第278話
「フィリム先生、鉱山で何かあったのでしょうか?」
「いえ、先ほど言った通り、興味のある人間がきていると言う事で見学に来ただけです」
フィリムの乱入にアズは鉱山に何かあったのかと思ったようだが、フィリムは興味本位で顔を出したと悪びれる事なく言う。
「そうですか……あの、フィリム先生、先生がいると話がしにくいのですが、公務の話し合いですし、関係者以外にお聞かせするのは問題が」
「何、気にする事はない。続けてくれ」
「続けてくれと言われましても」
アズはラースが戻ってきたため、話し合いを始めたいため、フィリムがいるなかでは話が進められず、暗に出て行って欲しいと言うが、フィリムは出て行く気はないようで口元に笑みを浮かべている。
「おっさん、アズさん、悪いけど、こんな中で、話し合いになるとは思えないから、帰ります。ノエル」
「えっ!? あ、あの、良いんですか?」
ジークはフィリムの態度に胸糞が悪いようで、アズとラースに頭を下げるとノエルの名前を呼ぶ。
ノエルはジークが両親の名前に冷静になれない事を理解しており、どうして良いのかわからずにおろおろとする。
「待て。小僧、フィリム、何度も言わせるな。ワシはレギアスに頼まれてここにいるんだ。貴様は貴様の仕事をしろ。いつまでも邪魔をするなら、この件はしっかりと報告させて貰うぞ」
「仕方ないな。別に何を言われても構わないが、国から研究の予算がでなくなるのは俺も困る。それになかなか、面白い見せ物だったからな」
「見せ物だと?」
「ジークさん、ダメです。落ち着いてください」
ラースは時間の都合もあるためか、ジークに帰られるのは不味いようでフィリムを追い出そうと王への報告を視野に入れる事を告げる。
フィリムはその言葉に思案顔を見せると小さくため息を吐いた後、ジークへと視線を向けて彼の事を『見せ物』とあざ笑った。
その表情にジークの額には青筋がぴくぴくと浮かび上がって行き、ノエルはジークを落ち着かせようと声をかけている。
「フィリム!!」
「落ち着け。まったく、ガキがガキなりにそれでも感情を抑えつけようとしているなか、年長者が怒鳴るな」
あまりのフィリムの態度にジークより先にラース堪忍袋がちぎれ、フィリムの胸倉をつかむ。
怒りのラースの状況にフィリムはつまらないと言いたげにため息を吐くと彼の手を払うとジークとノエルへと視線を移した。
「ジーク=フィリス、ノエリクル=ダークリード、先ほどまでの非礼を詫びよう。許して欲しい。君達の話はカイン=クロークから良く聞いている」
「カインさんから?」
「……」
フィリムは先ほどまでは打って変わって真面目な表情をすると2人に向かって頭を下げる。
ノエルはフィリムの口からカインの名前が出てきた事に首を傾げるもジークはフィリムがわざとジークを怒らせるように動いた事に彼の行動が悪趣味であるため、嫌悪感を抱いてしまったようで視線は鋭いままである。
「すまないな。他人を知るには感情を露にしている時と言う持論で動いているのでな」
「それはずいぶんと良い趣味をしてるな」
「これでも、カイン=クロークが師と仰いでいた人間なのもでな。悪いな。俺もあまりヒマではないから、これで失礼する」
ジークの怒りはもっともである事も理解しており、フィリムは改めて、ジークを怒らせた理由を話す。
ジークはその言葉に悪態を吐き、フィリムは自分がカインの師である事を告げると悠然と応接室を出て行ってしまう。
「……セスさんが関わるなと言うわけだな」
「そうかも知れませんね」
フィリムの出て行ったドアへと視線を向けたまま、彼とカインの関係にどこか納得が行ったようでジークは眉間にしわを寄せるとノエルは力なく笑う。
「……」
「あ、あの。ラース様、ジーク、ノエルも話し合いに戻ってもよろしいでしょうか?」
フィリムの態度に腸が煮えくりかえっているのか鬼のような形相をしているラースの姿にアズは遠慮がちに聞く。
「おっさん、どうする? 日を改めるか? 何か、俺達も無駄に疲れたし」
「そう言うわけにも行かん」
ジークは自分がどれだけ頭に血を上らせていても、気にした様子のないフィリムの態度に毒気が抜かれたのかため息を吐きながら、ラースにどうするかと聞く。
ラースはジークとは違い怒りが収まっていないようで、言葉には怒気が混じっているがジーク達に当たるわけにもいかず、ソファーに座り直す。
「それでは話し合いを始めましょうか? ジーク、ノエル、先日の件は了承して貰えますか?」
「まぁ、この間のおっさんの提案を聞く限りじゃ、現状、俺に都合の悪い事はないですからね。かまいませんよ。その代わり、この間の薬草の件を庶民価格に勉強してくれる事が前提ですけど」
アズはジークに連絡係の話を聞くとジークは受けると頷くが、取引としてしっかりと条件を出させて貰うとラースに向かって言う。
「かまわん」
「ずいぶんとあっさりと承諾するな。普通に考えると結構な収入になる薬草だぞ。金に汚い貴族が頷くのか?」
「あの薬草を小僧になら譲ると言っているんだ。ワシが何かを言う事ではない」
ジークの言い分を聞くと言い切るラースの姿に、商人であるジークは裏がある事を疑っているのか首を傾げるも、ラースはあくまでも、取引を行うと言っているのは薬草を育てた人間の意思だと答える。
「それなら、それで良いんだけど」
「それなら、決まりですね。ジーク、ノエル、改めて、よろしくお願いします」
「は、はい。こちらこそ、全力でお手伝いさせていただきます」
相手の思惑が読み取れないジークは腕を組み、頭をひねっているが、アズは素早く話を決めてしまいたいと思ったようでノエルに確認を取り、素直な彼女は直ぐに頷いてしまう。
「まぁ、良いか。あー、そうだ。おっさん、アズさん、ジオスの冒険者の店で1つ気になる事を聞いたんだけど、確認しても良いか?」
「何だ?」
「今回の街道整備の件だけど、この間、ジオス周辺に魔族が出たから討伐隊の編成も視野に入れてだって聞いたんだけど、本当か?」
ジークはノエルが返事をしてしまった事に苦笑いを浮かべつつも、受ける事は納得していたため、彼女に何か言う事はなく、アズとラースの2人にフィーナから聞いた噂話の信憑性を確認する。