第256話
「ジークの薬にはアンリを治す効果があると言う事で良いんですね。ジーク、直ぐにアンリのために薬を作ってくれ」
「いや、作ってくれって言われてもな……良くわからないけど、それって、ずっと続くわけじゃないだろ。それに薬って言っても、俺は病人以外に飲ませる薬なんて、これしか持ってないぞ」
「……ジーク、あんたは何で、栄養剤を持ち歩いているのよ?」
ジークの薬でアンリの病状を抑える事がわかった事にエルトはアンリ用の薬を作るように言うが、ジークはアンリが病人ではないとわかった事で、彼なりの信念があるのか、病気ではないなら、薬は作れないと言うと、栄養剤をテーブルの上に置く。
フィーナは効果は絶大だが、味に問題のある栄養剤を見て眉間にはくっきりとしたしわが寄った。
「いや、常備薬かな? って、何かあった時に1本、行っとかないといけないだろ。それにこれなら、栄養剤だから、病気じゃなくても薦められる」
「ジーク、それは飲み慣れない人間に飲ませるのは止めを刺す事と変わらん」
1部から絶大な人気のある栄養剤の事もあり、ジークは自信を持って薦めるが、リックはなれない人間には致死量だと首を横に振る。
「止めって?」
「そんなものをアンリに飲ませるわけにはいかない」
セスは1度、手を伸ばしかけた事もあり、リックの言葉に顔を引きつらせるが、エルトはアンリが心配なためか、ジークにふざけているのかと言いたげに眉間にしわを寄せた。
「いや、仮にばあちゃんと同じように薬に魔力を持たせる事が出来てたとしたって、やり方がわからないんだ。同じ薬を作って、同じ結果が得られないなら、それは薬じゃない」
「だからと言って、ジークの薬にアンリ復調の希望があるなら」
ジークはいきなり言われても自分の中に特殊な力があると思っていないようであり、首を横に振るが、エルトはジークの薬に希望があるならと、再度、ジークに詰め寄る。
「まぁ、ジーク自身も感覚でやっている事だろうからな。期待させて、治りませんでしたってわけにもいかないからな」
「実際、俺のところから、何種類か薬を持って行っただろ。どれが聞いたかもわからないんだろ」
「それなら、ジークが渡してくれた薬をもう1度、アンリに飲ませてみれば良いじゃないか?」
エルトが持って行った薬は数種類あったためか、ジークはどれが効果があったかと聞くが、エルトは知らないようでまた試してみれば良いと簡単に言う。
「薬って言うのは、健康な体には毒にもなるものだってあるんだよ。アンリ様を心配するなら簡単に言うな」
「エルト、ジーク=フィリスの言葉が正しい」
「しかし」
ジークは効果のわからない物で、それこそ、アンリを実験台にしてまで確認するものではないと言い、ラングはエルトをいさめるが彼は納得できそうにもないのか、視線はジークに向いたままである。
「どの薬を飲んで効果があったとかもわからないんですか? わかるなら、その薬をそれこそ、魔術学園で分析して貰えないでしょうか?どのような魔力を帯びているか確認できれば」
「それに関しては、残っていた薬をライオに渡し、既に魔術学園に手配済みだ」
セスはジークの薬を分析した方が良いのではないかと言うが、既にラングは手を打っているようであり、首謀者であるライオが同席していない理由もそれである。
「何か、大事なんだけど、魔力ね……ん?」
「ジーク、どうかしたの?」
「いや、前にアーカスさんが俺の魔力について話していたような気がしたんだけど、その時は気にした事がなかったしな。アーカスさんもそれ以上は何も言わなかったし」
ジークは未だに自分の薬が魔力を帯びている事が信じられないようで、両手を見ていると何かが引っかかった。
引っかかったものを思い出そうと首を傾げていると、以前、アーカスにノエルが常に身に付けている魔導機器が自分とノエルの魔力で動いていると言っていた事を思い出す。
しかし、詳しい話も聞いていない事もあり、首を傾げたままである。
「とりあえず、同じ薬を作っても、同じ効果があるのかは調べないといけないんだよな? ばあちゃんは狙って作れていたのかな?」
「ワシが知る限りは呪いに合った薬を渡し、取り払う事はできなくても和らげることはしていたはずだ」
「となると、同じ薬を渡しても効果も何もないだろ」
ジークの疑問に答えるラング。その答えはジークの調合技術も薬の効果もがまだ祖母の域まで達していない事がわかるには充分である。
「そうなると、魔術学園からの回答待ちだよな。それを見て、自分で薬に魔力を付加できるかも試して行かないといけないって事だろ。同じ効果の薬を狙って作る。病気じゃない人間になら、それこそ栄養剤に魔力を付加させてやれば良い」
「ジーク、あんた、ちょっと、楽しそうね」
ジークは祖母との差に乱暴に頭をかくが、その表情はどこか楽しげであり、フィーナはあまり見ないジークの表情に小さくため息を吐く。
「そんな事はないけど」
「まぁ、目標を見つけたんだ。わからなくもないな。ジーク=フィリス、ワシからお主に2つ頼みたい事がある。良いな」
苦笑いを浮かべるジーク。その姿にラングは1度、頷くと断る事は許さないと言う圧力を込められた視線がジークへと向けられた。
「えーと……」
「断れるわけがないだろ」
ラングの様子にジークは逃げたいと思ったようで、助けを求めるようにリックへと視線を向けるが、リックは無理だと首を横に振る。
「別に身構えるような事ではない。お主の薬を研究するのだ。定期的に魔術学園にいくつかの薬を提供して貰う。その時には作り方なども書きだして欲しい」
「はぁ、それくらいなら……あの、これって、報酬ありですか?」
「ジーク、言葉を慎め」
「しっかりとアリア=フィリスの血を引いているな」
ラングの頼み事は無理難題ではなく、ジークの目は商売人の目に代わった。その様子にリックは慌てるが、ラングはジークの姿と彼の祖母の姿が重なったようで苦笑いを浮かべている。
「そうですかね? それで、もう1つの頼み事って言うのは」
「それはな。これを毎月、3箱ほど、ワシあてに納品して欲しい。門番には話を通して置くのでな」
ジークは苦笑いを浮かべると、もう1つの頼み事もたいした事ではないと思ったようでラングに聞くと、ラングはテーブルに置いてあった栄養剤を手に取り、栄養剤を受注する。
「……本気?」
「ラング様、それはお止めになった方が良いかと」
「アリア=フィリスが亡くなってからはもう飲む事はできないと思っていたのだがな。ルッケルでのイベントの後にカインが持っているのを見てな……相変わらずの破壊力と絶大な効果だった」
「毎度ありです」
フィーナは目の前で行われた事が信じられないようで眉間にしわを寄せ、セスは遠慮がちに進言する。
ラングは2人の反応に苦笑いを浮かべると、ジークは大口の受注に深々と頭を下げるが、ラングの書斎は微妙な空気に包まれている。




