第281話
ジークとノエルはルッケルでラースと合流するとワームに転移すると、ラースの案内でレギアスの屋敷へと向かっている。
ラースは騎士鎧を着ているわりにかなり歩くスピードは速い。ジークとノエルはその後を離れずに歩いているが、ノエルはついて行くのが精一杯のようですでに息も絶え絶えに見える。
「と言うか、おっさん、どこに行くんだ? レギアス様って人の屋敷に行くんじゃないのかよ」
「黙って、付いて来い。あまり遅くなるとお前達も困るだろう」
ジークとノエルの視線の先はワームの都市部から離れて言っており、ジークは郊外になど貴族であるレギアスの屋敷があるとは思っておらずに首を傾げた。
しかし、ラースは文句を言わずに歩けと言い、先に進んで行こうとする。
「そうなんだけど……おっさん、待ってくれ。まだ歩くなら休憩してくれ」
「休憩だと? たいした距離など歩いてはいないぞ。軟弱な事を言うな……」
「俺は別に疲れてはいないけど、女の子もいるんだ。休憩、もしくはもう少しゆっくり歩いてくれ。正直、このまま、おっさんのペースで歩いてはいけない」
ジークはラースを呼び止める。
ラースはこの程度の距離を歩いただけで休憩と言うジークを軟弱だと言いたいようで表情をしかめるが、ジークではなく、ノエルはラースが止まった事で呼吸を整えようと大きく息をしている。
その様子を見て、ラースの表情はさらに険しくなって行く。
「す、すいません」
「いや、ワシの方こそ、すまん。そうだな……」
ノエルはラースの表情の変化に気づき、頭を下げるが、ラース自身、ノエルの体力を考慮していなかった事を申し訳なく思ったようで素直に詫びを言うと周囲を見回す。
「おっさん、何を探してるんだ?」
「まだ距離もあるのでな。冒険者の店に馬車でも借りようと……小娘、どうかしたのか?」
ラースはノエルの体力を見越して、馬車での移動に変更しようと思ったようだが、馬車と聞き、ノエルの顔は真っ青になって行く。
「あー、ノエルは馬車が苦手なんだ」
「何?」
ノエルの様子にジークは苦笑いを浮かべながら、ラースにノエルの馬車嫌いを説明するとラースの眉間にはくっきりとしたしわが寄った。
「おっさん、実際、どれくらいかかるんだ? それなりに遠いなら、やっぱり馬車の方が良いだろうし」
「ワームと宿場町の中間あたりだ」
「そうか……待て。その距離を歩かせるつもりだったのか?」
「たいした距離ではないだろう」
「……この体力バカが」
ジークとしては馬車の方が楽だなと思ったようで、ノエルを説得するための材料を探そうと目的の場所を聞く。
ラースが目指している場所は予想以上に遠く、ジークはラースの体力と一緒にされたてはたまらないと思ったようで大きく肩を落とした。
「ノエル、どうやら、馬車に乗らないとノエルの体力は尽きる」
「あう。馬車は気持ち悪くなりますし、でも、このまま、ラースさんのペースで歩くと気持ち悪くなりますし」
ギド達ゴブリンの集落に行く時に、1度、立ち寄っている宿場町の手前まで行くと知り、ジークはノエルの説得に移ろうとするとノエルは馬車はイヤなものの体力にも自信がないため大きく肩を落とす。
「ノエルにとっては究極の選択かも知れないな。両方苦手な事だし」
「苦手なものとは言えな……小僧、どうするつもりだ?」
「とりあえず、馬車は借りて置いた方が良いんじゃないか? おっさん、冒険者の店の馬車じゃなく、おっさんも名家なら、良い馬車を持ってるだろ。良い馬車の方が揺れないし、おっさんの屋敷に1度、移動しないか? おっさんの屋敷の前を転移先に再登録しないといけないし」
悩むノエルの姿にジークは苦笑いを浮かべるとラースはこのままではどうしようもないと思ったようでジークにこの後の事を聞く。
ジークはノエルがどう思おうが、馬車の移動の方が良いと思っているようで、カルディナ家の馬車を使えないかと言う。
「使えない事もないが……かなり歩くぞ」
「それでも、レギアス様がいる場所よりは歩かないだろ」
ラースは現在はワームの領主になったシュミットの補佐がメインであり、ワームの中心近くに住んでいる。
そのため、ラースはノエルの体力を心配するが、ジークは割り切っているようでため息を吐いた。
「結局、馬車に乗るなら、ここで乗ってレギアスのところで馬車を借りて帰ってきても変わらない気がするが」
「いや、俺達、転移魔法でジオスに帰れるから、このままだとおっさんの屋敷も知らないで終わりそうだし、俺達もそんなにヒマじゃないんだ。レギアス様に会った後におっさんの屋敷に行くと時間もかかるだろうし、レギアス様の話だって、どれだけかかるかわからないんだしな」
「ふむ。そうだな」
ラースは自分の屋敷まで移動する意味がわからないようで首を傾げるが、ジークはワームに着けばすぐにレギアスと会えると思っていた事もあり、予想以上に時間がかかりそうだと言うとラースも納得したようで頷く。
「それなら、行くか……小僧、小娘をどうにかしろ」
「あー、ノエル、行くぞ。今度はおっさんの屋敷だ」
「馬車は気持ち悪くなるし、でも、これ以上は歩くのはつらいし……どっちが良いんでしょう?」
ラースは案内しようと思ったようでノエルへと視線を向けるが、未だにノエルはまだ2つの選択肢で頭を抱えており、その様子にラースはどうして良いのかわからないようで眉間にしわを寄せた。
ジークは苦笑いを浮かべるとノエルの顔を覗き込むが、かなり迷っているようでジークの事にも気が付いていないようである。
「……小僧」
「とりあえず、引っ張ってくか? こうなるとノエルは長いんで」
「そうか? それなら、行くか」
ジークの声にも反応しないノエルの様子にラースはため息を吐く。
ジークはたまにノエルが陥る状態のためか、諦めもあるようでノエルの手を引っ張り、ラースはこれ以上は今のノエルに関わるのは面倒だと思ったようで、歩きだそうとする。
「おっさん、ゆっくりとな」
「わかっている」
「行くぞ」
ジークはラースの背中を見て、ノエルの体力を考えて欲しいと言うとラースはその言葉に頷く。