第251話
「それでは、ご説明させていただきます」
「お願いします」
セスに視線が集まり、彼女は1度、頭を下げた。ノエルはセスの顔をじっと見て、彼女の口から出る次の言葉を待つ。
「……あの、そこまで見つめられると話しにくいんですが」
「す、すいません」
ノエルの視線にセスは苦笑いを浮かべると、彼女は慌てて頭を下げる。
「それでは改めまして、現在、ルッケルは地震の影響で王都からの支援を受けている状況です」
「そうなのか?」
「はい。先日のルッケル復興イベントの後も引き続き、支援をいただいています」
セスはルッケルの現在の状況を確認して欲しいとおもったようで、現在も王都からの支援が続いている事を話すとジークはカインが計画した復興イベントだけで支援は終わったと思っていたようで首を傾げる。
アズは自分1人でルッケルを復興できない事を申し訳なく思っているのか気まずそうに笑う。
「鉱山都市は鉱山が使えないと収入が無くなってしまうから、仕方ないと思います。カインの魔術学園の友人が新しい事業も提案してくれているみたいだけど、まだ、結果が出るころではないだろうし」
「新しい事業って、ミミズ肉じゃないだろうな?」
「カインさんから食用になるとは聞いてましたけど」
ライオはカインが友人達にルッケル復興に力を貸してくれている事を話すが、ジークとノエルはカインが話していた1つの提案を思い出して顔を引きつらせる。
「それは、ルッケルでは今まで食べていなかったのでやはり抵抗もある人が多いので私達の口には入りませんが……輸出という形で」
「食用になってるのかよ!?」
「他の地域では普通に食べているところもあるから、購入先はあるよ。王都でも買い取る店が何件かあるしね」
ジークとノエルの反応にアズは苦笑いを浮かべて、ミミズ肉を売っていると言い、ジークはその事実に声をあげた。
エルトは彼の反応に食文化の違いがあるから、そこまで、驚く必要はないと思っているようで苦笑いを浮かべた。
「巨大ミミズの発生がいつまで続くかわかりませんが、しばらくは安定した収入が認められると思われます。また、ミミズは大地を豊かにするとも言われていますので、農作物の栽培にも力を入れて貰おうと思っています」
「ジークが転移魔法の魔導機器で王都やワームまで移動できるからね。輸送費や移動が楽になったから、助かるね」
「待った!? どうして、俺が運ぶ事になってるんだ!?」
セスは自分が聞いている長期的なルッケルの事業に農耕も視野に入れていると答える。エルトはジークの持っている魔導機器が使えると判断したようで、ルッケルの復興に彼を引っ張り出そうとしているようで口元を緩ませるが、ジークは聞いていないと声を上げた。
「なんだい? ルッケルの人達が困っているのにジークはその人達を見捨てるつもりかい? ジークはルッケルと定期的な薬の購買契約をしているんだ。自分さえ良ければそれで良いのかい?」
「べ、別にそんなわけじゃないけど」
「ジークさんは協力するに決まってます!!」
「まぁ、協力はするけどさ」
ジークの様子にがっかりだと言いたげにため息を吐くエルト。ジークはこれが彼の手だと理解できているようで眉間にしわを寄せた時、ノエルが力強く答えるとジークはノエルの一言が最後の一押しになったようで頷く。
「エルト様は、ジークを上手く使う方法を心得ているみたいですね」
「カインから、ジークを上手く使いたいなら、ノエルを落とせって聞いてるからね。惚れた男の弱みを突けって」
「これ、そんなに積載量があるかもわからないんだぞ……」
ジークが頷いた様子にアズは苦笑いを浮かべると、エルトは口元を緩ませるが、ジークはそこで否定するとエルトが調子づいて、また、ノエルとの間の事で仕掛けてくると思ったようで、魔導機器を見てため息を吐く。
「そこら辺は徐々に試してみるしかないんじゃないかな? それなら、カインと一緒にそれを作っていた研究者のどれくらいのものが運べるか聞いておくよ」
「……悪いけど、お願いする」
ジークの心配事はライオが調べてくれると言い、その言葉にジークの逃げ道は完全に潰される。
「話を戻しましょう。現状で言えば、ルッケルは王都の支援なしでは財政を保つ事が出来なくなっています。これだけの支援を受けている事もあり、アズ様からは定期的に報告書を王都に提出していただいております。本来なら、このような場合は領主自ら、王都に足を運んでもらい、王への支援に対するお礼を述べるなどしなければいけないのですが、アズ様はこれと言った身内もないようなので、領主がルッケルを不在にする事は領地運営的にもあまり良くないと判断されています。そのための特別処置です」
「そんな特別処置があるのか?」
「カインが復興イベント前に無理やり認めさせたそうです。反対意見も出ましたが、鉱山が機能している時のアズ様の統治能力は以前からも王都でも評価されていました。復興イベント時にアズ様が抜けると復興イベント自体が成り立たなくなる事も考えられ、復興イベントもいくつかの問題点はありましたが、成功を収められた事もあり、報告書の内容も納得がいくものであったため、引き続き報告書の提出で支援を継続している状況です」
セスは現在のルッケルへの支援は特別処置でもある事を告げる。ジークとノエルはあまりかかわりのない政治の話に理解できていないようで首を傾げている。
「なるほど、セスはリック先生をアズの名代として、1度、王都で父上にお礼を述べに来てもらうって事だね」
「はい。その時にリック先生が医師である事を王に報告し、エルト様、ライオ様お2人からの進言があれば、もしかしたらですが、リック先生がアンリ様を診察する機会がいただけるかも知れません。ただ、可能性はあまり高くはないかも知れませんが」
ライオはセスが何を言いたいのか合致が行ったようであり、ポンと手を叩くとセスは希望的なものは多いがリックがアンリを診察する機会が与えられると言う。
「リック先生がアンリ王女の診察ですか? それはいったいどう言う状況なんですか? 体調を崩されているとは聞いていますが、王都には名医と言われる医師も多いと聞きますが」
「いや、恥ずかしい話なんだけど、王室に抱えている医師達の実力を調べたくてね。アンリを長く診察している者が居ても、体調が優れないんだ。もしかしたら、単純に力不足かも知れないし、アンリのためにも1度、他の医師に診察して貰いたいんだよ」
話の合点が行っていないアズは首を傾げると、エルトは苦笑いを浮かべて、王室内の医師達の能力を確認したいと言う。
「それなら、王都で名声を浴びている医師達に診察を頼むべきではありませんか?」
「王室の医師達がそれを許さないだ。領主の血縁であるリック先生ならと言うわずかな可能性にかけてみたいんだよ。アズ、協力してくれないかい?」
「それは、エルト様とライオ様にそこまで言われては協力しないわけにもいきませんが、リック先生本人が何と言うか」
アズはエルトとライオに頭を下げられては反対する事などできず、判断をリックに丸投げしてしまう。