第255話
「カインの言った通り?」
「言ってなかったね。カインの才能を見出して、私に付けたのは叔父上だからね」
「……諸悪の根源か?」
ラングの言葉に眉間に疑問を持ったのかしわを寄せるジーク。
エルトは苦笑いを浮かべるが、彼の口から出た言葉に先日からカインとエルトの2人に振り回されてているジークとしてはラングが原因と思ってしまったようで本音が口から漏れてしまう。
「ジークさん、言葉を選んでください」
「へ?」
「無意識なんですね」
ジークの言葉が聞こえたのか、セスはジークをいさめるが、ジークは無意識だったようで間の抜けた返事をし、セスは大きく肩を落とす。
「あのクズが何を言ったか、知らないけど、それで、これはいったいどう言う状況なのよ?」
「フィーナ、お前はもう少し、いろいろと考えてくれ」
フィーナはカインの事だから、ムカつく事しか言っていないと思ったようでソファーに腰をかけ直すと未だに状況も知らされていない事もあるのか横柄な態度を取り、リックは彼女の態度に頭が痛くなってきたのか、頭を押さえる。
「一先ずは、形式的なものにはなるが、リック=ラインハルト。アズ=ティアナより、預かった報告書を受け取ろう」
「はい」
「確かに受け取った……」
ラングはフィーナの態度を咎める事無く、リックからアズからの報告書を受け取ると真剣な表情で報告書に目を通す。
「叔父上、それで、リック先生にアンリの診察を任せても良いのですか?」
「その件だが、それは許可はできん」
報告書に目を通すラングの姿にエルトは待っていられなくなったのか、本題をぶつけるが、ラングは迷う事無く、跳ねのける。
「なぜですか?」
「エルトやライオ、セス=コーラッド、ジーク=フィリス、今日はいないようだが、ノエリクル=ダークリードと多くの人間が動いてくれた事はありがたい事だ。ただ」
「それはリック先生の腕が信用できないと言う事ですか?」
「別にそう言うわけではない。医師の診察自体が無意味な事をワシも兄上も知っているのだ」
エルトはラングの答えに納得ができないようで、視線を鋭くするがラングは首を横に振る。
その言葉はアンリが手遅れと言っているような言葉であり、フィーナとラング以外の4人の顔は小さく歪む。
「それって、手遅れと言う事ですか?」
「すまない。そう聞こえたか。薬や医学では治療法が見つからないのだ。ただ、直ぐに命にかかわるようなものでもないのでな」
「……それは病気やケガではなく、魔法的な何かが原因と言う事でしょうか?」
医師である自分が聞くべきだと思ったようでリックがラングにアンリの病状を聞くとラングは勘違いさせた事を謝る。
セスはその言葉でアンリに何が起きているか見当が付いたようでラングに聞く。
「そうだ。王城に勤める医師以外にも、兄上にも相談して数名の医師にも診察して貰ったが同じ答えであった。ただ……」
「それなら、ジークの薬が効いたのはどう言う事なんですか? 病気であるなら」
ラング自身もアンリの病状が気になるようで口の固い医師にアンリの診察を頼んでいたようであり、首を横に振る。
エルトはジークの店から持って帰った薬でアンリが復調の兆しが見えた理由がわからないと声を上げた。
「それに関しては、アリア=フィリスの血としか言えんな」
「アリア=フィリスって、ジーク、おばあちゃんよね?」
「少なくとも、俺が知ってるのその名前はばあちゃんしかいないな」
ラングはエルトの疑問に『アリア=フィリス』と言う1人の人物の名前を挙げる。その名前はジークとフィーナには聞きなれた名であり、ラングの口から出た名前に顔には戸惑いの色が現れる。
「……ジーク、どう言う事だい?」
「いや、どう言う事だって、言われても正直、困る。俺も意味がわからない」
エルトはジークに問いかけるが、ジーク自身も祖母の名前を出されて意味がわからないようであり、首を傾げる事しかできない。
「ほう。わからないで、薬屋を続けていたと言う事か、リック=ラインハルト。お主は医師でありながら、それを教えていないとはなかなか、性根が悪いではないか?」
「そう言われても困ります。ジーク自身、知らずに使っているのですから、それにそのようなものに気づくような事は今までありませんでしたから」
ラングはアリアの名前を聞き、戸惑っている3人の姿に楽しそうに笑うと、全てを知っているにも関わらず、ジークに何も教えていないリックへと視線を移した。
リックはその視線に大きくため息を吐くが、その言葉にはジークの知らない何かが彼の中にあるのがわかる。
「ジーク、あんた、何してるの?」
「何と言われてもさっぱりだ」
ジークはリックとラングの中でまとまっている話しに意味がわからないようで両手を組み、頭をひねった。
「セス=コーラッド。お主はアリア=フィリスの名を知らないか?」
「い、いえ。あの……ジーク、本当にあのアリア=フィリスの血を引いているのですか?」
ラングはアリアの名前に目を白黒させているセスを見て、イタズラな笑みを浮かべて彼女に話を振ると、セスは慌ててジークにアリアとの関係を確認する。
「えーと、少なくとも俺は血を引いてると思うけど」
「……なぜ、何も知らないのですか?」
「知らないのですかって言われても、俺にとって、ばあちゃんはばあちゃん以外の何物でもないし」
ジークの返事にセスはがっかりだと言いたげに大きく肩を落とすが、彼女の態度はジークに取っては納得のいかないものであり、不機嫌そうな表情をする。
「セス、ジークの祖母はそれほど高名な方なのかい?」
「はい。高名と言いますか……まずは薬の調合師としては王都まで名前が知れ渡っている方です。それ以外にも彼女の調合する薬はかすかですが、魔力を帯びているのです。その魔力は呪術と言った魔族の悪しき魔法を跳ね返す力があったと言われています」
「ジーク=フィリスはその力を引き継ぎながら、無自覚にその力を使い薬を調合していたと言う事だ」
エルトの疑問にセスは答えるが、ジークはアリアから薬の調合方法は教わっているものの、祖母の持っていた能力にはまったく心当たりがないようで眉間にしわを寄せており、ラングは彼の様子に苦笑いを浮かべた。