第260話
「ジーク、待たせたね……何を警戒しているんだい?」
「ライオ王子だけだよな?」
「こんにちは。ライオ様」
ジークとノエルは転移の魔導機器の話がどうなったか確認するために王都にある魔術学園を訪れる。
玄関の脇にある事務局のような場所で名前を名乗り、ライオとの面会を頼むとしばらくしてライオが現れたのだが、ジークはセスに言われたフィリムと言う人間を警戒しているようで妙か緊張感が漂っている。
ライオはジークの様子に首を傾げるがノエルは苦笑いを浮かべながらライオに頭を下げた。
「ノエルさん、こんにちは。それで、ジークは何をしてるんだい?」
「いや、この間、セスさんから、絶対に関わってはいけない教授がいるって言われたから」
「あー、フィリム=アイ教授の事かな? 大丈夫だよ。今日は確か王都のそばの遺跡にフィールドワークに出ているはずだから」
ライオは改めて、ジークが何をしているかと聞き、その問いにジークはセスから関わらないように言われた教授がいる事を伝える。
セスが誰の事を言っているのかライオは直ぐに理解できたようで苦笑いを浮かべると危険人物であるフィリムは魔術学園を留守にしていると言う。
「本当だろうな?」
「どうして、そんなに警戒してるかな?」
「えーと、ジークさんの悪い予感って、よく当たるらしいんですよ」
それでもジークは警戒を緩める事無く、ライオはその姿にため息を吐くがノエルはジークのイヤな予感が良く当たる事もあり、苦笑いを浮かべた。
「それなら、魔術学園じゃ、ジークが落ち着かないかな? どこかに行くかい?」
「そうだな。って、言っても、俺もノエルも王都で行く場所なんてないんだけどな」
「そうですね。行った事がある場所って限られてますし……」
ライオは魔術学園では話もまともにできないと思ったようで、場所を移動する事を提案するがジークもノエルも特に王都で良い場所も知らない事もあり、顔を見合せて苦笑いを浮かべる。
「私もそこまで詳しいわけじゃないからね。兄上ならたくさん知ってそうだけど」
「確かに、エルト王子はいろんな場所を知ってそうだな」
「あの、ジークさん、カインさんのお屋敷ではダメでしょうか? あまり、動き回るのも何ですし」
ライオも魔術学園と王城以外はあまり知らないようで首を傾げた後、ふと兄であるエルトならいろんな場所を知っているのではないかと言い、ジークは何食わぬ顔で王都を歩きまわっているエルトの姿を思い浮かべたようでため息を吐く。
ノエルは自分がドレイクであるため、多くの人の目に触れて正体がばれてしまう事を恐れている事もあり、ジークの服をつかみ、カインの屋敷に行くことを提案する。
「そうだな。ライオ王子も良いか?」
「カインの屋敷か……カインの研究レポートとかって見ても良いのかな? カインの屋敷にならいくつか置いてあるよね?」
ジークはライオに確認するとライオはカインが研究していた物が気になるようで目を輝かせ始めた。
「人の研究を勝手に覗いても良いのか?」
「まぁ、カインなら気にしないだろう。それじゃあ、早く行こうか?」
ライオの様子にジークは肩を落とすが、ライオの興味は完全にカインの研究レポートに移っており、1人で歩き始める。
「良いのか?」
「どうでしょう? それより、ライオ様を1人にするわけにもいきませんし」
「そうだな」
ライオの姿に火―くは苦笑いを浮かべるとジークとノエルは並んで、ライオの後を追いかけて行く。
「しかし……これはこれで居心地が悪いな」
「そうだろ。私が逃げ出したくなるのもわかるだろ」
「それでも逃げないでください」
3人でカインの屋敷に向かうために、魔術学園を出た時、ライオの護衛なのか騎士鎧をまとった騎士がライオを守るように付いてきており、ジークはため息を吐く。
ライオはルッケルで騎士から逃げた事を納得して欲しいと言うが、巻き込まれた身としてはそれでも我慢して欲しいため、ノエルは苦笑いを浮かべた。
「難しいところだね。だいたい、兄上はそれなりに街中を自由に動けるのに私はどうしてダメなのか。納得がいかないよ」
「納得いかないって言うか、運動神経の問題じゃないか? エルト王子はそれなりに自分で身を守れるだろ。魔法は発動に時間がかかるし」
「まぁ、そうなんだよね……ノエルさんみたいに魔力を身体にとどめておく事が出来れば良いんだけど」
ライオは自由に王都を見て回りたいようで不満を漏らす。ジークは先日、エルトから聞いた事もあるためか苦笑いを浮かべると、ライオはルッケルでノエルが使った魔力維持を自分もできないかと思ったようで首を傾げた。
「えーと、難しいんじゃないでしょうか? カインさんが言うにはエルフ族の高等魔法技術だって言いますし」
「でも、ノエルさんは使えるんだろ。アーカスさん、私にも教えてくれないかな? ジークとノエルさんから、頼んで見てよ」
「無理だろ。あの人は基本的に誰かに物を教えるようにできてないからな」
ノエルは気まずそうに視線を逸らす。ライオはエルフの高等魔法技術を人間だと思っているノエルが使える事が羨ましいようで、アーカスに2人から頼んで見てくれないかと言う。
ジークはその願いは絶対に聞き入れられる事はないと判断したようで直ぐに首を振る。
「そうですね。アーカスさんですからね」
「そうかな? ノエルさんは教える事はできないの?」
「む、無理です。わたしだって、いつも上手く出来ているわけじゃありませんし」
ノエルはジークの言葉に同意を示すと、ライオはアーカスから直接指導を受けたノエルに教わる事はできないかと聞く。
しかし、ノエル自身もまだ上手く使えないようで大きく首を横に振った。
「なぁ、エルフが使えるなら、王都にだって、エルフはいるだろ。それこそ魔術学園にならいるんじゃないのか?」
「そうなんだけどね。それを他種族に教えられるほど、研究している人はいないよ。もしかしたら、研究している人もいるかも知れないけど、他の種族の優位性を簡単に教えるとも思えないしね」
ジークは王都にならエルフたくさんいるから、そのエルフ達に教わるわけにはいかないのかと聞く。
ライオはその言葉にすでにいくつかアプローチをしていたようだが、誰からも教わる事はできなかったようで苦笑いを浮かべた。