第293話
「俺は調合に戻るけど、フィーナ、用がないなら、ノエルの邪魔をするなよ」
「わかってるわよ……ねえ」
「何だよ? ノエル、どうかしたか?」
エルトとセスを見送った後、ジークは調合作業に戻ろうと席を立とうとする。
フィーナは軽く返事をすると残っているお茶を飲んで帰ろうと思ったようだが、ノエルへと視線を向けるとノエルは先ほどのドレイクの話を聞いてから、どこか心。ここにあらずと言った感じであり、フィーナはそんな彼女を見て、ジークを呼び止めた。
フィーナに呼びとめられ、面倒な事を押し付けられるかと思ったジークだったが、フィーナの指先にいるノエルの様子に首を傾げる。
「い、いえ、何でもありません!?」
「何でもないって言われてもね」
「そうだな。ちょっと、お茶を用意してくる」
ノエルはジークに声をかけらると慌てて、何もないと言うが、その様子からは明らかに何かあり、ジークは何となくだが、話が長い物になると察したようでキッチンに移動して行く。
「それで、ノエル、何かあったの?」
「そ、それは」
「フィーナも、落ち着け」
少しして、ジークが3人分のお茶を洋して戻ってくると、フィーナはノエルの様子がおかしい理由が気になるようにノエルに詰め寄り、ジークはそんな彼女の様子を見て、ノエルが話しにくいだろとため息を吐いた。
「ノエル」
「は、はい!?」
「何となく思ったんだけど、ルッケルに現れた片目だけが金色のドレイクはノエルの知り合いか?」
「そ、それは」
ジークはノエルの様子がおかしくなってきているのは、先ほど話が出たドレイクに関係しているのではないかと思ったようで真っ直ぐに彼女の瞳を見つめて聞く。
その瞳から逃れる事は出来ない事を知っているノエルはどうして良いのかわからないようで目を伏せてしまう。
「図星か?」
「え? どう言う事?」
「……フィーナ、お前はもう少し、いろいろと考えてくれ」
ノエルの様子にジークは苦笑いを浮かべるが、フィーナはノエルの様子がおかしい事はドレイクが関係しているとは全く思っていなかったようで首を傾げる。
そんなフィーナの様子にジークは時折、鋭い事は言うものの、基本的に何も考えておらず、本能の赴くままに動く彼女の事が心配になったようで大きく肩を落とした。
「な、何よ?」
「いや、情報をまとめるのは冒険者には重要な能力だと思ってな」
ジークのため息にフィーナは不満そうな表情をするが、ジークはバカにされても仕方ないだろうともう1度、ため息を吐く。
「あ、あの、ジークさん、フィーナさん」
「ノエル、聞いておいて言うのもなんだけど、話せないなら、話さなくても良いぞ」
「ちょ、ちょっと、ジーク、それってどう言う事よ」
ノエルは話そうと決心したようだが、その瞳には迷いの色が濃く出ており、ジークは彼女の迷いに時間が必要だとも思ったようで苦笑いを浮かべる。
しかし、フィーナはノエルが隠している事が気になるようで、ジークの言葉に反対するように言う。
「ノエルだって、俺達が見たドレイクが知り合いだって確証はないだろうし、それにそのドレイクが俺が言った通り、ノエルの知り合いだとしたら、話せない事だってあるだろうしな」
「そうだとしても」
ジークは時間が必要だと思っているようで、フィーナに落ち着くように言うと納得がいかないフィーナは乱暴に頭をかく。
「あ、あの。ジークさん」
「何だ?」
「1つ、確認したいんですけど、その片目だけが金色のドレイクさんのもう片方の瞳の色は何色でしたか?」
ジークの予想している通り、ノエルには片目が金色のドレイクに心当たりがあるようであるが、ノエルはルッケルでカインの命を狙ったドレイクが自分の知り合いではないと思いたいのか、ジークに1つの質問をする。
「もう1つの瞳の色? ……確か、青?」
「青ですか? ……そうですか」
ジークはノエルの質問に自分の過去に記憶を引っ張り出し、ジークの答えにノエルの表情は沈んで行く。
「……当たりだったみたいだな」
「でも、瞳の色が同じだけでしょ」
「違うんです。普通のドレイクの瞳が金色以外になる事はあり得ないんです」
フィーナはノエルの反応にただ事ではないと気付いたようで、ノエルに気にしないように言うが、ノエルは首を横に振った。
「それって、どう言う事?」
「……フィーナ、お前、わからないで話をしてるのかよ。ルッケルに現れたドレイクがノエルの知り合いの可能性がもの凄く高いって事だろ」
「それくらいはわかるわよ。ジーク、あんたは私の事をどこまでバカにしてるのよ? 片目だけが違う色をしてるって言うのは何か特別な事が起きてるって事でしょ?」
「まぁ、そうだな」
フィーナはジークにバカにされた事が面白くないようで視線を鋭くして言う。
ジークはフィーナが話の内容を理解できていた事に少し驚いたような表情をした後に苦笑いを浮かべた。
「とりあえず、ノエルだって、考えをまとめる時間がいるだろ。無理には聞かないさ。ただ、決心が付いた時は話してくれると嬉しいな」
「ジークさん……いえ、聞いて欲しいです」
ジークはまだノエルが迷っているため、考える時間が必要だと言うと調合に戻ろうとしたようで席を立とうとするが、ノエルは迷ってはいるものの、このままではいけないと思ったようでジークの服をつかみ、彼を引き止める。
「良いのか?」
「はい。ジークさんとフィーナさんには聞いて欲しいです。その人はたぶん、『レムリア=ダークリード』……わたしのお父様です」
ジークの問いにノエルは小さく頷いた後、カインを狙ったドレイクの名前と自分との関係を話す。
その言葉にジークとフィーナには一瞬、何があったかわからないようであり、呆気に取られたようで言葉を失う。
「ちょっと待って。前にノエルはノエルのお父さんもノエルと同じで、人族と魔族の共存を望んでいるって」
「はい。あの、わたしには2人のお父様がいます。1人は本当のお父様、そして、わたしをここまで育ててくれたお父様は『シイド=ダークリード』。本当のお父様のお兄様になります。実際は伯父様になります」
フィーナは以前にノエルの父親がノエルの考えにも賛同してくれていたと言う話を思い出し、声をあげるが、ノエルは申し訳なさそうな表情をして、自分にとって2人の父親がいる事を告げた。