第272話
「……エルト様、公務をサボり過ぎです」
「レインは相変わらず、固いね」
ジークとノエルが付き合い始めて1週間が過ぎた頃、エルトはカインの屋敷でだらけており、レインはその様子に大きく肩を落とす。
しかし、エルトは気にした様子もなく、レインが依然と変わらずに真面目のためか、苦笑いを浮かべた。
「固いではありません。公務はどうしたんですか? コーラッド様もエルト様のわがままに何度も何度も付き合う必要はありません」
「申し訳ありません。レインさん」
レインはセスにエルトの手綱をしっかりと握って欲しいと言うとセスは深々と頭を下げる。
「レイン、セスに言ってもダメだよ」
「それはわかりますが、公私混同をされては困ります。コーラッド様がいくら忙しくても、休日はありますよね。その時にいらしてください」
エルトはセスにフォルムへくる事を止めれるわけがないと言い、レインもセスがカインに好意を寄せている事を知っているようで、それでも、守るべき事は守って欲しいと釘を刺す。
「べ、別に私は、カイン=クロークの事など何とも思っていませんわ!?」
「いや、今更だから、それより、レイン、今日はカインはどうしたんだい?」
セスは顔を真っ赤にして、カインの事など何とも思っていないと主張するが、そんな事は言うだけ無駄であり、エルトはため息を吐くと屋敷の主であるカインの居場所を聞く。
「カインなら、領地の見回りに行っています。もうしばらくすれば戻ってくると思います」
「領地の見回り? レインはついて行かなくて良いのかい? レインはカインの付き添いでフォルムに来たはずだろ。護衛をしないと危ないだろ」
「……王都を護衛なしで動き回るエルト様に言う権利はないと思います」
カインは領地の見回りに出ているようであり、エルトは不用心だとため息を吐くが、日頃1人で歩きまわろうとするエルトには言う権利はなく、セスは眉間にしわを寄せる。
「元々、平民の出身なんで、護衛とかは性に合いませんので、それに護衛が付いていると話を聞きにくいんです。特にレインは固いですし」
「ん? お帰り、カイン」
「ただいま、戻りました」
その時、タイミング良くカインが屋敷に戻ってきたようであり、主君であるエルトを待たせた事を申し訳なく思っているようで深々と頭を下げる。
「いや、気にしてないよ。だいたい、息抜きに来ているだけだしね」
「そうですか? いつもはジークの店でお茶を飲んでいるようですから、わざわざ、フォルムまでこられたので何かあったのかと」
「あったと言えば、あったかな? まぁ、何と言うか……ジークの店、居づらくてね」
カインはエルトがフォルムまできた事に何か理由があると思ったようで真剣な表情をするが、エルトはカインから視線を逸らすと遠くを見つめる。
「何か?」
「まぁ、ちょっと、ジークの背中を押しすぎてね」
「……それは変な方向に話がこんがらがったって、言う事ですか?」
どこか遠い目で言うエルトの様子に、予想と違いジークとノエルが上手くまとまらなかったのかと思い、眉間にしわを寄せた。
「いや、そっちは上手く行ったよ。ただ、今までが熟年夫婦のような落ち着いた感じだったのが……バカップルと化しているだけだから、鬱陶しくはあるけど、それほど、気にする事はないよ」
「……それは確かに鬱陶しそうですね。まぁ、それでもあの2人なら時機に納まるでしょう」
新しい関係に浮かれているジークとノエルの様子にエルトはため息を吐くと、カインは苦笑いを浮かべる。
「あの……あの2人って」
「この間、ようやくまとまったよ。長かったね」
ジークとノエルがとっくに付き合っていると思っていたレインは状況が理解できないようであり、遠慮したようで手を挙げて聞くとエルトはレインの認識は正しいと笑う。
「それで、ジークとノエル以外に何かあったんですか?」
「いや、いろいろとね。あの2人をまとめた事で、突き刺さるフィーナの視線とか?」
「あー、それは申し訳ありません」
エルトが全面的にジークとノエルを応援していたのか村の年寄りの口からフィーナにも伝わったようであり、彼女は自分が間違った恋愛感を持っていたにも関わらず、エルトに責任をなすり付けるようにジオスで会うとエルトを睨みつけているようで、カインは申し訳なさそうに頭を下げる。
「まぁ、仕方ないとも思うんだけどね……カインも領地を手に入れたし、政略結婚にフィーナを使ってみる? 相手が見つかれば落ち着くかも知れないし」
「流石に無理でしょう。あいつには礼儀や常識を叩きこまないといけませんし、それをすると人間関係を築くつもりであっても確実に反対に動きます」
エルトはフィーナに相手を見つける事で、彼女から受ける威圧をどうにかしようと考えるも、カインはフィーナに政略結婚など絶対にできないとため息を吐く。
「それもそうだね。まぁ、とりあえずはフィーナの頭が冷めるまで、ジオスには行きにくいね」
「まったくです。私は関係ありませんのに私までジオスに行くにくくなりました」
「コーラッド様はジオスに何かあるんですか? エルト様が行かないなら個人的に行く用事なんてないないでしょう」
大きく肩を落とすエルト。セスはエルトがジオスでいろいろと騒ぎ立てたため、ジオスに行けないと言うと、その言葉にレインは首を傾げる。
「先日から、ジークに栄養剤を作っていただいているんです」
「栄養剤? ここにもあるよ」
「それではありません!! そんなものは身体に入れて良いものではありません!!」
セスは先日、ジークが作ってくれた栄養剤を飲み始めてから調子が良いようであり、その事を話すが、新しい栄養剤の存在を知らないカインはいつもの不味い栄養剤を取り出す。
しかし、セスに取ってはカインが使っているジークの栄養剤は摂取して良いものではなく、薬としての存在意義すらも否定する勢いで叫ぶ。
「相変わらず、仲が良いですね」
「ホントだね。レイン、王都に戻ってこないかい? 君の代わりにセスをカインの補佐に付けるようにするから」
「それも良いかもしれませんね。領主が独り者だとおかしな思惑を持った輩が近づいてきますし、領主の威厳などを考えると相手はどうであれ、早く身を固めていただけた方が良いと思いますから」
カインに突っかかって行くセスの姿にレインは大きく肩を落とすと、エルトはジークとノエルがまとまった今、次はカインとセスの事をどうにかしようとしているようで口元を緩ませる。
そんなエルトの思惑を知ってか知らずか、レインは領主の立場を考えるとカインの結婚相手を探すのは重要な事だと頷く。
「そうだよね。やっぱり、必要だよね。セス、そろそろ帰るよ」
「は、はい。わかりました」
エルトはレインが頷いた事で口元を緩ませるとセスを呼び、2人は彼女の転移魔法で王都に戻って行く。
その後、エルトはセスを煽るように送るつもりのないカインのお見合い相手資料をまとめ始め、それを見て気が気ではないセスを見て楽しんでいた。