかな?」
ジークは恐る恐る少女にここにきた理由を尋ねるとどうやらジークの両親に用があるようだが彼の両親は生まれたばかりの彼を祖母に預けて1度も村に帰ってこないため両親はどこで何をしているかはわからないと言うと、
「帰ってきた事がない? そ、それじゃあ……す、すいません。ジーク=フィリスさんでよろしいんですよね? 名乗るのが遅れてしまい申し訳ありません。私、『ノエリクル=ダークリード』と言います。ノエルと呼んでください」
「は、はい、ご丁寧にありがとうございます」
「ちょっと、ジーク、あんたは何をしているのよ。あの娘はドレイクなのよ」
「い。いや。わかっているんだけど、なんかあの娘のペースはずれていると言うか、完全に巻き込まれている気がする」
ドレイクの少女は自分を『ノエリクル=ダークリード』と名乗り、深々と頭を下げるとジークもつられたようでノエルに向かい合って頭を下げるが、フィーナはこの状況は絶対におかしいためかジークの首をつかみ、耳打ちをするが彼の頭のなかにあったはずの警戒心はノエルのゆったりとした空気に完全に流されている。
「それで、そのドレイクのノエルがおじさんとおばさんに何かようなの?」
「ちょっと、フィーナ、押すなよ!?」
「えーと、あの、わたしは名乗ったんですが、何と御呼びしたらよろしいんですか? あのできればお名前を教えていただけないでしょうか?」
フィーナはノエルを警戒しているようで敵意の視線を込めながらも絶対に自分程度では敵わない事も本能が理解しているため、ジークの背中に隠れて彼女にジークの両親を訪ねてきた理由を聞くとノエルはフィーナの事をなんと呼んでいいのかわからないようで行儀よく聞き返し、
「フィ、フィーナ=クロークよ」
「フィーナさんですね。よろしくお願いします」
「えーと、こちらこそよろしくお願いします」
「……フィーナ、お前だって俺と同じじゃないか」
「し、仕方ないでしょ。そ、それより、ジーク、この娘、何なの? ペースが崩されるわ。意味がわからないわ」
フィーナは警戒しながらも逆らって彼女の逆鱗に触れるわけにはいかないと判断したようで名前を名乗り、ノエルはジークに名乗った時と同様に深々と頭を下げるとフィーナもノエルにつられて、ジークの後ろから出てきて深々と頭を下げ、ジークはフィーナの様子にため息を吐くとフィーナはノエルと言うドレイクが彼女の持つドレイクからかけ離れすぎているためか眉間にしわを寄せてぶつぶつと言い始める。
「俺に聞くなよ。それでノエルはこの村にと言うか、俺の両親に何の用?」
「は、はい。私がここにきたのは、ジークさんのご両親に無駄な火種を起こして欲しくないからです」
「無駄な火種?」
「はい。えーと、ジークさんのご両親だけではないのですけど、部族間で違いはありますけど、基本的に私達は争いを好みません。それなのにドレイクだから、魔族だからと言われて多くの仲間達が争いに巻き込まれているんです」
「「へ?」」
「どうかしましたか?」
ジークはノエルの様子にすでに完全に警戒心は取り払われてしまったのか先ほどまでは恐る恐る使っていた敬語も止めて、彼女にこの村を訪れた理由をもう1度聞くと彼女の口から出た言葉は自分やフィーナの持っているドレイクの印象とは異なり、世界平和や種族間の争いを止めたいと言った理由であり、予想の斜め上を行くノエルの回答にジークとフィーナは間の抜けた表情をするとノエルは2人の反応の意味がわからないようで首を傾げ、
「ちょ、ちょっと待ってくれ!! ドレイクは人間に敵対していて俺達人間を餌とかくらいにしか考えてないんじゃないのか?」
「それは大きな勘違いですよ。わたし達ドレイクは竜族の血をひいていると言われているため、攻撃性に特化しているとか凶暴だとかは言われますけど、わたし達にだって文明はありますし、家畜の飼育くらいはしていますよ。人族のお肉なんて食べません。それはあれです。ふーひょーひがいです」
「風評被害?」
「そうです。それです」
「……そうなの? でも、文献にはドレイクは人族の血肉を好むって」
ジークは自分の頭が付いてこないためか驚きの声を上げてノエルに向かい、捲くし立てるようにドレイクに人族は餌でしかないと言うがノエルはそんな事はないと言いたいようで頬を膨らませ、ジークとフィーナはノエルの言葉を信じて良いものかわからないようで顔を見合わせた後、フィーナはもう1度、確認したいようで恐る恐る自分の知っているドレイクの好物が人間だと聞き返すと、
「それは先ほども言いましたが、ドレイクは竜族の血をひいているためか、強さに憧れる人も多くて強い相手の血肉を自分のなかに取り入れ。さらに高みを目指すと言う困った風習がありまして」
「そ、それって、おじさんとおばさんを殺しに食べにきたって事!?」
「ち、違います!? わたしはそんな風習信じていませんし、何より、わたしは菜食主義者ですし」
「「……」」
ノエルは申し訳なさそうに目を伏せながらドレイクは強さに憧れているだけだと言うがフィーナはノエルの言葉にやはり、彼女がジークの両親を殺しにきたと思い、声を上げるとノエルは慌てて自分は菜食主義者だと言い、その言葉はジークとフィーナと言った人族から見ると信じられない事であり、眉間にしわを寄せた後、
「菜食主義者って事は肉や魚は食べられないのか?」
「はい。健康の事を考えるとお肉やお魚もバランス良く食べないといけないのは理解しているのですが、どうしてもダメで……」
「……ベジタリアンなドレイク? どうしたらいいのかしら、今日で私の中にある常識がすべて崩れて行く気がするわ」
「……奇遇だな。フィーナ。俺も同じ感想だ」
ジークは目の前にいるノエルと言うドレイクが理解しきれないようでノエルにもう1度、肉類は食べないかと聞くとノエルは申し訳なさそうに言い、彼女の様子にジークとフィーナの持っていたドレイクと言う種族への価値観は破壊され始めている。