第296話
「そうだとしてもな」
「追いかけたいのはわかるわよ。でも、ノエルの性格を考えるとこんな重たい話だと泣きたくても人前じゃ泣けないでしょ。私やあんたに迷惑をかけるって」
ジークはノエルを1人にしたくないようだが、フィーナはノエルの性格を考えて時間をあげて欲しいと言う。
「確かにそうなんだけど……」
「それに私達だって考えないといけない事ってあるでしょ。あのクズを殺そうとしたのは称賛しても良いと思うけど、ノエルのお父さんが人族と全面戦争とか考えてたら、大変な事よ。実際にルッケルにまで現れてるんだし」
ジークはフィーナの言葉に頷ける部分もあったためか、イスに腰をかけ直すが視線はノエルが向かったキッチンへと向けられている。
そんなジークの様子にフィーナはため息を吐くも、心配ごとは尽きるわけもなく、近いうちに起こるかも知れない種族間の大戦争の事を考えているようで身体は小さく震えている。
「それは確かにそうだな……それに言いたくはないけど、ノエルの父さんは俺達の戦いを見ていたわけだ。そうするとノエルがいる事も知っていた。それなのに仕掛けてきたんだ。迷いなんてきっとない」
「ノエルがいるのに仕掛けてきたのよね。アルティナさんの死にノエルは彼女の意思を継ごうとして、恋人だったノエルのお父さんは復讐を誓った……きついよね」
ジークはノエルとレムリアの関係性を考えると彼がルッケルでカインの命を狙った事にはすでに彼の覚悟が決まっている事が理解でき、乱暴に頭をかいた。
フィーナはジークの言葉でノエルが抱えているものの重さを少しだけ感じ取れたようで目を伏せてしまう。
「きついだろ……でも、もし、2人が直接ぶつかりあうような事になったら、俺達にノエルの父さんを止められると思うか? どれだけの人族からアルティナさんを奪い返したかはわからない。1部隊、全員を殺したって事はないとは思うけど、拷問に気が付き、彼女を奪い返すために多くの命を奪ったはずだ。そんな存在を止められると思うか?」
「難しいかも、実際、ノエルは運動神経は皆無だけど、魔力量は私達の想像できないくらいにあるし、ドレイクの戦闘能力なんて想像もできないわ」
ジークとフィーナはノエルと同じ道を目指すと決めた事もあり、種族間の戦争が起きてしまった時に望む望まないに関わらず、レムリアの前に立つと言う事は理解できている。
しかし、2人にとっては最強の魔族であるドレイクの戦闘能力など予想できるわけもなく、圧倒的であろうその能力差に背筋には冷たい物が伝う。
「それでもやらないといけないんだ」
「わかってるわよ。やるって決めたんだから、ノエル1人に重たい物を背負わせるわけにはいかないでしょ。それにノエルのお父さんを止めてあげないとアルティナさんがかわいそうよ。ノエルはアルティナさんが自分でノエルのお父さんに瞳を託したって言ってたわ。それはきっとこれからも同じ物を見ていたいって事だったんだと思う。それは彼女が望んだ世界の事だと思うから、絶対に止める」
「そうだな」
レムリアと対峙した時に逃げるわけにはいかない事は当然の事であり、ジークはノエルとともに生きるためには絶対に乗り越えないといけない壁である。
そのため、ジークの腹は座っているが、危険な事であるため、フィーナにはそこまでを望む事は出来ない。
しかし、フィーナの意志もすでに固まっており、その目には強い意志が宿っている。
そんな彼女の反応にジークは口には出さないが頼もしいと思ってしまったようで小さく表情を和らげた。
「それにノエルと同じ想いなのは私とジークだけじゃない。エルト様やギド、ゼイと言ったゴブリン達にリザードマン、ノエルの故郷の人達だってきっと協力してくれるわ」
「おい。そこでカインも入れてやれよ」
「あのクズは裏しかないからダメよ。いつ裏切るかわからないわ」
フィーナは少ないけれど協力者はいると言うが、その中からはなぜかカインは外されており、ジークは苦笑いを浮かべるが、フィーナは相変わらず、実の兄であるカインを信じていないようで声を大にしてカインは裏切ると主張する。
「フィーナがそう思うなら、そう思ってても良いけど、あいつの事だ。どこで聞いてるかわからないぞ」
「……」
「いや、流石にいないだろ」
ジークは冗談を言うが転移魔法の使い手であり、神出鬼没のカインの事のため、フィーナは店の中にカインの気配がないか確認し始める。
そんな彼女の様子にジークは大きく肩を落とした。
「そう思いたいけど、あのクズの事よ。どこで見ているかわからないわ」
「その間違った信頼をもう少し正してやれよ。実際、王都で何を学んでいたかは良くわからないけど、まだ話が通じるようになってるだろ」
「ジーク、あんた、おかしな物を食べた? それとも、あのクズに魔法で洗脳でもされた? ……洗脳? 自分で言っといてなんだけど、あのクズならあり得るわ」
ジークはエルトと出会った事でカインも成長しているんだと思っているようで、フィーナにカインへの評価を考え直す事を考えろと言う。
しかし、フィーナがジークの言葉に耳を傾ける事などなく、フィーナはぶつぶつと人道から外れた事でもカインならやる可能性が高いと恐ろしい事まで言い始める始末である。
「あー、洗脳でも良いや、それにそんな魔法があるなら、一時的でもノエルの父さんを抑え込める」
「何よ。その投げやりの反応は!!」
フィーナの言葉にジークは呆れたようで投げやり気味に言うと、フィーナはジークの反応におかしな所に火が点いたようでジークを怒鳴りつけた。
「いや、言いたくもなるだろ。あまりにバカらしくて」
「何ですって? 私の事をバカにしてるって言うの?」
「いや、良い感じに力が抜けたって事だ。難しく考え過ぎたってダメなんだよな。そう言う頭を使うのはきっとカインやセスさん、ギドの役目だし、エルト王子もできる人間にできる仕事を押し付けておけば良いって言ってたしな」
フィーナはジークを睨みつけるが、ジークはフィーナの様子に少し肩の荷が下りたようで苦笑いを浮かべる。