第279話
「ワームとルッケル主体とは言え、国へと申請もしていますので街道整備は少なからず、そのような目的があります」
「この間、ゴブリンとリザードマンが出たからってわけじゃないんですね? 王都から兵士や騎士達を呼び寄せて探索とかを考えているわけではないって、捕えてて良いんですよね?」
街道整備自体が非常時の軍の移動を視野に入れているものであり、アズは小さく頷くとジークはアズの考えの中に魔族討伐はあるかと聞く。
「そうですね。現状で言えばルッケルでは魔族討伐の部隊を編成する気はありません。ただ、魔族の目撃が増えるようなら、対処はしなければいけません。先日、ジオス周辺での魔族が目撃されたと言う話もあれ以来聞きませんから、しばらくはそのような事は起きないと思います」
「おっさんはどうなんだ?」
アズは現状では魔族討伐は予定にないと笑うと、ジークはラースの考えを聞きたいようで視線を移す。
「小僧、そんな事を聞いてどうするつもりだ?」
「どうするつもりも何も、俺達平民は戦争になんか巻き込まれたくないんだ。魔族と争いになったら、人族も魔族も多くが死ぬだろ」
ラースはジークの問いに何かあると思ったようで彼に真意を聞くとジークは当たり前の事を聞かないでくれとため息を吐いた。
「魔族もと言ったか? 魔族が滅びた方がワシらは人族には都合がよいであろう。それに我々、騎士は魔族の脅威から人族を守るのが使命だ。騎士はそのために魔族と命をかけて戦う。それこそ、魔族が滅びるまで」
「そ……ジークさん?」
「おっさん、それは悪いけど、騎士の理由だ。俺達は何も魔族を滅ぼす事は望んでないからな。現時点で戦争も何もないんだ。平和が1番だろ」
魔族が出たなら、迷うことなく命を賭して戦うと言うラース。その様子にノエルは声を上げようとするが、ジークは腕で彼女を静止すると自分達、民はそれを望んでいないと言う。
「平和を守るのが我らの仕事だ」
「おっさんが騎士でそれこそ、命をかけて戦うのが、使命だって言うなら、俺は薬屋だ。医者とまでは行かなくても命にかかわる仕事をしているんだ。それが、人族だろうと魔族だろうと、無駄に血が流れるのは遠慮したい。現状で争いもなく、平和ならそれが1番、と言うか、魔術学園には魔族の言葉を使う奴らだっているんだ。話し合いで解決しろよ。命を守るのは騎士の仕事なのかも知れないけど、その争いに巻き込まれて家や家族、財産を失ってしまえば生きる気力だって無くしちまうからな」
ジークはラースと自分では見ているものが違うと言い、戦争などバカらしいと悪態を吐く。
「小僧、騎士を愚弄するつもりか?」
「さっきも言っただろ。立場が違うんだよ。確かに戦わないとぶつかりあわないとわからない時もあるのかも知れないけど、話し合いで解決できるなら、それで良いだろ」
「魔族との間で話し合いなど、本当に思っているのか?」
ラースは視線を鋭くしたまま、バカにしているのかと言う、ジークはそんなつもりはないと笑う。
ラースは魔族となど話し合いが成立するわけがないと思っているようでジークをバカにしているのか、ため息混じりで聞く。
「できます」
「小娘、ワシは小僧に聞いているんだが」
「できる。できないじゃなくてさ。やらないといけない事なんじゃないか? いつまでも、魔族と戦ってるより、それぞれの特徴を生かして協力できた方がいろいろできるだろ。それこそ、オーガたトロルなんておっさんより、巨漢で力が強いんだ。協力して貰えば街道だって早く完成するぞ」
ノエルは迷う事無く、ラースの問いに返事をするが、ラースはノエルには聞いていないと言う。
ジークはノエルの反応に苦笑いを浮かべると戦うよりは協力した方が効率化できる事だと言う。
「流石に無理だと思いますけど、魔族は人族を食べるとも言いますし」
「実際、本当に魔族って人族の肉を食べるのか? おっさんは魔族が人族を食ってるのを見た事あるのか?」
アズは魔族が人肉を好む者もいるため、協力は難しいと首を横に振ると、ジークは魔族であるドレイクが人肉を食べないと聞いている事もあるためか、騎士として魔族との戦った事があるラースに聞く。
「それは……ない」
「ないのかよ」
ジークの問いにラースはしばし考え込むが、実際に魔族が人族を殺した後にその肉を食している姿は見た事がないようであり、ジークはため息を吐いた。
「実際、魔族との戦争も大規模なものはないからな。小競り合い程度のものは国境周辺で起きてはいるがな。王都にいる騎士が出て行くようなものはない。その分、多くの若い騎士が気を緩ませている事も事実だがな。ルッケルの武術大会でもほとんどが騎士の武威を見せる事もなかった。何と言う体たらく」
「初戦、敗退のおっさんが言う言葉じゃないと思うけどな」
ラースは魔族との争いがなくなってかなりの時間が経つため、騎士達の気が緩んでいると眉間にしわを寄せるとジークは武術大会でラースに勝利しているためか、小バカにするように言う。
「小僧、ワシをバカにするつもりか?」
「そんなわけじゃない。そう言えば、エルト王子やカインも騎士の質が落ちてきているような事を言ってたな」
「騎士のほとんどが自分達を貴族と言った特権階級だと思っているのでな。魔族の脅威と考え、気を引き締めてくれれば、この噂も良いものだろう」
ラースは噂により若い騎士達の意識改革がおこなわれれば良いと思っているようでため息を吐く。
「まぁ、俺達、平民は実際に戦争なんて起きて欲しくはないけどな」
「ジーク、変わりませんよ。民だけはありません。領主だって同じです。それに口では魔族と戦う事が使命だと言っていますが、ラース様達騎士だって本当は戦争なんて起きて欲しくないと思っているんですから、人にはそれぞれ家族や守りたい人々がいるんですから」
「は、話はこれで終わりだな。小僧、小娘、3日後にワームに一緒に来てもらう。その時に、レギアスと引き合わせよう。ワシは行くぞ」
アズはラースは騎士としての心構えができているだけだと笑うとジークとノエルの視線はラースに集まり、その視線にラースは居心地が悪いのか視線を逸らすと逃げるように応接室を出て行ってしまう。
「レギアス?」
「ジークは知りませんでしたか? あの薬草を育てているのはレギアス様だと言う話ですよ。ラース様はレギアス様の代わりにルッケルに来ているんです」
「何で、そんな人が薬草を育ててるんだ?」
「わかりません」
ジークはラースが出した名前に首を傾げるとアズは苦笑いを浮かべるが、ジークとノエルの中ではレギアスがどんな人間がまったく想像がつかないようで眉間にしわを寄せた。