第259話
「それじゃあ、帰ろうかな。ジーク、ノエル、またね」
「はい。またいらしてください。今度はライオ様も連れて」
ノエルの淹れたお茶を飲みほし、一息ついた後、エルトは王都に帰ると言い、ノエルは笑顔でエルトとセスを見送ろうとする。
「うーん。ライオを連れてくるつもりはないな」
「ど、どうしてですか!?」
「いや、俺も連れてきて欲しくはないけど、何かあるのかよ?」
ノエルの言葉にエルトは少し考えるようなしぐさをするとライオをジオスに連れてくるのは遠慮したいようで苦笑いを浮かべる。
エルトがライオに意地悪をしていると思ったようでノエルは驚きの声を上げ、ジークはエルトの事だからまた良からぬ事でも考えているのではないかと思ったようで眉間にしわを寄せた。
「いやね。この間から、ライオも転移魔法の有効性を考え直したようで、勉強を始めたみたいなんだけど」
「絶対に連れてくるな」
ライオが転移魔法を覚え、エルトやセスと同行してくれば、ライオが1人でジオスに現れる事はジークには直ぐに理解できた。
すでにエルトの相手だけでも手一杯であり、これ以上の厄介事を抱え込みたくないジークは直ぐにエルトの肩を持つ。
「ど、どうしてですか? ジークさんも、そんな意地悪をしたら、ダメですよ」
「いやな」
「ノエル、意地悪ってわけじゃないんだよ」
ジークがエルトの肩を持つとノエルは頬を膨らませてジークに言うと、ジークは彼女の様子に視線を逸らし、困ったようで首すじをかく。
2人の様子にエルトはくすりと笑うとノエルを落ち着かせようと声をかける。
「それなら、どう言う事なんですか?」
「どう言う事と言われるとライオの性格上、1人で歩きまわろうとするからね。私はまだ武を修めているけど、ライオは運動神経が悪いと言うわけではないが魔術師気質のところもあるため、何かに巻き込まれた時に身の安全を確保できない」
「はい。ライオ様は魔術師であるのに前衛となる騎士達をそばに仕えさせるのを良しとしません」
ノエルは矛先をエルトに向けると、彼は苦笑いを浮かべつつ、ライオの身の安全を考えてだと答え、セスもエルトの意見には賛成のようで彼をフォローする。
「……兄貴も似たような感じだろ」
「ジーク、私は王都以外は1人で出歩くような事はしないよ。ルッケルの武道大会の会場内はなんだかんだ言いながらも、カインの友人の魔術師の使い魔をそばに置いていたし、何かあった時は直ぐに連絡を取れるようにしていたんだよ」
「そう言う前に、普通に騎士達を連れて歩いてくれ。ジオスに来る時だって、セスさん1人じゃ危ないだろ」
エルトにももう少し立場を考えて貰いたいジークは大きく肩を落とすが、エルトは気にしている様子もない。
「それに、ジオスにライオまでくると私の息抜きの場所が無くなってしまうからね。カインがいなくなってからは、転移魔法で飛べる場所も少なくなってしまったし。そうなるといやな顔1つせずに美味しいお茶を出してくれるノエルがいるここに来たくなるんだよね」
「そっちが本音じゃないかよ」
エルトは自分だけが息抜きできる場所として、ジオスのジークの店を利用する気のようでライオにも足を踏み入れて欲しくないと言い、その答えにジークは眉間にしわを寄せた。
「あの。美味しいお茶なら、お城でも出していただけるんじゃないですか?」
「うーん。味は美味しいよ。高級品って奴なんだろうけどね。でも、休憩するって感じではないんだよ。ここは文句を言いながらも愚痴を聞いてくれるジークもいるし、村のお年寄りも温かいしね」
ノエルは自分が淹れるお茶の事を誉められ、恥ずかしくなったようで頬を赤らめながらも、王子であるエルトが望めば王城でもっと美味しい物が飲めるのではないかと聞く。
その言葉に苦笑いを浮かべるエルトだが、公務もあるエルトが休憩をとれる時間など極わずかであり、それ自体も王城の中では休憩になっていないようである。
「ライオは魔術学園に属しているから、研究と称して、学園に戻れば自分の時間を取れるけど、私はそうもいかないからね」
「そうなんですか?」
「……」
魔法の才能を有していたライオとエルトでは交友関係や時間の使い方に差があり、エルトは少しだけライオが羨ましいのか寂しそうに笑う。
彼の表情の変化に何かを感じ取ったのかノエルはセスへと視線を向けるが、彼女は何かを言う立場にないと判断したようで首を横に振る。
「まぁ、私のちょっとしたわがままだと思って見逃してよ。それにライオに会うなら2人が魔術学園に顔を出せば良いわけだしさ。ジークの薬の研究の事で叔父上から、魔術学園の教授達にも名前を言えば面会できるようになってるから、そこから、ライオを呼び出すのは簡単だし」
「……おい。今、さらっと飛んでもない事を言ったよな?」
ジークの知らない間にラングから、ジークに新たな特権が付けられており、ジークは戸惑いが隠せないようで眉間にしわを寄せた。
「いつか、自分で薬を届けないといけない事があるだろうから、その時は大変かも知れないね」
「大変かも知れないね。じゃないだろ。おかしな物を押し付けるな!?」
「良いじゃないか。少なくともおばあ様の薬に近づくための協力者としてはこれ以上の適任者はいないと思うんだけど、まぁ、中にはカイン以上の曲者もいるかも知れないけど」
「そんな人間になんて、会えるか!?」
エルトはジークが自分で魔術学園に薬を届ける時の事を思い浮かべたようで楽しそうに笑うが、ジークに取っては笑い事ではない。
「……ジーク」
「な、何ですか?」
セスは何かあるのか、言うべきか言わないべきか悩んでいるようで躊躇していたようだが、流石に知れせなければいけないと思ったようで彼の名前を呼ぶ。
あまり見た事のないセスの表情にジークは身の危険を察知したようで顔を引きつらせて彼女の方向を向く。
「……間違っても『フィリム=アイ』教授には関わり合わないでください」
「あぁ……って、誰だよ? と言うか、そんな名前を出されたら、絶対に捕まる気しかしないだけど!?」
セスは彼女が最も関わり合いたくない教授の名前をジークに教えたようだが、ジークのおかしな危険察知能力はセスの一言で絶対に関わり合いになる事を告げており、彼は声をあげる。
「さてと、それじゃあ、本当に帰るよ。セス」
「はい。それではジーク、ノエル、失礼します」
しかし、ジークが身の危険を感じている事など知らないと言いたげにエルトはセスに声をかけ、セスは1度、頭を下げると転移魔法を発動させ、2人は光の球になって飛んで行ってしまう。
「……王都に行きたくないな」
「ジ、ジークさん、げ、元気を出してください。ほら、それに、まだ、おかしな事に巻き込まれるって決まったわけじゃありませんから」
視界から光の球が消えるとジークはノエルに八つ当たりするわけにもいかないため、大きく肩を落とし、ノエルは落ち込んでいる彼を一生懸命に励まそうと声をかける。