第294話
「本当の父親か?」
「はい」
ジークはノエルの口から出た真実をかみしめるようにつぶやくとノエルは小さく頷いた。
「ノエル、普通のドレイクの瞳は両目とも金色であるはずなのに、どうして、ノエルの父さんの瞳は片方だけ青いんだ?」
「それは……以前、わたしがドレイクは他者の血肉を取り入れてさらに高みを目指すと言った事を覚えていますか?」
「あぁ……確か、ノエルが初めてジオスに来た日に言ってた事だよな?」
「覚えてるわ」
ジークはノエルの実父であるレムリアの瞳の謎について聞こうとするとノエルは昔、ジークとフィーナに人族が持っているドレイクの誤解を解くために話した事を覚えているかと聞く。
その言葉にジークとフィーナは頷くが、そこに何か謎があると思ったようで息を飲んだ。
「強者と戦いその者へと近づこうとするため、それ以外にもう1つ意味があるんです」
「もう1つの意味?」
「はい。それは大切な人を忘れないための行為、友人、家族、そして……恋人」
「恋人? ノエル、ジークの肉、食べて見る?」
「……フィーナ、真面目な話をしてるんだから、少し黙ってろ」
ノエルの真剣な様子にフィーナは少し場を和ませようと思ったようだがその冗談は笑えなく、ジークは黙ってるように言う。
「流石に冗談よ。でもさ。仮に他者の肉を食べても瞳の色って変わるの? あれ、違うか? そうなるとノエルってドレイクと他の種族のハーフ?」
「ハーフ? なんで、そんな事になるんだ?」
「だって、普通のドレイクは両目ともに金色なんでしょ。それに仮に他の人間の血肉を取り入れたとして、瞳が青に変わったとしたら、お母さんは別種族でしょ?」
「そう言われるとそうだな」
フィーナはノエルがドレイクと他種族の混血だと思ったようであり、ジークはため息を吐くが、フィーナの考えを聞くと納得できる部分もあり、首を傾げる。
「いえ、わたしのお母様もドレイクです。そして、フィーナさんの言う通り、他種族の血を引くと瞳の色が変わる事もあるそうです」
「それなら、ノエルの父さんはハーフなのか?」
「いえ、違います。お父様も純血のドレイクです。ただ……もう1つだけ、ドレイクの身体的特徴である金色の瞳の色を変える方法があるんです」
ノエルの父親が他種族との混血であれば、瞳の色が違う事も納得ができ、ジークは彼女に尋ねる。
その問いにノエルは首を横に振った後、混血以外でも瞳の色を変える方法があると言うが、その表情は暗く沈んでいる。
「もう1つだけ?」
「はい。その方法は……」
「ノエル、言いたくないなら、無理しなくても良いのよ。私達は待つし」
ノエルは言葉を何とか出そうとするが、なかなか言葉にできないようであり、彼女の様子にフィーナは彼女の気持ちを落ち着かせようとしたようで表情を和らげていつでも良いと言う。
「話します。話さないといけないんです」
「ノエル……」
ノエルは決意を表すためか、両頬を叩き、その場にはパンと言う音が小さく響いた。
その様子にフィーナは彼女のが今、大きな決断をしようとしている事がわかるためか、彼女の次の言葉を待つように息を飲む。
「ドレイクはその生命力の強さから、自然治癒能力が高いんです」
「あぁ。それもドラゴンの血を引くからと言われる由縁だよな?」
「はい。そして……仮に身体の1部を欠損した時は他の生命の肉体を使ってその傷を癒す事が出来ます」
ノエルの口から出た言葉にジークとフィーナは何を言われたかわからないようであり、その瞳には戸惑いの色が濃く現れている。
「ノエル、それはノエルの父親は誰かから目を奪ったって事か?」
「……いえ、あの青い瞳の持ち主が望んだ事です」
ノエルの父親が失った瞳を補うために他者を傷つけたのではないかと思ったジークだが、ノエルは首を横に振った。
「ひょっとして、ノエルのお父さんの恋人? あれ? そうなるとノエルのお母さんは?」
「わたしのお母さんはわたしが小さい時に病気で亡くなりました」
「そうすると、恋人って事で良いのよね?」
「はい……『アルティナ=ホーミット』さんと言う人族の女性です」
レムリアの片目は恋人の瞳であり、ノエルは彼女の名前を話す。
ノエルはレムリアとアルティナがともに生きる事が出来なくなってしまった日の事を思い出しているのか悔しそうに唇をかんだ。
「人族? どうして、人族が?」
「元々はシイドお父様の領地にアルティナさん達冒険者4人が迷い込んでしまったんです。魔族の領地に現れた冒険者。多くの領民は自分達の平和を脅かす存在として認識したんです」
ドレイクと人族はお互いに接触する事は少なく、フィーナはレムリアとアルティナが恋仲になった事に首を傾げる。
ノエルはフィーナの様子に2人が出会うきっかけになった事を思い出しており、今も昔も変わらない種族間の軋轢に悲しそうに笑う。
「それはそうだろうな。長い間で血が流れ過ぎてるからな」
「はい……でも、シイドお父様もレムリアお父様も人族との争いを望んでいませんでした。アルティナさん達がケガをしていた事もあり、領地の隅にある別宅をあてがい療養をして貰っていたんです。その責任者がレムリアお父様でした」
領地を管理している2人の兄弟は争いを好まず、アルティナ達の傷が癒えるまで彼女達の身柄を保護する事を決めた。
「その中でアルティナって人に手を出したの? ノエルのお父さんもやるわね」
「フィーナ、変な言い方をするな」
「いえ、結局はフィーナさんの言う通りですし」
フィーナの言葉にジークは肩を落とすが、ノエルは実夫の行動に少し恥ずかしくなったようで苦笑いを浮かべる。
「最初は警戒していた冒険者達も領民も長い時間をともに過ごして行く事で、お互いの誤解も解けてきました。わたしもお父様に付いて行って、アルティナさんや他の冒険者の方達にも遊んで貰いました」
「平和ならそれが1番よね」
「だけど、話はそれで終わらないんだよな」
ノエルはその時はお互いの誤解が解けていたと信じていたようであるが、その表情は沈んでおり、ジークは全てが丸く収まっているなら、レムリアがアルティナの瞳を持っている理由がないため、真剣な表情を聞く。