第274話
「……何で、こんな事になってるんだ?」
「ど、どうしてでしょうね。で、でも、アズさんにはお世話になっているわけですし、困っている事があるなら、お手伝いしましょう」
ジークとノエルはアズの屋敷に行くといつもやり取りをしているアズの部下に商品を渡してジオスに帰るつもりでいたのだがそうは上手くいかず、取引の日も決められているためか、アズが待っていると言われ、ラースとともに応接室に案内されてしまう。
ジークは自分のイヤな予感がまた当たっている事に大きく肩を落とし、ノエルは苦笑いを浮かべるもアズには世話になっているため、話くらい聞こうと言う。
「遅くなって申し訳ありません」
「いや、多忙のなか、時間を取らせてしまい申し訳ない」
3人が応接室の中央に位置している来客用のソファーに腰をかけて待っているとアズがドアを開け、3人に頭を下げる。
その様子にラースはアズに時間を取って貰っている事もあり、時間を取ってくれた事に深々と頭を下げ、お礼を言う。
「ジークもノエルもごめんなさい。少し、お願いしたい事があったんで」
「別にかまいませんけど……おっさんと同席しないといけない事ですか?」
アズはラースと挨拶を交わした後、改めて、ジークとノエルに視線を移す。
その様子にジークはラースと同席する理由がわからないようで首を傾げる。
「そうですね。重複する部分もあるので一緒の方が良いでしょう」
「重複?」
「ジークさん、あの、もう少し、言葉使いをアズさんの立場もありますし」
アズはルッケルでのジークとラースのぶつかり合いも知っており、認めていない相手なら敬語を使う気のないジークとアズの立場を考えてジークをなだめようとしているノエルを見て微笑ましいのかくすりと笑う。
「それでは本題に移りましょう。ジークとノエルは今、ルッケルとワームで公共事業として、街道の整備がされている事を知っていますか?」
「はい。先ほど、ジルさんのお店で聞きました」
「そうですか。それは良かった」
アズが話したいのは先ほど、ジルの店で聞いた街道整備の件であり、2人が知っている事に無駄な説明が省けたと思ったのかアズは小さく頷く。
「良かったって、俺達にできる事なんてないでしょう。言い方は悪いですけど、人手がいるから手伝えって言われても、俺は俺の仕事があるんで手伝えませんよ」
「街道整備を手伝って欲しいとは言いません。ただ、ルッケルとワームは馬車で移動するにはかなりの時間が必要です。そのため」
「魔導機器を貸せ。とでも言いたいんですか?」
アズの口からルッケルとワームの移動距離が出たため、アズの目的がカインから預かっている転移の魔導機器だと気付いたようでジークは懐から魔導機器を取り出す。
「貸して欲しいとまでは言いません。ただ、私とラース様の間の連絡係をお願いしたいのです」
「ラースさんとの連絡係ですか?」
「先日の鉱山での事故の時にカインから、私兵団に転移魔法を使える者を用意しておいた方が良いとは言われていたんですが、転移魔法は使い手も少ないようで、なかなか、見つからなくてラース様にワームで転移魔法を使える冒険者にも声をかけていただいているのですが、直ぐには見つからず、見つかるまでで良いんです。ご協力をお願いできませんか?」
ジークの予想した通り、アズはジークの魔導機器を使いたいようであり、ジークとノエルに向かい頭を下げる。
「連絡係と言ってもなぁ。俺達だって仕事があるし、時間が取れませんよ」
「連絡に関しては定期連絡だからな。毎日ではない。ワシを連絡にしたのは、他の人間では小僧と小娘の素性もわからない者と遅い時間に会うなどしないと言うのでな」
連絡する事は急を有するものもあるため、ジークはルッケルに駐留するわけにはいかないと首を横に振る。
しかし、ラースはジークとノエルの時間に合わせて動いてくれて構わないと言い切った。
「ラース様、時間くらいは」
「いや、こちらは頼んでいる身だ。それくらいの対処はする」
アズはラースに迷惑になると言うが、ラースは迷う事無く言い切る。
「いや、まずは、受けるって言ってないし」
「そうか? 小僧、これを知っているか?」
自分の意思に反して話が進んでいる事に納得のいかないジークはへそを曲げているのか、眉間にしわを寄せた。
その様子にラースは懐から1つの乾燥させた薬草を取り出す。
「あ? ……おっさん、これをどこで」
「ジークさん、これって、何ですか?」
ジークはラースの出した薬草を見て、目の色を変えるとその様子にノエルは首を傾げる。
「この辺では採れない薬草。貴重なもので、ばあちゃんが生きてる時に栽培できないかって試したんだけど、土壌が合わなかったみたいでまったくダメだった」
「そうなんですか? ラースさん、それなら、これはどこで?」
「これはワームにいるある貴族が菜園を作り栽培しているものだ。最初は小僧と同じようにまったく育たなかったが改良を繰り返して、ワームやジオス周辺の土地でも育つようになったものだ。先日、魔術学園に送り、成分分析を行って貰ったようだが、成分は野生に生えている物と遜色がないと判断されたらしい。小僧、お前がこの依頼を受けるなら、ワシがその貴族に小僧に卸すように話を通してやろう」
ノエルは貴重な薬草をラースが持っている事に首を傾げると、ラースは薬草の出所を話す。
「値段とその成分が本当かどうか、確認しない返事はできない」
「ジークさん」
「仕方ないだろ。貴族が大好きな金を使って、ここまでの薬草を作る理由がわからない。疑うのは当然だろ」
ジークはラースが自分を担ぎ出すために嘘を吐いている可能性も否定できないため、証拠を見せるように言う。
「うむ。小僧の事だ。そう言うとは思っていた」
「で、その証拠は見えるのか?」
「あぁ。小僧がそう言えば、屋敷まで連れて来いと言っていたからな。小僧、それでワームまで移動できるのであろう。ワームに行くぞ」
ラースに薬草を持たせた貴族はジークの答えも予想していたようであり、ラースはワームに移動すると言う。
「ちょっと待て。話を勝手に決めるな。俺にだって都合があるんだ」
「ラースさん、申し訳ありません。今日はこの後、お薬の調合をしないとラング様に納める商品が間に合わなくなってしまうんです」
「ラング様だと? なぜ、小僧と」
しかし、ジークとノエルは今日はこれ以上、時間がないようであり、ワームには行けないと答える。
ラースはノエルの口からラングの名前が出た事に驚きの声を上げた。
「あー、ばあちゃんのお得意様だったみたいだ」
「ばあちゃん? ……調合はいつまでかかる予定だ?」
ジークは祖母であるアリアがラングと知り合いだった事を話すとラースは納得したのか頷き、調合日数を聞く。
「失敗しなければ2日、ダメなら4日」
「そうか。それなら、調合が終わってからで良い。ワシもしばらくはアズ様と打ち合わせがあるから、ルッケルに滞在するからな」
「わかった」
ジークはラースが自分の言い分を聞きいれた事に何か裏があるのではないかと思っているようだが、ここでごねるわけにもいかないと判断したようで素直に頷いた。