第284話
「立ち話もなんだしな。一先ずはお茶でも飲みながらにするか」
「そうだな。小僧、小娘、行くぞ」
状況の理解できていないジークとノエルの余所にラースとレギアスは近くに立っている休憩所らしき建物に向かって歩き出す。
その様子にジークとノエルは慌てて2人の後を追いかけて行く。
「シンプルだけどキレイにしているな」
「そうですね」
休憩所はいくつかの部屋があり、レギアス以外の薬草農園の従業員の休憩場所以外にもレギアスが使用する休憩場所兼来客用の応接室も用意されている。
ジークとノエルはこんな農園の真ん中にあるにしては立派なものであり、2人は驚きの声をあげた。
「小僧、小娘、少し落ち着いていろ」
「まぁ、そうなんだけど」
レギアスは農作業をしていた事もあり、着替えに行っている事もあり、2人が落ち着かない様子を見てため息を吐くが、ジークは部屋からレギアスとアリアの関係につながる何かがないか探したいようである。
「ジークはアリア殿と私の関係が気になっているようだな」
「うっ……それはまぁ」
その時、正装に着替えたレギアスが応接室に入ってくるとジークの姿を見てくすりと笑う。
ジークはレギアスの顔を見て、気まずそうに視線を逸らした。
「改めて、名乗らせて貰おう。レギアス=エルアだ」
「ジーク=フィリスです」
「ノエリクル=ダークリードです」
レギアスはジークが自分の事を覚えていない事もあり、改めて、自分の名前を名乗るとジークとノエルは慌ててレギアスの後に続いて名前を名乗る。
「ふむ……あの小生意気な子供が色を知る年になったか、アリア殿も喜んでいるだろうな」
「……なんですか?」
レギアスはジークとノエルの顔を交互に見て口元を緩ませるとジークは少しムッとしたような表情をするがそれ以上、何かを言えるわけもない。
「まぁ、それに関して言えば、私には関係のない事だから、これ以上、言うの事はないな。本題に移ろうか」
「お願いします」
レギアスはジークの表情の変化が楽しいのか笑顔を見せた後に真面目な表情をするとジークは頭を下げる。
「まずは、ジークが私の事もまったく覚えていないようだからな。私とアリア殿関係について話をしておこう。アリア殿は私の師だ」
「師って、先生って事ですか?」
「そうだ。私はアリア殿に薬学とはなんたるものかを学んだ」
「ばあちゃんの弟子?」
レギアスはアリアの弟子だと告げるがジークは実感がわかないようであり、眉間にしわを寄せている。
「信じられないか?」
「それは、そうでしょう。レギアス様はワームの貴族だし、ばあちゃんはジオスって村の小さな薬屋だぞ」
「そうだな。多くの者に自分の知識を分け与えた後は自分の出身地であるジオスに戻ってしまったがな」
ジークの様子にレギアスはアリアがジオスに戻った日の事を思い出しているのか懐かしむように言う。
「そうなんですか?」
「元々はその薬に魔力を付加させる事ができると言う特殊な能力があった事で、王都の魔術学園に特待生として入学したのだがな。魔法の才能はからっきしでな。ワームにきて、医術や医療について学んでいた。そこで小さいながらも若い者達に自分の薬の知識や調合方法を指導していた。治癒魔法を併用する医師が増えたなか、『魔法の才能がないのは考えものだね』といつも苦笑いを浮かべていたがな」
レギアスの口から伝えられる祖母アリアの過去にジークは聞いた事のない話であり、その表情は真剣なものになっている。
レギアスはその様子にジークがアリアの事を尊敬している事を感じ取れたようで優しげな表情を浮かべた。
「それでも、神聖魔法や精霊魔法による治癒魔法を使える者は限られている。村に戻ってからは採取できる薬草の種類の少なさや品質の悪さに苦労していたようでな。薬草類を買い付ける事は出来ても……」
「貧乏な村じゃ、そんな高価な薬は買えないからな。ばあちゃんがそう言うところで苦労していたのは覚えています。実際、それがあったから、ウチでもいくつか薬草を栽培しているわけだし。この間の薬草は育てられませんでしたけど」
「あぁ。その件もあり、アリア殿から、ワームで栽培できる事は出来ないかと相談されていたわけだ。ワームはこの国のなかでは医療にも力を入れている。その国で貴重な薬草を栽培する事が出来ればワームの益にもつながるのでな。アリア殿が育てる事のできなかったいくつかの薬草類の品種改良や土壌整備を私が引き継いだのだ。エルア家には私の父上が私欲でため込んだ財が無駄に余っていたのでな」
レギアスはアリアからの頼みを快く受けてくれたようであり、本人は冗談めかして笑っているが、どれだけの費用や時間をかけたかなどジークには想像などできないが大変な手間をかけてレギアスがこの農園を作り上げた事はわかる。
「あ、ありがとうございます」
「何、私もジークと同じくアリア殿の意思を継がせて貰った者だ。これくらいは当然だ。まぁ、最近の調合師や商人はそれをわかっていないようだから、困っているのだがな」
レギアスの尽力にジークは自然に頭を下げてお礼を言うとレギアスは笑顔を見せた後に後進が育っていない事を嘆いているようで両手を組みため息を吐いた。
「小僧もなかなか、ルッケルではアズ様に吹っ掛けているようだぞ」
「お、おっさん、何を言うんだ。俺の商品は適正価格だ」
「そ、そうです。ウチのお薬の売り上げ、あんまりありません。日々の食費でいっぱいいっぱいです」
「小僧、それは男の甲斐性として、どうかと思うぞ」
ラースはジークをからかうつもりのようで口元を緩ませるとジークは反論し、ノエルも続くが、ノエルの言葉から、ジークは必要な時は売上を度外視してしまう事もある事が明らかである。
ラースは彼女の言葉に少し呆れた様子でため息を吐いた。
「し、仕方ないだろ。うちの村は金がないんだ。物々交換って言って、薬を持って行く年寄りがいるし、人の家を喫茶店か何かと勘違いしている王子だっているんだから、それに当然のように商品を盗んで行く奴とかな」
「小僧、お主、商才がないのではないか?」
ジークはジオスで薬屋をやって行くにはそれなりの苦労があると言うが、それはラースに取っては言い訳にしか聞こえなかったようで眉間に深いしわを寄せる。