第254話
「……入れ」
「ラング様、ルッケル領主名代リック=ラインハルト様をお連れしました」
セスの案内で廊下を歩いていると目的の部屋の前に到着する。セスは部屋のドアをノックすると中から低い声で返事があり、セスはドアを開けると、1度、部屋の主に頭を下げ、アズの名代であるリックの名前を上げた。
「……なぁ、俺達、こう言う時の礼儀作法とか、まったく知らないんだけど」
「別に気にする事じゃないよ。叔父上はそんな事でグダグダ言うほど、細かくはないよ」
セスの様子に後ろで控えているジークはどんな態度を取って良いのかわからずに、小さな声でエルトに助けを求める。
しかし、ジークの心配などまったく気にしていないようで、エルトはジークの疑問に返事をするとずかずかと部屋の中に入って行く。
「良いのか?」
「知らないわよ」
「リック様、ジーク、フィーナ、こちらへ」
エルトの姿にジークとフィーナは顔を引きつらせるが、セスは3人を部屋の奥へと案内する。部屋の奥には大柄の男性が待っている。男性はただそこにいるだけだが、異様な威圧感を持っており、その男性が現国王を名実ともに支えている王弟『ラング=グランハイム』だとわかる。
「ラング=グランハイムだ。エルト、ライオが世話になっている」
「リック=ラインハルトです」
「堅苦しいのは、ワシは好まない。楽にしてくれ」
部屋の中央にはジークが見た事のない豪勢なソファーが置かれている。ジークは落ち着かない様子で部屋の中へと視線を向けているとラングとリックは形式的に挨拶を行うが、ラングは緊張する必要はないと言い、ソファーに座るように言い、その言葉に従い、ジーク達はソファーに腰を下ろす。
「それでは、私は」
「セス=コーラッド」
「失礼します……」
セスはこの場にいるのは場違いだと判断したようで、退室しようとするが、ラングは鋭い視線で彼女の名前を呼ぶ。
セスはラングの様子に逃げられないと思ったようで、頭を下げると遅れてソファーに座った。
「すまないな。ルッケルからの使者と言う事で、本来なら、兄上に謁見して貰う筈だったのだが、エルトとライオが裏でおかしな事をしている事あり、ワシが話を聞く事になった」
「いえ、頭をあげてください」
ラングは国王の代わりに自分が対応する事になった事を謝罪し、リックはラングに頭を下げられた事にどうして良いのかわからないようで、ラングに頭をあげるように頼む。
「叔父上、リック先生も困っていますし、話を戻しましょう」
「エルト、お主が言うな。この者達を巻き込んだのはお主であろう」
「叔父上、それは違いますよ。今回の件に関して言えば、始めたのはジークです」
エルトはリックへと助け船を出すが、ラングはエルトを叱り付けようと視線を鋭くする。
ラングの視線に臆する事無く、エルトは原因はジークだと言い切った。
「……ジーク、結局、あんたが原因なんじゃないのよ」
「俺じゃない。始めたのはライオ王子だ。だいたい、なんで、首謀者がいないんだよ」
エルトの言葉に状況がまったくわからずに、この場所まで連れてこられたフィーナはジークを睨みつける。ジークはこのままでは自分が首謀者にされてしまう事もあり、ライオがいない事に肩を落とす。
「そうか。今回の事を企てたのは、お主か? ジーク=フィリス」
「は、はい!? 申し訳ありません」
ラングはジークへと視線を移し、その視線にジークは慌てて頭を下げる。
「別に責めているわけではない。頭をあげよ。どうせ、途中で、エルトが悪ノリを始めたのであろう」
「そんな事はありませんけどね」
ラングはジークに頭を下げる必要はないと言い、原因をエルトだと決めつけているのかため息を吐く。
しかし、エルト自身は自分は悪くないと思っているのか苦笑いを浮かべている。
「アンリの事を心配してと言う事だからな。責める気にはならんが、裏でこそこそと動かずに言うべき事はしっかりと言う事だな。だいたい、そんな真似はお主らしくない」
「まぁ、そう言うのはカインの役目と言った感じではありましたからね。セスはそう言うのには向きませんから、それならと」
ラングもエルトとライオが妹であるアンリを心配しての行動であったためか、責める事もできないようであるが、エルトの行動を次代の王としての行動ではないと思っているようで語尾を強めるも、エルトはカインがいないため、その分を埋めようとした事を告げた。
その言葉はエルトがカインを信頼している証拠である。
「そうではない。お主が言った通り、セス=コーラッドには不向きだ。だが、現状で、セス=コーラッドがそばに仕えている事はお主が腹芸を好まずに真摯に多くの者の意見を受け入れる事を学ばせる意味もあるのだ」
「待ちなさいよ。それは、あのクズが要らなくなったから、地方に飛ばしたって言うの!!」
ラングはセスがエルト付きになった理由を話し、エルトに自重するように言うが、その言葉をフィーナはカインが不要だと聞き取れたようで、勢いよく立ちあがり、ラングに喰ってかかろうとする。
「フィーナ、落ち着け!?」
「……そうだとしたら、どうするのだ?」
フィーナの行動にジークは慌てて、彼女の腕をつかむ。ラングは何かを弁明する気などないのか、彼女を挑発するように言う。
「気に入らないわ!?」
「落ち着け」
ラングの挑発にフィーナは相手が王弟など関係ないと言いたげに、ジークの腕を振りほどき、ラングに飛びかかろうとするが、リック彼女の頭の上にげんこつを落とし、フィーナは頭を両手で押さえてうずくまる。
「リックさん、何をするのよ!!」
「挑発に乗るな。まったく、ラング様も人が悪い」
「そう言わないでくれ。確かにカインの言う通りの娘だ。あの男の人の見る目は正しいな」
フィーナは予想していなかったリックからのげんこつに涙目になりながら、リックに文句を言うが、リックはラングが考えがあってフィーナを挑発したと思ったようでため息を吐くとラングへと視線を移す。
リックが思った事は正解だったようで、ラングはカインからフィーナの事を聞いていたのか彼女の様子に楽しそうに笑っている。