第261話
「到着だね」
「あぁ、そっちの騎士さんも入ってきてくれよ。お茶くらいは出すぞ」
カインの屋敷に到着するとジークはカインから預かっているカギで玄関のドアを開けた。
ドアが開くとノエルとライオは屋敷の中に入って行き、ジークは屋敷の前で周囲を警戒している騎士2人にも中に入るように声をかけると2人の騎士はジークからの提案に顔を見合わせた後、エルト、ライオ、ラングの王族3人から身分が保障されている事もあり、素直に頷くとジークに続いて屋敷の中に移動して行く。
「それじゃあ、お茶を用意しますね」
「あぁ、頼むよ。ノエル」
居間に足を運ぶとノエルは5人分のお茶を淹れにキッチンに移動して行き、ジークは彼女の背中を見送った。
「ジーク」
「……おかしな事を言うな」
ジークとノエルの様子にライオは含み笑いを浮かべるとジークはエルトを始めとした多くの人間にノエルとの事をからかわれている事もあり、眉間にしわを寄せる。
「実際は、どうなんだい? ノエルは良い娘だし、はっきりしないと他の男に持ってかれるよ」
「……いや、その件に関しては問題ないらしい」
しかし、ライオは止める気などないようで、ジークに詰め寄り、ジークは先日、エルトから聞かされたおかしな事実を思い出したようで大きく肩を落として口を滑らせる。
「その件に関しては問題ない?」
「な、何でもない!? 気にしなくて良い!!」
「そう言われると凄く気になるんだけど」
ライオはジークが口を滑らせた事も聞き逃さずにさらに詰め寄るとジークは彼にしては珍しく動揺し、ライオは口元を緩ませた。
「別に隠す必要なんてないと思うんだけど、ノエルさんがジークの事を好きなのにも気づいているんだろ」
「……それは、まぁ、って、注目をするな!!」
ライオに改めて、ノエルの気持ちに気が付いているかと言われ、ジークは頷いてしまうが、その時にライオ以外に騎士2人もジークの若さを見てニヤニヤと笑っており、ジークは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「ジークさん、どうかしたんですか?」
「な、何でもない!?」
「そうですか? みなさん、お茶をお持ちしました」
その時、お茶を持ってきたノエルがジークの叫び声に首を傾げ、ジークは直ぐに何もないと言うが、その姿にライオと騎士2人は生温かい目でジークを見守っているが、ノエルはジークが何もないと言ったためかそれ以上は追及する事無く、淹れてきたばかりのお茶を配る。
「お茶菓子がなくてすいません」
「帰りに買ってきたら、良かったな」
人がいない屋敷内に食料を置いておくにはいかないため、カインの屋敷にはお茶菓子の類はなく、ノエルは申し訳なさそうに顔を伏せると、彼女の淹れたお茶で気持ちを落ち着かせたのかジークは苦笑いを浮かべた。
「別に良いよ。それにノエルさんのお茶だけで充分だよ……ジーク、ノエルさんのお茶、普通にお金を取れるんじゃないかな? 王都で喫茶店でもすれば儲かるんじゃないのかな?」
「取れるんじゃないかな? って言っても、お茶の葉自体はジオスで俺が作ってる売り物にもならないもんだぞ」
ライオは何度も飲んでいるノエルが淹れてくれたお茶がかなり気に入っているようであり、ジークは売り物にもならないとため息を吐く。
「あれ? これ、ジークが作ってるの?」
「悪いか。根の方は薬になるんだけど、葉はお茶になるんだ。まぁ、売り出すほどの量は取れないぞ」
「悪くないけど、売り物じゃないとすると……飲める機会は貴重だね」
ジークがお茶を育てている事に驚きの声をあげるライオだが、ジーク自身は薬を作る上での副産物でしかないと言い、ライオは味わうようにお茶を飲む。
「そんなに美味いか?」
「わかりません。でも、そう言っていただけると嬉しいです」
ジークとノエルはお茶と言えばこれであるためか、ライオがそこまで誉める理由がわからないようで苦笑いを浮かべる。
「それで、ジークとノエルは今日はどうしたの? 悪いけど、まだ、ジークの薬の分析は終わってないよ」
「あぁ、そんな直ぐに終わるとは思ってないよ。聞きたかったのは、こっち」
ノエルのお茶で一息付くとライオは2人が王都を訪れた理由を聞く。ジークは転移の魔導機器をテーブルの上に置く。
「あぁ。これね……ジーク、これ、貸して貰うわけにいかないかな?」
「断る。カインにも他の人間に貸すなって言われてるしな。それにライオ王子に貸したら、勝手に魔法で飛んで、騎士さん達がラング様に咎められても責任は取れない」
ライオは以前に、カインと一緒に転移の魔導機器について研究していた人達に話を聞いておく事を約束していた事を思い出すが、彼自身も転移の魔導機器を使いたいようで少し考えるような素振りを見せる。
ジークはライオの様子に魔導機器を持たせては危険だと思ったようで直ぐにテーブルから手に取ると懐に戻すとライオの手に転移の魔導機器が渡らなかった事に騎士達はほっとしたようで胸をなで下ろした。
「それは残念」
「それで、これはどれくらいの積載量がありそうなんだ?」
「えーとね。同時に転移できるのは5人が限界だってさ。この間は知らずにギリギリの人数で飛んでたみたいだね」
ライオは名残惜しそうに懐の戻った魔導機器に視線を移すとため息を吐くが、直ぐに切り替えたようで魔導機器で1度に移動できる人数を5人だと告げる。
「5人か? まぁ、移動だけだと困らないな」
「そうですね。基本的にわたしとジークさん、フィーナさんの3人ですから」
「問題は荷物をどこまで運べるかだけど」
人数的はジークとノエルには充分であるが、先日、エルトにおかしなお使いを頼まれそうになった事もあり、ジークは荷物をどれだけ運べるかと首を傾げた。
「それはやってみないとわからないけど、注意点として、あまり魔力の大きい魔導機器は運べないような事も言っていたよ」
「そうなるとアーカスさんから貰ったカバンはダメかな。そうなるとあまり大量に荷物は運べないか」
ライオから聞かされた注意点にジークは一気に荷物を運ぶために考えていた方法がダメだと思ったようで頭をかく。
「そうですね。そう考えると、エルト様から言われていた。ルッケルからの輸送は無理そうですね」
「運べるとしたら、少量だな」
「あのさ。あの時は何となく、兄上の話に乗ったけど、ジークとノエルはどこに向かってるんだい? 完全に薬屋の仕事から外れてるよね」
ライオは今更ながら、薬屋であるはずのジークが薬屋と関係ない仕事について考えている事に違和感を覚えたようで眉間にしわを寄せる。
「……それをライオ王子に言われたくないよ」
「そうですね」
しかし、ライオ自身にも護衛を押し付けられそうになったり、喫茶店を薦められたりしている2人にはライオには言われたくないようでジークは大きく肩を落とし、ノエルは苦笑いを浮かべた。




