第253話
リックはアズの顔を立てなければいけない事もあり、しぶしぶ納得してくれ、謁見の日にジークとフィーナはエルトが引きつれてきた騎士に拉致されて王城まで連れて行かれる。
「……何で、俺がこんな格好をしなきゃならないんだよ?」
「こっちのセリフよ。いきなり、ジークの店に呼ばれたと思ったら、王都まで拉致ってどう言う事よ?」
「2人とも似合うじゃないか」
王城の1室で、ジークとフィーナはなれない高価な鎧を身にまとい、ため息を吐くと2人の鎧を用意したエルトは楽しそうに笑っている。
「それで、これってどう言う事よ? まったく状況がわからないんだけど、説明しなさいよ」
「俺だって、聞きたいよ」
「いや、流石にルッケル領主名代に従者が1人もいないのはおかしいだろ。アズに用意して貰おうとも思ったんだけどさ……ちょっと、面倒な事になってね。リック先生と繋がりのある2人を指名したわけだよ。まぁ、ノエルは流石に問題あるから、外させて貰ったけど」
フィーナはジークの胸倉をつかみ、説明を求めるが、ジーク自身も王城にくる事は予想外だったようで首を横に振る。
エルトは2人の姿に苦笑いを浮かべるとアズの名代のリックの従者として2人をあてがう事を説明した後、何かあったのかジークから視線を逸らす。
「面倒な事って、これ以上、何があるんだよ?」
「ちょっと、待ちなさい。アズさんの名代がリックさんって、どう言う事よ? 何でリックさんがそんなものになれるのよ?」
エルトが面倒事と言う事がジークの不安をあおり、彼の眉間にはくっきりとしたしわが寄るが、フィーナはリックがアズの従兄であり、先代領主である事を知らないため、意味がわからないと頭をかく。
「そこは気にするな。いろいろとあったんだよ」
「そうだね。ちょっと、一言で言い表せない事があってね」
「そんな簡単に済ませようとするんじゃないわよ!!」
フィーナに1から説明しても彼女が理解できるかが怪しいため、ジークとエルトはいろいろ有ったと言葉を濁すが、フィーナが納得できるわけもなく、声をあげる。
「フィーナ、少し静かにしていろ」
「リ、リックさん、何その格好?」
「……言うな。こんな肩がこる格好はもうする事はないと思っていたんだがな」
その時、ドアが開き、正装に着替えたリックが部屋に入ってくる。フィーナは普段、リックの白衣姿しか見ていない事もあり、見慣れないリックの姿に驚きの声を上げ、リックはフィーナの反応以上に自分自身も似合わない格好をしていると言いたげにため息をついた。
「リック先生は着なれないと言っても、様になってるね」
「……誉められている気はしないがな。それで、王様への謁見はどうなっているんだ? 診療所に患者が来ないとも言えないからな。早く、ルッケルに戻りたいんだが」
「あー、それなんだけどね」
リックは他の医者にルッケルを留守にする間の事を頼んではきたものの、患者がいつ来るかわからない事もあり、早めに謁見を済ませたいのが本音である。
エルトはルッケルの民に迷惑をかけている事にも自覚があり、困ったように笑うがリックの質問に直ぐに答えられないような状況になっているようで、視線を逸らす。
「そうだ。面倒な事って、これ以上、何があるんだよ?」
「面倒な事?」
エルトの様子にジークは彼が言葉を濁していた事を思い出し、リックはこれ以上何があるのかと言いたげに眉間にしわを寄せる。
「えーとね。私達が裏で動いている事が叔父上にばれた」
「バ、バレた?」
言いにくそうにエルトはエルト達の叔父であり、現国王を名実ともに支えている『ラング=グランハイム』にばれたと言い、笑い事では済まされない状況にジークとリックの顔は引きつって行く。
「いやね。セスが転移魔法を使ってルッケルやジオスに行っている事がばれてしまってね。セスが叔父上に捕まってしまったんだよ。そして、叔父上からのプレッシャーに耐えきれなくなって白状してしまったんだよね」
「笑い事じゃないだろ!! なんだ? 王城に俺達が呼ばれたのは処分を受けるためか?」
苦笑いを浮かべて、ラングに作戦が知られた時の状況を話すエルト。ジークは下手をしたら、何か処罰を受けるのではないかと思ったようで顔を真っ青にし、エルトへと詰め寄る。
「処罰は流石にないよ。私とライオの頼みでジーク達は動いてくれたわけだし、ただね。叔父上が、フィリス夫妻の子息であるジークとカインの実妹であるフィーナに興味を持ってしまってね……と言う事で、頑張ってくれるかい」
「それ、詰んでるだろ!! ど、どうするんだよ。逃げるか?」
エルトはジークから、上手く距離を取るとラングがジークとフィーナに興味を持った事を告げるが、現状で言えば王に次ぐ実力者からのご指名であり、何が起きるかわからない状況にジークは狼狽しているようで懐から転移の魔導機器を取り出す。
「1人で逃げようとするな。現状で言えば、お前はラング様からの指名で呼び出されたんだ。別に処罰されるような事もしていないだろ」
「……主にシュミットをバカとか小物をか言っている罪で」
「それに関してはもう仕方ないんじゃないかな?」
「バカにバカって言ったって、問題ないでしょ。それより、あのバカの親が出てくるなら、被害を受けたのは私達なの。謝らせるべきよ」
リックはため息を吐きながら、ジークの手から魔導機器を取り上げる。ジークは直接の面識はないもののルッケルでシュミットをバカ扱いしていた事が親であるラングにばれたのではないかと思っているが、フィーナは自分に非がない事もあり、ラングにシュミットの事を謝らせると言い放つ。
「フィーナ、男らしいね」
「何よ? 悪い事をしたら、謝るのは子供でも知ってるわよ。子供が謝らないなら、その保護者が謝るべきでしょ?」
「……できない代表が良く言えるな」
「まったくだ」
フィーナは迷う事無く言うが、いつも他人に迷惑をかけて謝罪の1つもしない彼女が言っても説得力などまるでなく、ジーク、エルト、リックの3人は微妙な表情をする。
「何よ?」
「いや、もう良い。何か、酷く疲れた」
「エルト様、ラング様がお呼びです」
フィーナは3人の様子に怪訝そうな表情をした時、セスがドアをノックし、ラングの準備ができた事を告げた。
「それじゃあ、行こうか?」
「……あぁ」
エルトは3人に声をかけるとジークはこれから何が起きるか不安なようで眉間にしわを寄せながらも頷く。