第297話
「何か、納得がいかないわ」
「気にするな。一応は誉めてるからな。俺がフィーナを誉めるなんてめったにない事なんだ。喜んでおけよ」
ジークの様子に納得のいかないフィーナだが、ジークはその様子に苦笑いを浮かべたままである。
「そう? それなら、良いわ」
「まぁ、それで騙されるなら、それで良い」
「やっぱり、バカにしてたわね!!」
フィーナはジークが誉めたと言った事で、少しだけ気分が良くなった様子だが、ジークは簡単に騙されるフィーナに小さく肩を落とす。
そこでフィーナの怒りは瞬間的に跳ね上がり、勢いよく立ちあがるとジークを指差し、怒鳴りつけた。
「バカにされるだけの事を言ってるだろ。実際、俺やフィーナの頭の出来はカインの足元にも及ばないんだ。それに元々、俺達3人でできるような事でもないだろ?」
「それはそうだけど……」
「カインに作戦を考えさせたくないなら、セスさんって話にもなるだろうけど、彼女は魔族にあまり良い印象を持ってないからな。エルト王子の考えを王室で理解してくれてる人間だってきっと少数だ。そこから広めて行かないとどうしようもない。仮に俺達と同じ考えを持ってくれた人族や魔族が多くても、その後につながる物がなければどうしようもないしな」
ジークは理想を持つ事は重要だと思っているようで、目先の事だけでもなく、もっと先の事も考えようと思っており、それには多くの人族や魔族の力が必要だと言う。
「先の事を見過ぎじゃないの? あんた、自分は商人だから現実的に考えないとか、そんなような事を言ってなかった?」
「そうなんだけどな。目指す先も見ないで、その場所にたどり着けないのはイヤだろ? ルートを決めて、こつこつとでも進んで行けば良い。現実的だろ」
「こつこつとやって、いつまでかかるのよ?」
フィーナは非現実的だと言うが、ジークは現実的に考えていると笑い。その様子にフィーナはため息を吐いた。
「さあな。そこら辺は悪いけど、他人任せだ」
「無責任ね」
ジークのため息混じりの言葉にフィーナは1度、ため息を吐いた後、2人で顔を見合せて苦笑いを浮かべる。
「私、帰るわ。ノエルの事、任せるわ」
「任せるって、俺1人かよ?」
「あんた、ノエルの彼氏でしょ。それくらいやりなさいよ」
フィーナは言いたい事は全部、話し終えたと言うと家に帰ると言い、ジークは今の状態ではノエルと2人っきりと言うのは少しだけ、気まずいようで彼女を引き留めようと立ち上がるが、ジークの様子にフィーナは少しだけ意地悪く笑うと店を出て行く。
「……ったく、さてとどうするかね」
「遅くなりました……あれ? フィーナさんはどうしたんですか?」
フィーナが出て行ったドアを見て、ジークは困ったのか頭をかいた時、ノエルが3人分のお茶を持って戻ってくる。
フィーナがいない事に首を傾げるノエルだが、やはり、1人で泣いていたようでその目は赤く充血している。
「帰った」
「そうなんですか? せっかく、美味しくお茶を淹れる事が出来たと思ったんですけど」
「まぁ、フィーナの分くらいは飲めるだろ」
ノエルはフィーナが帰ったと聞き、少しだけ残念そうな表情をするとジークはそんな彼女の頭を優しく撫でた。
「ジークさん、どうかしたんですか?」
「いや、何でもない」
ノエルはジークの突然の行動に首を傾げるとジークは苦笑いを浮かべながら、拭き切れていないノエルの頬に残っている涙を指で拭う。
「あ、あの」
「気にするな。1人で泣きたい時ってのはあるしな。だけど、できれば、1人で泣かないで欲しいかな? 俺はノエルの彼氏なわけだし、それにずっと一緒に生きていこうって約束したわけだしな」
ノエルはジークの行動に泣いていた事が知られてしまった事に気づき、気まずいのか視線を逸らす。
その様子にジークは彼女を抱きしめ、優しい声で言う。
「で、でも」
「でもはなし。覚悟なんてとっくに出来てるんだ。俺もフィーナも、同じ世界を作ろうとしているエルト王子やカインだって、それに答えないといけないだろ? 俺達は多くの人の意思を継いでるんだ。他種族と言葉を交わす事を望んだ研究者達、遺跡に住んでいた2人、アルティナさん、そして、ノエルの本当のお父さん、きっと、他にも俺達が目指す世界を望んだ人はいる」
ノエルはレムリアがカインの命を狙った事に罪悪感を持っているようで、目を伏せたままであるが、ジークは彼女を抱きしめたまま言う。
「そうでしょうか?」
「あぁ、俺達がそれを信じないとダメだろ?」
「そうですね」
まだ不安なのか、ノエルの声は震えているが、ジークは彼女の不安を和らげるように笑顔を見せ、その笑顔に釣られるようにノエルは微笑む。
「まぁ、問題はノエルの父さんを一時的にでも止められるかだ……ノエル、伯父さんをぶつけて、止める事ってできないか?」
「レムリアお父様とシイドお父様をですか? ……」
「ノエル、黙りこまれると凄い不安になるんだけど」
ジークは同じドレイクならレムリアを止められるのではないかと思ったようで、もしもの時はシイドに動いて貰おうと思ったようだが、その言葉にノエルの顔はひきつって行く。
ジークはその様子にレムリアとシイドの過去に何かあったと思ったようで顔を引きつらせる。
「えーと、レムリアお父様が領地を出て行こうとした時、シイドお父様と一悶着ありまして……」
「良し、ノエル、俺は今、何も聞かなかったし、今の質問については忘れてくれ」
「そ、そうですね」
ノエルの様子からレムリアとシイドの間で起こった戦いはかなりの被害を出したようであり、ジークは現実から目を逸らそうとこの話を終わらせようとし、ノエルも大きく頷いた。
「とりあえず、何からやったら良いかは相変わらずわからないけど、頑張るか?」
「そうですね……あ、あの、カインさんを狙ったのがレムリアお父様なら、やっぱり、カインさんに謝った方が良いでしょうか?」
「あー、別に良いんじゃないか? ノエルの父さんがやった事であって、ノエルがカインに何かしたわけでもないし、それに謝るとおかしな事を押し付けられるぞ」
「で、でも、黙っているとレムリアお父様だったってばれた時にもっと大変な事になりませんか?」
「……否定できないな」
ジークとノエルは顔を見合せて苦笑いを浮かべると、ノエルはカインに謝罪が必要か考え始め、ジークは必要ないと言おうとするがカインの性格を考えれば何とも言えず、2人の間には微妙な空気が流れる。